1-1-3『Que Sera, Sera』II
お母さん……いや、お母様によると、私は街に買い物に出た時に、辻馬車に轢かれて、大怪我を負ったらしい。
……あー。うん。
多分轢かれる直前だろうと思われる、何処かのブティック的なところで癇癪を起こしてるのは朧気に浮かんでくるけれど、何故癇癪を起こしたのかも分からない。
そして、このヴィクトワールと言う少女は実に性格に問題があったようだ。
我儘かつやんちゃ。唯我独尊、
実際にお母様の説明でも、買い物先の商会で自分の思い通りにならず、癇癪を起こして、店から飛び出し、行方不明となって直ぐに裏路地から飛び出して来た所を辻馬車に轢かれ、意識不明のまま、お抱えの医師の元へ緊急搬送されたらしい。
うん。大体は記憶との整合性が取れてるかな?
如何せん、何故辻馬車の前に飛び出したのかと言う記憶は無いが。
結果、右眼眼球破裂の他、腕の骨と脚の骨が折れており、内臓の損傷がなかったのが幸いと言われたそう。
腕と脚は既に行われた外科手術とこれからの回復魔術療法によるリハビリにより数ヶ月以内には完治するとの事。
眼は残念ながら損傷が激しく摘出手術となったらしい。成る程。だから視界が半分しか無いのか。
現在は鎮痛剤が効いている為、幾分マシな様だ。
いやはや、全くもって救いようのない馬鹿だな。このヴィクトワールって言うお嬢様は。
年齢的には小学校中学年程だろうか?
まだ人格形成が不完全な時期とは言え、少し、アレな子供と言う感想。
やっぱり異世界の貴族の子弟ってこんなもんなのかな?
いや、現代日本でも大抵、金持ちの子供は横柄だったわ。
お母様の説明と、断片的に思い出して来た記憶を整理すると、
此処は、中原四大国と呼ばれる大国の一つ、フラヴィア王国の王都カナヴェラルの一画にあるジャイサルメール宮中伯家の本邸で、お母様はこの国の貴族、ジャイサルメール女宮中伯アルレット・ジョルジャ・キトリー・ツー・フェルリ様。母親に様を付けるのはおかしいかな? でも貴族の家長だしなぁ。
そしてジャイサルメール女宮中伯家の家族構成は、先代のジャイサルメール伯爵で現在はお母様に家督を譲っているバルドヴィーノお祖父様とその妻のアストリットお祖母様。
父は同じく中原四大国と呼ばれるアルバローズ帝国の大貴族カルカンデレ公爵ロックウェル家から婿入りした、今は亡きユルゲンお父様。
そして、4つ程歳上の兄である、ルイスお兄様は跡取りとして、ジャイサルメール宮中伯家の付随称号である、モンファルコーネ伯爵を将来的に名乗る事になるらしい。
なんか、名字と爵位名が別々にあるとか、ファンタジー小説みたいだなぁ。
そう言えば、私の好きだったラノベの『Shotover(ショットオーヴァー)』シリーズの作品にもフラヴィア王国ってよく登場してたなぁ……。
…………。
そっかぁ。ショットオーヴァーシリーズの世界に転生したのかぁ……。
…………。
嘘でしょ……。
いや、そりゃ良く異世界転生系のラノベとか好きだし、「異世界行ってみたいなぁ〜」的な独り言は何回も言ったことはあるけど、嘘でしょ!?
マジか……。
そう言えば、小説の描写とかが結構リアルで、ネットとかで「ホントに体験したみたいなリアルな描写がこの作者さんの持ち味」ってレビューとか、作者のナナセ先生も「異世界は存在するのかも知れません」なーんてインタビューに答えてて、面白い先生だなぁ。とか思ってたけど、ホントに異世界あったの!?
いや、まぁ真面目に異世界転生してるってところから現実と乖離してて、話がおかしいんだけども。
痛みはあるから、夢じゃ無いだろうしなぁ。
お母様の説明を聞きながら、そう回らない頭で思案を巡らせてみたものの、結論は出ず。
とは言え、此処で、「私は異世界の記憶があります」って言えば、恐らくおかしくなったと思われるだろうし……。
まぁ、おかしくはなってるんだけども。
んー……。どうしたらいいのかな?
そんなこんなで、話を聞いていると、医者らしき人が到着して、往診が始まる。
医師によると、術後の経過は良好の様で昨日の往診時まであった熱も下がり、手術箇所もこのまま行けば、後遺症も残らないだろうと。
ただし、彼は外科医であり、回復術師では無い為、手術痕や傷痕は消せないとの事。
「お母様。回復術師と医師の違いとは何なのでしょうか?」
多分ゲームとかで言うところのヒーラーとか治癒魔法の事ってのは分かるんだけども、普通の医者は治癒魔法が使えないのだろうか?
「私から説明致しましょう。我々医者や薬師と言った職種の人間は市井に大勢います。しかし回復術師は医術を修めた者に加え魔術師である必要があります。そして、更に魔術師の中でも回復術と呼ばれる魔術を使用出来無ければならないのです。この回復術はかなり特殊で珍しい魔術で、確かに魔術師の努力次第では、習得出来る可能性はあるのですが、先程述べた様に、習得が非常に難しく、一種の才能の有る者や遺伝的なモノで扱える様になる者や、将又、突発的な切っ掛けによって偶発的に使える様になる者等、他の魔術に比べ習得方法が確立されていないのです。かく言う私も勉強はしましたが、習得には至っておりません」
医者がそう順序だって説明してくれる。
うん。取り敢えず、回復術の習得はかなり難しくて、それを使用出来る、回復術師の分母がめっちゃ少ないと言うのは理解出来た。
そして、ゲームとか見たいに、ヒーラーが教会や酒場に行けば仲間になるって程は居ないんだね。
「まぁ
そうお母様は目を伏せて、悲痛とも取れる悲しげな表情を浮かべる。
お母様の言葉通りなら、簡単な治療を治癒魔術で行えるヒーラーはそこそこ市井いるけど、それこそ聖女レベルはやはり数少ないと言った感じだろうか?
逆に言えば聖女の奇跡の様な回復術を使わないと私の怪我は治らないレベルだったって事ですね。
いやはや、転生早々不可避イベントのインパクトが強過ぎるのよ。
まぁヴィルちゃん? は女の子だし、こう言うファンタジー世界の社交界で生きて行くには大き過ぎるハンデだわなぁ。
そりゃ、お母様もこんな表情になるわなぁ。
「そうですか……。ですがお母様。モノは考え用です。確かに私は自身の過ちにより取り返しのつかないハンデを負ってしまいましたが、まぁ案外なんとかなるのではないでしょうか? 幸い右目以外に顔や見える箇所には後に残る様な傷跡はない様ですし、お医者様のお話ですと、日常生活に困る後遺症は残らないとの事ですから。それに脚等の傷はは隠せばなんとかなりますし、まぁなんとかなる様になりますよきっと」
と私は努めて、お母様や周りの使用人達のフォローにまわる。
「ヴィル!! 貴女と言う子は!! ……ヴィル。貴女本当にそれで良いの? 我が家の家風は確かに社交界での付き合いや結婚を重要視する様なモノでは無いけれど、今後大人になって社交界で爪弾きにされる可能性があるのよ? 我が家が悪く言われるのは一向に構わないし、そんなゴシップなんて放っておけば構わないけれど、可愛い愛娘が、社交界の謂れない目と醜聞に晒されて、貴女自信が辛い目に遭うのは、親としてそれは私は耐えられないわ」
そう言って、お母様は私を抱き寄せる。
「イダダダダダ!?」
感動すべきシーンではあるが、抱きしめられた衝撃で、私の全身には激痛が走り、再び意識を手放した。
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