第82話 ルーティーン 前編

 2030年2月28日



「校長! なぜあの男がここに居るのですか!」


 教頭が私に向かって叫んでいる。


 当然と言えば、当然だ。


「毒を以て毒を制す。という所かしらね」


「何が毒なのですか!? ただ毒を入れただけでは!? そもそもキュルスが居なくなったのはあの男が関係しているのでは!?」


「それは考えすぎでしょう……なによりあの男のステータスはキュルス以下です。ただあの子を指導できる人が居ないのです。教頭は彼の成長を止めろと言うのですか?」


「指導ってまさか……キュルスの代わりにSクラスを? 成長が止まっていい訳はありませんが……危険すぎます! あれはただの毒ではありません」


「3月1日からSクラスの副担任となります。教頭先生。協力して頂けませんか?」


「するわけありません! 私は警告しましたからね!」


 教頭はいつもこうだ……もう教頭に魔眼の効果があまりない……魔眼をかけすぎて耐性が出来てしまっているのだ。


 今回の教頭は3年だったか……いい教頭だったが、仕方ない……



 教頭がリスター帝国学校から姿を消したのは1週間後のことだった。



 ☆☆☆


 2030年3月1日


 新入生闘技大会が終わってから俺の生活ルーティーンが決まってきた。


 まず10歳を超えてから俺の体質が変わった。


 MPを枯渇させれば何度でも最大MPが増えていたのだが、1日1ずつしかMPが増えなくなった。


 それにより俺の睡眠時間は1日3時間と固定された。


 この体はMPを枯渇させてから起きれば疲れも全て無くなっているのだ。



 俺の朝は早い。


 3:00に起床してまずランニング。


 1時間で20km走ってから、次は筋トレだ。


 土魔法で作った筋トレ器具で体を苛めまくる。


 6:00まで筋トレをした後にシャワーを浴びてから食堂にご飯を食べに行く。



 この世界にあまり朝風呂、朝シャンという文化はないらしくいつもいい匂いがすると男女問わずに言われるのは朝風呂、朝シャンをするからかもしれない。


 まぁハーレムパーティを率いている以上身だしなみには気を付けないとね。



 寮から学校までは普通に歩いて15分くらいだ。


 あまりにも大きい敷地なので結構時間がかかる。


 朝のホームルームは8:00からなのだが俺は少し早歩きをして7時10分くらいに着くようにする。



 学校に早く着くと俺は生徒会室に顔を出すことが多い。


 アイクに生徒会に入るように言われており、4月から生徒会に入るだからだ。


 本来であれば風紀委員みたいなポジションをとアイクに言われていたのだが、他の生徒会の人がハーレムパーティの主が風紀委員は無いだろうとの事で、当面はアイクの後ろにいつもいる金魚のフンみたいなことをする予定なのだ。



 他の生徒たちは7:45くらいに教室に着く。


 エリーとミーシャだけはいつもギリギリで髪の毛が乱れたまま登校というのも珍しくはない。


 そして今8:00にローレンツが教室に入ってくるとさわやか系で茶髪の知らない男が一緒に入ってきた。


「みんな。おはよう。今日は待望の武術の先生を紹介する。ライナー・オルゴ先生だ」


 さわやかな茶髪がSクラスみんなを見ながら挨拶をする


「初めまして、キュルスの代わりに武術の担当となったライナー・オルゴです。これでも結構武術には自信があるのでなんでも聞いてください。特に女子からの質問を待っています」


 俺はなんとなく引っ掛かってライナーを鑑定してみた。



【名前】ライナー・オルゴ

【称号】剣王

【身分】人族・平民

【状態】呪い

【年齢】33

【レベル】28

【HP】68/68

【MP】1/72

【筋力】32

【敏捷】38

【魔力】18

【器用】51

【耐久】18

【運】0

【特殊能力】槍術(Lv7/B)

【特殊能力】剣術(Lv10/A)

【特殊能力】水魔法(Lv2/E)


【装備】魔剣ブラム

【装備】氷の刃


 なんだこいつ……? 状態が呪いになっている……それに剣王ってことは、こいつは相当強いのか……一番気になるのが、装備だ……剣を装備しているように見えない……それに氷の刃って確かキュルスの装備だった気が……


 装備の魔剣ブラムを鑑定しようとすると急に俺の前に黒と紫の靄が発生し俺の前に真っ赤な刀身の剣が現れた。


 その剣の柄の部分には大きな魔石のような丸い球が付いておりその丸い球がまるで目のような気持ち悪さだった。


「おっともしかして君は鑑定できるのかい? しかしその癖は治したほうがいいよ? 生徒でなければ君はもう斬られているからね?」


 いつの間にかライナーはその剣を握って俺の目の前にいた……何だ? 今のは? 未来視ビジョンで警戒するべきだったか……


「鑑定は使えませんが、ライナー先生をどこかで見たことあるなと思いボーっとしてしまいました。申し訳ございませんでした」


 するとライナーは表情を変えずに


「そうかそうか。ごめんごめん。冒険者の癖が抜けなくてね。でもさっきの行動を先生にはしないほうがいい。無意識に君の首を刎ねてしまうかもしれないからね。それでは武術の時間を楽しみに待っているよ。またね」


 そう言ってさわやか茶髪は部屋を出て行った……完全に首を刎ねられていたな……クラリスが心配そうに俺に話しかけてくる。


「大丈夫? どうしたの? マルス顔が怖いよ?」


「あぁ。あの先生はヤバい……クラリスも絶対に気をつけろ」


 Sクラスはホームルームを終え、授業に入る。


 授業とは言っても今日はまず身体測定をするのだ。


 ちなみに毎日同じ時間割だ。


 午前中座学で、午後から魔法の授業後に武術の授業だ。



 俺は予想外に身長が大きく164cmで62kgだった。


 あれ? 前回計った時は誤診だったのかな? かなり太っていると思うかもしれないが、俺はかなり筋肉質なのでこれでもどちらかと言うと細く見られてしまう。



 俺は1年生で1番身長が高い。


 まぁ10歳で164cmだと日本でも相当大きい部類に入ると思う。



 女子メンバーも身体測定をするのだが、当然別部屋でサーシャに計られている。


 結果を俺の隣で教えあっていた。


 クラリスは身長155cm体重45kg

 エリーは身長160cm体重52kg

 カレンは身長132cmで体重28kg

 ミーシャが身長138cmで体重30kg


  みんな別に隠すことなく男では俺にだけ教えてくれた。


 獣人であるエリーの成長が早いのは分かるが、やはりクラリスもかなり発育がいい。


 神聖魔法使いという事が影響しているのだろう。


 ちなみにエリーとクラリスのおっぱいもかなり成長していることも追記しておこう。


 ちなみに黎明以外のメンバーは


 バロン身長155cm体重50kg

 ドミニク身長150cm体重42kg

 ミネルバ身長141cm体重34kg


 ヨーゼフとヨハンにも聞いたのだが、やんわりと断られてしまった。


 その他フィジカルチェックみたいなことをして午前中が終わった。


 毎日学校の食堂でヨーゼフとヨハンを除く8人でご飯を食べる。


 リーガン帝国学校の食堂は専用の棟があり、3階建てだった。


 1階は1年から5年のEクラスが使い、

 2階は1年から5年のB、C、Dクラスが使い

 3階は1年から5年のS、Aクラスが使う。



 Sクラスがあるのは今の4年生と1年生だけだから3階は200人弱。


 対して1階と2階は1000人近くが集うからかなり混雑する。


 学年によって多少の昼食の時間はずれているが、それでも大混雑だ。



 食事のメニューも違う。


 3階のメニューはかなり豪華なのだ。


 対して1階と2階のメニューは定食屋のメニューと言う感じだ。



 実は俺はご飯だけは1階と2階のメニューの方が好きだったりする。


 3階のメニューは豪華なのだが、味付けが濃く、すぐに飽きるのだ。


 鶏肉とサラダ中心の生活を送りたい俺は我儘を言って、俺専用のランチを作ってもらう事に成功した。



 恐らく3階で出される料理の中で圧倒的に最安値であろう。


 もしかしたら1階、2階で出されるメニューよりも安いかもしれない。


 大盛サラダと卵、鳥胸肉やささ身のさっぱりした味付けの料理とフルーツだった。通称マルス定食。


 そしてマルス定食をアイクも好んで食べるようになると、他の者たちも挙ってマルス定食を食べるようになった。


 それが1階と2階にも伝わり、この学校で1番の人気定食となった。


 おかげでこの学校の給食費はかなり下がったという……ただ痛風にだけは気を付けないと……神聖魔法で治せそうだけど……



 俺たち1年Sクラスのメンバーで話しながらマルス定食を食べていると4年生のSクラスの紅蓮のメンバーが俺の所に走ってやってきた。


 この人はアイクと一緒に生徒会活動もしている人だ。


「マルス、午後の武術の授業気をつけろ。あの新任の先生はやばいぞ」


「こんにちは。急にどうしたのですか?」


「俺たちは午前中に武術の授業を受けていたのだが、グレンがライナー先生に圧倒的にやられてしまった。今は医務室で安静にしている」


 何!? あのライナーという奴はスキルこそ高いが、ステータスは圧倒的にアイクの方が上だ。


 そのアイクを倒すなんてありえない……すると俺たちだけではなく、周りのAクラスの生徒達も驚いて声を上げた。


「真剣でやりあったのですか? アイク兄の傷の程度は?」


 傷が残るようであれば治しに行かねば


「重傷ではないのだが、かなりやられてしまってな。グレンは相当悔しがっている。それからマルスに伝言だ。「攻撃は躱せ。受けるな」との事だ」


 剣戟を結ぶなという事か?


「アイク兄の所に行ってきます!」


 俺が席を立とうとすると


「今はよした方がいい。ポーションや鎮痛剤とか効いて寝始めたところだからな」


「分かりました。教えて頂きありがとうございます。あと授業が終わったらアイク兄のお見舞いに行きたいので今日は生徒会に顔をだすのは、やめておきます」


「分かった。俺たちもそのつもりだ。もしかしたら今日また会うかもな」


 1年Sクラスの午後はいつも魔法の授業の後に武術の授業がある。


 俺たちは昼食を済ませると教室に戻りながらライナーのことを話していた。


「バロン、ドミニク。ライナー先生って有名か? 知っていることがあれば、教えてほしい」


 バロンとドミニクも全く知らないらしい。


 すると意外な所から情報が出た。


「僕は少しだけならしっているよ。ライナーはザルカム王国とリスター連合国を股にかける元A級冒険者らしいよ。実際にA級冒険者かどうかは分からないけど」


 俺にそう言ってきたのは、なんとヨハンだった。


 ヨーゼフと一緒におり、どうやら今から2人も教室に戻るらしい。


「あ、ありがとう。もっと詳しい事知ってる? 知っていれば是非教えて欲しいんだけど?」


「噂話程度でよければ、あるけど……まぁ嘘か本当かは知らないよ?マルス君が自分で判断してほしい」


 俺は黙ってうなずいた。


 そういえば俺はヨハンとこんなに長く話したのは初めてだ。


「ライナー先生の2つ名は【剣狩】ソードハンターその名の通り誰かの名剣をどんな手段を使っても奪うらしい。そのために何人、何十人も人を殺したとか……」


「……ありがとう。とても有意義な情報だった。今度俺に何かできる事があったら言ってくれ。あと話しかけてくれて嬉しかったよ。また話そう」


 俺がそう言うとヨハンは悪びれる様子もなく


「うん。両方とも楽しみにしてる。ただ僕とヨーゼフは色々あるから忙しいんだ。また何かあったらこっちから話しかけるからね」


 そう言ってヨハンは俺の隣から後ろの方に下がっていってしまった。


 気軽に話しかけてくるな……という事か。


 なんか女の子と少し話したら、こいつ俺の事好きなんじゃないのか? と同じような感覚を抱いてしまった。友達になれたと思ったのに……


 教室に戻るとローレンツとサーシャが居た。


 さて午後からの魔法の授業の始まりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る