第5章 少年期 ~リスター帝国学校 1年生 マルスと剣~

第81話 黎明

2030年2月15日


 今日は新入生闘技大会の結果を全校生徒に伝える日だ。


 つまり全校集会が開かれるのだ。



 約2500人の前でスピーチするから当然カレンがするものだと思っていたのだが、俺がスピーチをする事になってしまった。


 カレンが未来の旦那に少しでも経験を積ませたいと言ってきたのである。


 いや、ジークとマリアがしっかり断っていたと思うんだが……



 まぁ俺の優勝報告スピーチはそれなりに盛り上がってよい感じで終わった。


 その後インタビューで色々聞かれたり、いじられたりしたが、終始和やかな雰囲気だった……



 ただちょっと司会進行の男のクラリスに対するセクハラが酷かったが……ずいぶん正確に当てたようですが扱いに慣れているようですね? とか今まで何人の男を討ったのかとか逆に討たれたのとか……


 ただ股間クラッシャーという2つ名だけは絶対に出さないようにしていたっぽい。


 きっと、クラリスの赤面する顔や女の子らしい表情を引き出し男子生徒から股間クラッシャーとして怖がられないように配慮してくれていたのかもしれない。まぁ考えすぎかもしれないが……


 そして司会の男から最後に一言くださいと言われたので、


「この度僕たちはパーティを結成しました。パーティメンバーを紹介してもよろしいでしょうか?」


 俺が司会の男に聞くと男が頷いて、発言を促してくる。


「ちょっと問題があるかもしれませんが、大目に見てください。

序列2位のクラリス・ランパード

序列3位のエリー・レオ

序列5位のカレン・リオネル

序列7位のミーシャ・フェブラント

以上4名と僕マルス・ブライアントで【黎明】というパーティを結成しました。兄の紅蓮のような愛されるパーティにしたいと思いますので皆さんよろしくお願いします」


 すると男子生徒たちから予想通りの声が……


「ちょっとじゃねー」

「ふざけるなー」

「手だけでも握らせろー」

「序列1位だからってやっていい事と悪いことがあるぞー」

「う、羨ましくなんかないからなぁー」

「夜道に気をつけなー」


 とか様々な声が飛んできたが、笑いながらの声だった。

 ただ女子生徒からはかなり本気の声で


「私も入れて!」

「遊びでもいいから付き合って!」


 とか予想外の言葉が投げかけられた。


 今回優勝したことでかなり友好的にみられている事を実感した。



 その後、俺だけ校長室に呼ばれた。


 クラリスとエリーはリーガン公爵を5人目の婚約者として警戒しているのか呼ばれてもいないのに校長室の前まで一緒に来ていた。


 流石に一緒に中までは入ってこなかったが、中の様子を窺おうとしていた。


「さて、早速だけどマルス君に3つほど聞きたいことがあるの」


 リーガン公爵は椅子に腰を掛けて飲み物を飲みながら言ってきた。


「なんでしょうか?僕に範囲であればいいのですが」


「君は風魔法を使えるわね?」


「はい。少しですが使えますが……」


「ブラッド君の牙や爪を斬っておいて少しですか?」


 やっぱりバレていたか……


「たまたま弱いところに上手くヒットしたのでしょう」


「まぁいいでしょう……」


 リーガン公爵がそう言うと急に公爵から嫌な視線を感じた。


 魔眼を使ったのか? 俺が鑑定するとバレそうだし……


「次にあなたは特異体質か何かですか?」


「言っている意味が分かりませんが? 僕はいたって普通だと思います……」


「ここだけの話ですが私は魅了眼という魔眼を持っています。この魔眼は自分よりも魔力が低い異性を魅了できるのですがなぜかマルス君には効かないのですが何故ですか?」


 堂々と言ってきやがったな……


「あ、だから僕はリーガン公爵を魅力的な女性だと思ってしまっているのですね」


 俺がそう言うと扉を開けようとする者たちがいたが、どうやら開かないらしい。


「そうですね。では私たちは結婚すると致しましょう」


 リーガン公爵が笑いながら言うと、部屋の外から扉を破壊しようとする音が聞こえる。完全にクラリスとエリーは遊ばれている。


「いえ、僕にはもう素敵な婚約者たちがおりますので」


 俺がそう言うと扉の破壊音は収まった。


「やはりマルス君には効かないようですね……簡易鑑定もできない……何かの加護ですか?」


「加護? 初めて聞きましたが?」


「そうですか……それでは最後の質問です。これが一番重要ですので絶対に答えてください」


 リーガン公爵が俺を睨みつけるようにしながら


「お母様のマリアンヌさんは、神聖魔法使いですね?」


 俺はびっくりして素が出てしまった。


「え!? お母様は神聖魔法使えるのですか!?」


 俺の反応にリーガン公爵が悩んでいるようだ……


「え? 神聖魔法使いじゃない? そんなことはあり得ない……え?」


「リーガン公爵、教えてください。お母様は神聖魔法が使えるようになったのですか?」


「いや、どうやら私の勘違いだったようです……」


「どうして神聖魔法が使えると思ったのですか?」


「神聖魔法使いは成人までの成長が早く、成人以降、年を取るのが非常に遅くなります。つまり老化するのがとても遅いのです。神聖な加護という事らしいのですが……失礼ですがマリアンヌさんは30超えていますよね?」


 そういう事か……確かにマリアは年齢の割に大分というか若すぎるな……


「そうですね……30歳は超えております」


 ちゃんとマリアの年齢覚えているよ? だけど女性の年齢をはっきりいうのはね……


「私は神聖魔法使いを見抜くのには自信があったのですが……」


 まぁそんなこと言っているが、俺とクラリスを見過ごしているしね。


「他に神聖魔法使いの特徴を教えて頂けませんか?」


「そうですね。普通の神聖魔法使いは、神聖魔法以外は使えないです。稀に他の魔法も使えるらしいけど、他の魔法も高レベルの魔法は使えない。つまり、偉大な魔術師ほど神聖魔法は使えないという事ね……」


「そうですか……ありがとうございます。もう用はないですか?」


「そうね。質問はもう終わりです。マルス君には1年生Sクラスの委員長をやってもらいます。これから何度か呼ぶことがあるのでその時はよろしく。あと3月からキュルスに変わってもう1人の副担任が着任するから皆に伝えておいて」


「キュルスさんはどうしたのですか?」


「さぁ……探してはいるんだけど姿をくらませたようね。もしかしたら、何か事件に巻き込まれているかもしれない……」


「そうですか。分かりました。失礼します」


 俺は校長室から出るとすぐにクラリスとエリーが寄ってきた。


 2人は何も言うことなく俺について来てクラスに戻った。


 きっと俺の「素敵な婚約者」効果が出ているのであろう。


 2人とも満足したような顔をしていた。



「お帰り。校長はなんて?」


 カレンが軽く聞いてきた。


「なんか全部の質問が良く分からない事ばっかりだったよ。ただキュルスさんの代わりに3月から副担任が来るらしい」


 それを聞いたバロンが


「ようやく武術担当が来るか……3月まではみんなで魔法の練習でもするか」


 バロンが委員長でいいと思うんだけど……


「今日はもう終わりかな?」


 クラリスがそう言うと俺が


「Sクラスは昨日の疲れが残っているだろうからもう終わりだって。さっき、ローレンツ先生が俺にそう言ったから解散かな?」


 俺の言葉を聞いた、ヨーゼフとヨハンはすぐに寮に帰っていった。


「なんかさ、あの2人はこのクラスに馴染もうとしていないよね? 特にヨハン君がきてからヨーゼフ君も私たちとあまり交流が無くなったし」


 ミネルバがそう言うとクラスみんなが頷いた。


「確かに……今度少し話が出来るようにしてみるよ」



 その後黎明のメンバーはリーガンの街の冒険者ギルドに向かった。


 カレンとミーシャの冒険者登録と俺たちのパーティ登録をするためだ。



 冒険者ギルドに入ると若い冒険者がたくさんいた。


 この街の冒険者はリスター帝国学校を卒業したての冒険者が多い。


 必死にペーパーG、F級冒険者から抜け出そうとしている者も沢山いた。


 そして俺が受付のお姉さんに声をかけようとすると、3人組の男が俺の前に立ちはだかった。


「もしかしてSクラスの人かい?」


 男たちの1人がそう言った。


「はい。今年入学のSクラスです。よろしくお願いします」


「そうかそうか。俺たちは去年卒業した元Aクラスの生徒なんだけど俺たちはまだF級冒険者なんだよ……ちょっと人数が足りないから後ろの女の子たちを貸してくれないかな?」


「残念ですが、それはできません。お力になれず誠に申し訳ございません」


 俺が丁寧に言うと、男たちは俺の言葉に構わず直接女性陣に話しかける。


「彼1人に4人は勿体ないでしょ? 俺たちと一緒にパーティ組もうよ。毎日絶対に楽しいよ」


 男たちが女性陣に絡み始めた時に、後ろからギルドの扉が開かれた。


 大人の女性で、とても美しい。何度も見た顔だった。


「お母さんどうしたの?」


 ミーシャがサーシャに話しかける。


「多分あなたたち絡まれると思ってね。老婆心ながら付いてきちゃった。マルス君迷惑だった?」


「いえ、助かります。ありがとうございます」


 するとサーシャは満足そうにうなずいて女性陣に絡んできた男たちに


「ペーパーが何言っているの? 頑張ればE級冒険者にはなれるんだからさっさとクエスト受けなさい。これだから最近の若い子たちは……」


 すると3人組の男たちが……


「もしかして、エルフじゃね? 見た。やっぱ綺麗だな……俺たちと一緒にパーティ組もうよ」


 よっぽどこの3人は女性に飢えているらしい。


 確かにサーシャは綺麗だが、先ほどお母さんと呼ばれていたのに気づいていないのだろうか……


 ん? 別にお母さんと呼ばれていても綺麗だから問題ないのか? サーシャって旦那さんはどうしたんだろうか? いかんいかん! 俺は何を考えているんだ……


 俺の心を読んだのかサーシャが


「興味があるなら、今度教えてあげるわ。私もマルス君には興味があるから」


 俺に優しく微笑みながら言うと、男たちには


「私はB級冒険者のサーシャよ。そして去年のAクラスという事は当然校長も見ているわよね? なのに妖精族エルフを初めて見たなんておかしいわね。少なくともAクラスであれば、校長とは何回も面会するはずだけど?」


 サーシャはAクラスと言う言葉をわざと大きな声で言った。


 あーそう言う事か……ただ男たちは気づいていない。


「大きな声でAクラスって言うな! 自慢しているみたいで嫌なんだよ!」


 すると男たちの後ろから別のパーティが話に入ってきた。


「俺たちは去年のリスター帝国学校のAクラスの卒業生だけどお前たちなんて知らないぞ? 5年間一度もBクラスに落ちたことないし。お前らはこいつら知っているか?」


 その男はパーティメンバーに問いかけると誰も知らないようだ。


「おかしいわね? 学校側に問い合わせてみましょうか? これでも私は今リスター帝国学校のSクラスの副担任でもあるからすぐに問い合わせることができるけど?あなたたち名前は?」


 そういうと最初に絡んできた男たちは逃げて行った。


「サーシャさん助けてくれてありがとうございます。またそちらの先輩方も……また何かありましたらよろしくお願いします」


 俺がそう言うと黎明の女性陣も一斉にサーシャと先輩パーティに対してお礼の言葉を言いながら、頭を下げた。


「お前グレンの弟だろ? だったら礼はいらないよ。俺たちもグレンに世話になったからな。年下なのにあいつは凄い。兄の壁は高いかもしれないが頑張れよ」


 そう言って先輩パーティは冒険者ギルドから出て行った。


 やはり自慢の兄だ……きっとジークも何か勘違いしているのだろう。


 カレンとミーシャの冒険者登録をして、Eランクパーティ【黎明】の登録が完了した。

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