第20話 神様からのご依頼

 「人間界行ってくんない?」

 と、ジジィは言う。

 「は??」

 と、俺は言う。

 「は?じゃなくてさ、人間界行ってほしいんだよ。」

 と、ジジィはまた言う。

 「だからなんで俺がそんなめんどくせぇとこ行かなきゃなんねぇんだよ。」

 俺は目の前にいるジジィに毒づいた。

 呼び出したと思ったら突然「人間界行って」とか意味わからん。

 「でもさぁ?君しかいないんだよねぇ、ヒマしてる神族。この間『神職』干されたんだし。」

 俺よりも3倍はありそうな図体のジジィは、ご自慢の白くて長い顎髭をいじりながら笑いながら言う。


 ─因みに『神職』とは『神様の役職』のことだ。

 『愛の女神』とか『全知全能の神』とかいるだろ?

 その『〇〇の神の職』って事だ。


 俺は「うっ…」と、言葉に詰まる。

 「それに君、人間界好きでしょ?適役じゃない?」

 ジジィは口ひげと同じくらい長い眉毛を指でクルクルしながら言う。

 そりゃ『こっそり』行くのは好きだけど。

 「俺はめんどくせぇのは嫌いだし、束縛なんて以ての外。人間界は制約が多すぎるからめんどくせぇ。」

 俺は腕を組んで断ったが

 「でもねぇ、君、今無職でしょう?それって神族としてどーなの?」

 と、ジジィは回りくどい圧力をかけてきた。

 俺はまた「うっ…」と言葉に詰まる。

 「とりあえずさ?話だけでも聞いてみない?」

 ジジィは今度は自分のハゲ頭を撫でながら言う。

 このジジィの「話だけでも聞け」は宛にならない。

 絶対「話だけ」にならないから質が悪い。

 それは「命令」になるんだよ。

 何故かって?

 「あー、もう…!分かりましたよ!全知全能の神ゼウス様!何なりとお申し付けください。」

 俺は嫌味たっぷりに普段使わない敬語なぞ使って頭を下げた。

 そう、このジジィは「全知全能の神ゼウス」。

 天界の支配者で全神族の長だ。

 誰も逆らえない。

 でも俺は逆らう。

 無駄だと分かってても逆らう。

 それがオレの本質ジャスティス!だからだ。

 「何か、君が敬語とか気持ち悪いんだけど…まぁいいや。」

 ジジィはニコニコしながら話しだした。

 「あのねぇ、今人間界に『織田信長』って子が居るんだけどね、その子が『魔族の力』を借りてでも何かしようと企んでるらしいんだよ。」

 俺は腕を組んだまま、ほくそ笑んで

 「ほう…?面白いじゃねぇか。やらせときゃいい。」

 と言うと、ジジィは肘をついて顎を支えた。

 「そうなんだけどねぇ?『魔族』が力貸しちゃったら『人間界不可侵条約』に反しちゃうし、『時の神』にも怒られちゃうんだよ。困っちゃうよねぇ。」

 ジジィは「はぁ」とため息をついた。

 「まぁ、確かに。」

 「だからね、君には人間界行って織田信長君を監視してて欲しいんだよ。そう簡単に魔族も力を貸すとは思えないけど、『召喚』でもされたら面倒だから、もしそうなったら事前に揉み消して欲しいんだ。」

 ジジィは両手をモミモミして「儲かりまっか?」と言い出しそうな仕草をする。

 俺は「はぁ…。」とため息をつきながら頭を掻いた。

 「んで、監視する期間は?」

 「今からだと…人間界時間で11年。」

 ジジィは片手で『1』を、もう片方で『1』を出す。

 「はぁ????」

 俺は眉を吊り上げて言う。

 「天界時間だと1ヶ月位、ちょっとの期間だよ、『ちょっと』。」

 ジジィは今度は右手の親指と人差し指の隙間で『ちょっと』を表現した。

 確かに神族にとって11年なんて『ちょっと』だが、『11年間の長さ』はどの種族も変わらねぇんだよ。

 「長すぎる!却下だ、却下!てめぇで行けよ!」

 俺は拳を握って断固却下の意志を示すと

 「うん、それでもいいけど、その代わり儂の1ヶ月のスケジュール代わってね?魔王と先代魔王との会議の予定あるし、先代魔王との懇親旅行、それから神々とのゴルフコンペに『神無月』。宜しくね?」

 ジジィは首を少し傾けて可愛くニコッと微笑む。


 ─…かわいくねぇ!むしろ気持ちわりぃわ!


 げっそりしながら

 「そっちの方がめんどくせぇじゃねぇかよ!」

 と、叫ぶと

 「じゃ、人間界行ってくれるの?ありがとう!」

 と、ジジィ。

 いつもこうやってジジィの口車に乗せられるのだ。

 俺は大きなため息をつきながら

 「はぁぁぁぁ…分かったよ、行くよ、人間界。」

 と、渋々了解した。

 ジジィは「ホッホッホッ」とご満悦だったのだが、急に真面目な顔をした。

 「それからなんだけど。君、猫派だったよね?儂の頼み聞いて欲しいんだけど?」

 と、妙にしおらしく言ってきた。

 「ああ、猫は好きだが…何だよ?」

 俺はもうこの際何でもやってやるって気分だった。

 「実はね、知ってるだろうけど、うちの嫁猫キライじゃん?」

 俺は右の小指で耳の穴をほじりながら

 「ああ、そうだな。それで?」

 と、ぶっきらぼうに言う。

 「実はうちのお猫様がさぁ、嫁の大切にしてたドレスに『けろんちょ』しちゃったんだよ。」

 ジジィは右手と左手の人差し指立ててを『ツンツン』しだした。

 だから、かわいくねぇって。

 「まぁ猫は吐く生き物だからな、そりゃ災難だったなぁ?」

 俺は耳に突っ込んでた指を引っこ抜いて『ふっ』と吹きかけた。

 「そしたらさぁ…嫁が激怒プンプン丸で…猫を追い出しちゃったんだよ。」

 ジジィは『ツンツン』を辞めない。

 「猫キライな人ならしょうがねぇよな。今まで良く我慢してたな。追い出したんなら探しゃいいじゃねぇか。天界にいるんならすぐ見つかんだろ。」

 と、俺はもう完全に興味がなくなっていた。

 「いや…それがさぁ…。『天界』から『人間界』に落としちゃったんだよ。しかも『呪い』かけて。」

 「はぁぁ?!」

 と、俺は素っ頓狂な声を出しちまった。

 何故なら

 「ジジィんとこの猫ってお猫様だろ?やべぇ事になるじゃねぇか!歴史変わっちまうぞ?!」

 と、言う事なのだ。

 なるほど、ジジィがツンツンするのも納得だ。

 「そうなんだよ…しかもかけた『呪い』がさ…『自分の正体を自分で見つけないと天の門をくぐれない』って呪いだから…多分あの子、自分が何者なのか忘れちゃってるし、知らずに力使っちゃってると思うから…やばいよねぇ?『時の神』に怒られる案件だよねぇ?」

 ジジィはホントに困ってるらしく大きなため息をついた。

 『時の神』は『時間の支配者』故、歴史に関しては『全知全能の神』ですら逆らえない。

 「俺はその猫を探して連れてくりゃ良いんだな?」

 と、俺は察した。

 ジジィは

 「うん、そう。頼まれてくれるかな?」

 と、合掌した。

 俺はジジィに恩を売っておくのもアリだなと思い

 「分かったよ。」

 と、言ってから後悔した。


 ─待てよ?

 お猫様を見つけられるのは『同族』の『普通の猫』や『化け猫族』や『猫又』と言った『猫』だけだ。

 『人型』になってりゃすぐに分かるけど、『猫』の姿で生活してたら俺には区別できねぇじゃん!

 うっわ!めんどくせぇ!

 監視よりめんどくせぇ!


 後悔先に立たず。

 俺は髪を掻きむしった。

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