第72話 Sクラス

 2030年1月1日


 アイクの訪問を終えた俺たちはそれぞれ一旦寮に戻り荷物を置いて集まることにした。


 俺とクラリスの誕生日を祝ってくれるとの事だ。


 誕生日会の出席者は俺、クラリス、エリー、ミーシャ、そしてアイクだ。


 一般生徒は許可なく学校の外には出られないのだが、Sクラスの生徒は自由に出入りできるらしい。



 女子寮と男子寮は別々の所にあるため、俺とアイクは2人で男子寮に向かい俺の荷物を一緒に片づけた。


 Sクラスの寮は1人部屋で一般生徒の2人部屋よりも広いらしい。


 確かにこの部屋を1人で使うのはちょっと寂しい気がする。


 20帖以上はあるリビングダイニングと15帖くらいの寝室の1LDKの部屋だ。



 ちなみに一般生徒でもAクラスの生徒は15帖の部屋を2人で。


 Bクラスだと12帖を2人、Cクラスだと10帖、Dクラスだと8帖、Eクラスだと6帖となっているらしい。



 荷物を片付け終わり、俺とアイクで誕生パーティの開催場所に向かった。


 女子たちは時間が掛かるので俺たち兄弟は先に店に向かって街をぶらぶらしながら話をしようとしたのだ。


 俺はどうしても聞きたいことがあったしね。それを察したのかアイクが


「どうした? 何かあるのか?」


 と聞いてくる。いや何かあるのかじゃないでしょ……


「アイク兄、さっきカレンと話している時にもう正妻は決まっていると言っていたのは本当ですか?」


「あぁ。やっぱり聞いていたか。本当であって、本当ではない……かな?」


「意中の人がいるという事ですか?」


「うーん。多分そうなんだと思う……」


 アイクの返事がはっきりしない。照れているのか?


「分かりました。ではアイク兄が言えるようになったら教えてください」


 俺がそう言うとアイクが困った顔で


「……分かった。別にそんな大した……いや、そうだな。今度な」


「あとアイク兄にはなんで魔眼は効かないんですか?」


「それはな魔眼対策の装備をしているからな」


「この学校にはそんなに魔眼持ちが多いのですか?」


「ああ。MPが足りなくて使えない奴もいるが、何人かはいる。魔眼にも種類が色々あるらしくてな。魔力眼、魅了眼、千里眼、石化眼、束縛眼……中には未来視とかいうとんでもない魔眼もあるらしい」


 あ、俺は魔力眼と未来視を持ってる……やっぱ天眼は亜神様の言うようなチートスキルだったか……


「魅了眼が一番厄介な気がしますが……そうでもないんですか?」


「魅了眼はよほど近くにいないと思うように操れないらしい。10mも離れていれば、ほぼ意味が無いレベルだから、魔法使い相手にはあまり効果を発揮しないらしい。まぁ俺には効果抜群だから、対策はしてあるからな」


 俺とアイクが小一時間話をしているとようやく女3人組がこっちに歩いてきた。


 なんか3人の後からぞろぞろ後ろに人が付いて来ているんですが……


「ごめんなさい。待たせちゃったね。早く中に入ろう」


 クラリスが大慌てで店の中に入る。


 エリーとミーシャも後に続き、俺とアイクもその後に続く。


「はぁー。クラリスのせいでひどい目にあった……」


 ミーシャがそう言うとエリーも


「うん……クラリス……浮わついている……」


 何があったのだろう?


「そんなことないよ! ただしつこくて……」


 どうやらずっとナンパされていたらしい。今は2年生から5年生まで休みで学校に申請を出して外に自由に出られる人が多いから、余計に人が多いのだろう。


 しかしナンパ師もアイクがいると分かって波が引くように諦めて帰っていった。


 この街でアイクはお守り以上の効果を発揮するらしい。


 頼もしすぎる兄に頭が上がらない。



 俺たちはお店で適当に食べ物と飲み物を注文し、乾杯をした。


「バンさん達も残ってくれれば良かったのにな」


 アイクが蒼の牙のパーティのことを言う。蒼の牙は俺たちの合格が分かり、安全だと確認するとすぐにアルメリアに帰ったのだ。


 まぁ騎士団の編成とか忙しいから仕方ない。


「まぁしょうがないよ。今アルメリアで2層に行けるのは蒼の牙と赤き翼、黒い三狼星とお父様とお母様だけだからね。しかもお父様とお母様はリーナを訓練しているからイルグシア迷宮の方によく行くらしいし……」


「そうか……まぁ今日はみんなで楽しく飲もう。久しぶりの再会に改めて乾杯!」


 ジュースで改めて乾杯すると女子たちからアイクへの質問攻めが続いた。


 まぁ主にアイクの正妻のことだ。


 クラリスとエリーにとっては義姉になるかもしれないからな。


 興味があるのだろう。ただミーシャもなぜか凄い興味を持っている。


 それも2人以上に熱心に聞いている。


 アイクが困ったようにしているので、話題を俺が変えた。


「アイク兄、グレン様って呼ばれているのは何故ですか?」


「いや、俺にも良く分からないんだが、紅蓮というパーティリーダーだからじゃないかな?」


 するとミーシャが、なぜアイクがグレンと呼ばれているか、理由を話し始めた。


 どうやらこのリーガンでは紅蓮というパーティは有名らしい。


 色々な依頼クエストをこなしているようで、リーガン帝国学校に在籍していながら、すでにCランクパーティとなっている。


 中にはかなり難しい依頼クエストがあったらしく、そのクエストの難易度と報奨金が合わなくて誰も受けない依頼クエストを受け続けて、困っている人たちを助け続けているうちにいつの間にかアイクはグレンと呼ばれるようになっていったらしい。


「紅蓮は何人パーティーですか?」


 俺が聞くとアイクが声を潜めて言う。


「紅蓮は5人だ。マルス、クラリス、よく聞け。パーティメンバーは絶対に5人までにしておけ」


「どうしてですか?」


「6人目は神聖魔法使いを探していますというようにカモフラージュするんだ。お前たちが思っている以上に神聖魔法使いは貴重だ。少しでも使えると分かれば国の端からでもAランクパーティが強引に勧誘しに来るからな。今年も何件かは誘拐まがいのことが起きるかもしれない。間違いなくお前らSクラスが一番の標的だからな」


 するとミーシャが呑気な声でこう言った。


「大丈夫ですよ。私たちも神聖魔法なんて使えないですから」


 アイクは顔をしかめて俺を見ると俺は無言で頷く。


 俺とアイクの目線での会話はこうだ。


(この子はお前とクラリスが神聖魔法を使えるのを知らないのか?)

(はい)


「まぁあとはお前たち次第だな。パーティを作る時は今言ったことを忘れるなよ」


「ありがとうございます。あとパーティを作るメリットって何かありますか? 僕はソロ3人でもいいかと思っているのですが……」


「俺の場合はリーガン帝国学校に知り合いがいなかったからな。手っ取り早く仲間を作るにはパーティを作った方がいいと思ったんだ。マルスたちにはあまり意味が無いかもしれないが、きっとマルスは作った方がいいと思う。マルス1人の功績ではなくパーティの功績と認めてもらった方がマルスは嬉しいだろ?」


 俺は頷いた。確かにそうだな。


 みんなで目的に向かって成し遂げた方が、喜びを共有できるからな。


 その後俺たちは何時間もお店で盛り上がり、20時を前にして寮に戻った。



 2030年1月2日



 今日はSクラスで改めて自己紹介をした。


 俺たち以外は、カレン、バロン、ドミニクともう1人ザルカム王国からのSクラスはヨーゼフという小さい男の子だった。男にしてはかなり可愛い感じの顔立ちだ。坊主だけど……


 Sクラスの担任はローレンツという若い男だった。


 ローレンツは魔法剣士でC級冒険者クラスの強さだ。



 Sクラスだけには副担任が2人就くらしく、キュルスとサーシャがそれぞれ副担任になった。


 キュルスの姿は見えないが、サーシャはこのクラスにいる。ってかB級冒険者が副担任ってかなり豪華だと思うが学校側は相当高いお金を払って臨時でキュルスとサーシャを雇ったらしい。



 昨日と打って変わってカレンはおとなしい。


 バロンとドミニクはまだクラリスを諦めることは出来ないらしい。


 ずっと彼らの視線の先にはクラリスがいる。


「さて君たちの自己紹介も終わったところで、君たちの序列を決めないといけない。Sクラスはこのリーガン帝国学校を代表する最重要クラスだからな。Sクラスの第1位となれば、今この学校で最強と名高いグレン……じゃなくてアイクと戦う事ができる」


 ローレンツがそう言ったので、俺が挙手をしてローレンツに発言を認められた。


「僕はアイク兄と争うのは嫌ですので、序列は1位以外でお願いします。尤もここの生徒たちは優秀ですので、1位になりたいと言ってもなれませんが」


 俺はあまり、波風を立てないように序列争いを辞退した。するとクラリスも


「私もお義兄様と戦う事はできませんので、辞退します。家族で争うという事ほど悲しいことはありませんので」


 エリーも「……当然辞退する……」


 これにはローレンツも驚いたようで


「アイク兄? お義兄様? 何を言っているんだ? お前たちは?」


 サーシャが改めてアイクと俺たちの関係を説明するとローレンツが驚いていた。


 ここの学校のホウレンソウはどうなっているんだ? また生徒の身元確認もしないのか?


 まぁ受験生が何万人という身元を確認するのはとても大変だろうが……



 ちなみにまだリスター帝国学校は全ての合格者の発表はしていない。


 1月10日までにすべての合格者が分かるのだ。


 だから1月1日の入学式は実はDクラスまでの合格者だったらしい。


「マルス君。諦めなさい。B級冒険者の全力の剣技を涼しい顔して相手にするような剣聖様に敵う子なんていないのよ。あなたが序列1位よ」


 サーシャが俺を諭すように言った。


 しかしこれに反発するものがいた。バロンだ。今回カレンは絡んでこなかった。


「皆さん、北の勇者の僕をお忘れではないでしょうか? 俺はそこの田舎者に負けるわけはないと思っていますが? またこのクラスにはもう1人剣聖がいたと思いますが?」


 そう言えばカレンとバロンの試験はパスされていたから2日目のことを知らないのか……するとドミニクが素直に


「俺はもう剣聖ではなくなったよ。剣聖様と呼ばれている者がどのくらい強さをもっているかは正確には分からないが、はっきり言って2年や3年で追いつけるレベルじゃないという事くらいは分かった。だから俺は辞退するよ。序列8位で構わない。実際8位だろうしね。だが諦めはしない。欲しいものは絶対に手に入れて見せる!」


 ドミニクはそう言ってクラリスを見た。


 うん。みんな10歳にして思春期真っ盛りだから仕方ないよね。


「それではマルス対バロンで序列1位を決める! みんな異議はないな?」


 ローレンツがそう言って俺たちを外に案内した。


 いや、俺は嫌なんだけど……サーシャに睨まれるとちょっと……運動場? のようなとても広いところに来た。


 俺とバロンが正対するとローレンツがルールを言った。


「武器は木剣のみ、魔法は何を使っても構わない。いいな?」


「「はい」」


「始め!」


 ローレンツがそう言うとバロンは一気に魔法の詠唱を始めた。


「ファイア! アイス! ウィンド! ストーンバレット!」


 全ての属性魔法を見せつけるようにバロンは放ってくる。


 俺は全ての魔法を剣聖らしく斬った。


「ま、魔法を斬るだと……? 水魔法、土魔法ならまだ分かるが、火魔法、風魔法を斬った? そんなバカな……」


 バロンは自信家だがバカではないらしい。


 魔法を斬れる俺とまともに剣戟を結ぶなんてことをするはずもなく、あっけなく負けを認めた。


「俺が2位だと……」


 バロンが呟くと、追い打ちが入った。


 なんとクラリスがバロン相手に戦いを申し込んだのだ。


 クラリス曰く、俺が1位であるならばクラリスは2位を狙うとの事。


 やはり勝負はあっさりクラリスに軍配が上がりバロンが


「俺が3位だと……」


 再びバロンが呟く。まぁフラグはしっかり回収しなければという事で今度はエリーがバロンに戦いを申し込む。


 この戦いは今までの俺とクラリスとの戦いよりもさらに実力差を見せつけるものとなった。


 まったくバロンがエリーの動きについていけないのだ。


 エリーは揶揄う様にバロンの攻撃を躱し続け、1回も攻撃をすることなくバロンに負けを認めさせた。


 まぁ獣人の……金獅子のステータスは高いから仕方ない。


 ちなみにバロンは「俺が4位だと……」とは言わなかった。


 やはりバカではないらしい。

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