第511並行世界 サイバースペースとパワードスーツの魔法剣士

 風が流れる。それは足元の草を揺らし、ピジョンブラッドの頬を優しくなでた。

 ふと、ピジョンブラッドは自分の右手を見つめる。手のひらを握って開くのを繰り返し、その感触を確かめる。


「この風も、手の感触もまるで本物のよう。ここがサイバースペース……コンピュータが作ったゲームの世界なんて嘘みたい」


 そう、ここは現実ではない。シーカーゲームス社が開発した、プラネットソーサラーオンラインというサイバースペース型オンラインゲームの世界なのだ。


「サイバースペースとパワードスーツの魔法剣士」より

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893460474


●突出したサイバースペース技術

 第511並行世界は極めてサイバースペース技術が発達した世界だ。第2並行世界からトラベラーが派遣された当時のこの並行世界は2050年だったが、他の並行世界の2050年と比べて、サイバースペース技術が異様に突出している。

 通常、この年代の技術レベルならサイバースペース技術が発明されても大型な設備が必要でかつ高価であった。


 しかし第511並行世界は学生のアルバイト代程度で購入可能なほど、サイバースペース機器が安価に入手できる。

 この並行世界でサイバースペース技術を発明した、ジェームス・スコットという男であり、トラベラーの調査の結果、彼は他の並行世界の知識を取得できるアカシックリード保有者だと判明した。この能力によって、他の並行世界にある様々なサイバースペース技術を得たジェームスは、それによって文明レベルを遙かに超える、高度かつ安価なサイバースペース技術を生み出した。


 ただし、ジェームスにその自覚はない。アカシックリードは一人の例外を除き、通常は能力のコントロールは出来ないので、この超自然技能の保有者は、そもそも自分にそれが宿っているとすら気づかない。そのため、彼は突然アイデアをひらめいたと思っている。


 並行世界調査員の一人であるトラベラーがさらに調査を進めた結果、この並行世界は他よりアカシックリード保有者が多いことが分かった。


 例えばシーカーゲームス社がサービスを提供するプラネットソーサラーオンラインだが、このゲームの世界観を設定したデザイナーもまたアカシックリード保有者だった。

 彼はあるゲーム雑誌のインタビューに対し「プラネットソーサラーオンラインの世界観は夢で見た光景から着想を得ている」と答えている。

 彼はアカシックリード能力により、他の並行世界の文化という知識を夢という形で入手していたと思われる。


 おそらく、樹上多次元世界のどこかに、プラネットソーサラーオンラインの世界観の元となった並行世界が存在するはずである。

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