第24話 ミケの秘密

 ─そして、俺はしみじみと思う。

 「今思い出してもあの頃のミケは可愛かったなぁ…。モフモフで目はクリクリ…そして何より…スレてなかった!」

 と、かいたあぐらの膝をポンと叩いた。

 「おじさん、とーちゃんは『かわいい』じゃなくて『カッコイイ』んだよ!」

 虎毛がぷんスカしながら言った。

 「そりゃ、おめぇさんたちが今のミケしか知らねぇからだろ?ミケにだって子供の頃はあったんだよ。」

 と、笑いながら虎毛の頭をポンポンと撫でる。

 そして、「よっこいしょ」と、立ち上がる。

 「おじさん?どうしたの?」

 とチビミケに聞かれて俺は答える。

 「厠だよ。それと、おめぇさんたち腹減らないか?」

 と、聞くと、三人は嬉しそうに

 「「「減った!!!」」」

 と言ったので俺は部屋から出た。


 俺は厠の扉を開ける。

 実は子供ミケと会った後ちょっとした重要な話がある。

 だが、これはミケも知らないし、ミケの子供達にも話すわけにはいかない。

 ミケが、「子供たちにも自分の身の振り方は自分で決めさせる」と言っている以上、その『教育方針』を曲げるような事は言わないほうがいいからだ。


 俺は厠から出ると台所で三色だんごとお茶を注ぐ。


 ミケが言っていた通り、俺は子供ミケと別れた(逃げられた)後、ミケの母親と会っている。

 そしてその時点で『ミケの呪い』は解けているのだ。


 ─延暦寺の参道も残りわずかだった。

 寺の炎は轟々と空を染め上げていたが、それに混じって球体の発光体がいくつも浮かんでいて、それらは1か所に集まっていった。

 その発光体は人の目には見えないが死んだ人間の『魂』の姿だ。

 本来ならこの『魂』達はすぐに『あの世』へ送られるから、こうして浮遊する事はない。

 この現象が起こると言う事は『魔王召喚』が『正しいやり方』で『行われてる』証拠だ。

 「こりゃあ、まじぃな。」

 本気で止めなけりゃならなくなりそうだ。

 そして残りの参道を駆け上がってる時、その女は現れた。

 裸で全身血だらけだが、体から金色の光を放っていた。

 その女はフラフラと俺の前まで来ると倒れ込んだ。

 「おい、おめぇさん!大丈夫かい?!」

 俺はその女を抱えた。

 「お…侍様…ですか…?」

 と、女は息絶え絶えに言った。

 俺はこの時何を言ってるのか分からなかった。

 何故なら、この女は『天界の住人』であるのは明白だったからだ。

 「何を言ってる?おめぇさんと同じ『天界の住人』だぞ?分からねぇのか?」

 『天界の住人』たちは『天界の住人』が分かる。

 『転勤』で『人間界』に来ていても、それは分かるはずのだな。

 『力』が使える者ならば、人間で言うところの『オーラの色』と言うものが見えるはずだからだ。

 そして、この女は『天界の住人』の証である『黄金のオーラ』を纏っている。

 間違いなく『天界の住人』だ。

 「私には…私の一族には…呪いが…『神の呪い』が…かって…。」

 女は荒い息遣いで言った。

 「『神の呪い』?ってこたぁ、おめぇさん…『お猫様』か?!」

 俺の声に、女は

 「お猫様…とは…一体…何なの…でしょう?私…たちは…神に…『呪われる』程…忌まわしい…存在なのですか…?」

 涙を流しながら俺に手を伸ばしてきた。

 「私…が…どんな…存在なのか…分かれば…一族に…かけられた呪いは…解ける…そうすれば…あの子は…きっと…幸せに…!」

 女は涙ながらに訴える。

 「私は…まだ…自分が…何者か…分からない…!だから…あの子のためにも…死ぬわけには…あの子を…呪いから…守らないと…!」

 女の必死さに俺は笑って答える。

 「おめぇさんの一族は忌まわしい存在なんかじゃねぇよ。かけられた『呪い』もただの『神のいたずら』だ。」

 「!?なぜ…そんな事をし…知っ…て…?」

 女は目を丸くした。

 「おめぇさんたち一族の『飼い主』に聞いたんだよ。そして、『探して連れてきて』ってな。『呪い』の話も聞いてる。」

 俺が女の首元を優しく撫でると、女は纏っていたオーラが収縮され『猫』になった。

 『化け猫族』は『猫が力を持っている』から『猫の時にオーラ』を纏うが、『お猫様』は『人の時にオーラ』を纏うのだ。

 そして『お猫様』は『何の力もないただの猫に化ける』と言うのが力の1つだ。

 そして、さっきすれ違った仔猫が女の子供だと分かった。

 「おめぇさんは、正真正銘『天界の住人』。福の神の流れを組む『招き猫族』。『福を招く幸運の猫』だよ。心当たりあるだろ?そして全知全能の神『ゼウス』の飼い猫だ。」

 まぁ、その嫁のドレスにお粗相して『お仕置き』されたのは黙っておこう。

 それを聞いた傷だらけの三毛猫は

 「そう…だったのですね…。でも…私にそ…れを…教えて…あなたも…呪われ…ませ…んか?」

 「俺は『神族の一人』でヴィリー・キサラギだ。おめぇさんの『飼い主』のゼウスが許してるんだ。俺が呪われるこたぁねぇよ。」

 と、俺が笑って言うと、猫も嬉しそうに笑った(様に見えた。猫だから表情が分からねぇが。)

 「だから安心して天界に帰れ。」

 と、言うと、三毛猫は

 「いいえ…私にはまだ…やる事が…あります…。あの子を…守らないと…!あの子を守るのは…私が…!」

 と、立ち上がろうとする。

 俺は慌てて

 「よしな!あんまり動くと傷が…!」

 と制すが三毛猫は言うことを聞かない。

 「あの子…を『天の門』…連れて行って…あげないと…!私が…行って…!」

 「安心しろ。その『呪い』が解ければ『天の門』もくぐれるし、『力』も使えるはずだ(場所と使い方が分かれば)。」

 俺は女猫を抱き直し

 「さっき、おめぇさんの子供と会ったぜ。やんちゃなお坊ちゃんだな。元気に俺の鼻に猫パンチしてったぞ。」

 と、子供ミケに引っかかれた鼻を指差した。

 「だから安心しろ。俺が見つけて天界へ連れてってやるから。」

 と、言うと猫は涙を流しながら

 「ありがとう…!ありがと…!もう一つ…お願い…。あの子に…伝えて…。強く生きて…自分で…道を見つけて…歩いて行ける様に強く…!人生を…生き…抜く強さを…!」

 と、言うと猫の体から力が抜けて…。


 ─お盆に団子を乗せた皿を置く。

 そしてお盆を持って台所を出る。

 そう言う訳だから、ミケもまた『招き猫族』。

 招き猫の化身ってこった。

 『猫の姿で顔を洗えば福を招く』。

 まぁ、ミケは今だにその事を知らねぇから、何も知らずに今も福を招きまくってる。

 「ミケは今元気に生きてるぞ。しかも子供まで連れてきやがった。おめぇさんももう『ばぁちゃん』だな。」

 と、誰に言うわけでもなく呟いて笑った俺は、三人が待つ部屋に入ると

 「ほら、団子だ!うめぇぞ?」

 と言うと三人は

 「「「団子好きー!」」」

 と、団子を取り合っていた。

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