第71話 入学式

 2030年1月1日


 今日はリスター帝国学校の入学式だ。


 俺たち4人は予定通りSクラスへ入学。


 Sクラスは全てのことが他クラスと違うらしく、Sクラスの8人は他生徒と対面を向いて座っている。


 また入学式は新入生だけと一部在校生だけで執り行われ、他生徒たちは、1月中はずっと休みとの事だ。


 その休み期間中も好き勝手に帰ってはいけないというルールがあるようだ。


 生徒の家が生徒の安全を万全にしないと帰ってはいけないらしい。


 優秀な生徒を失いたくないとの事である。



 リーガン公爵の短い挨拶が終わり、1年生代表挨拶が始まった。


 赤い髪の気の強そうな女の子だ。気の強そうな顔のわりには背が低い。


 色々難しい挨拶をしているカレンの話を聞くことなく、俺はカレンを鑑定してみた。



【名前】カレン・リオネル

【称号】-

【身分】人族・フレスバルド公爵家次女

【状態】良好

【年齢】9歳

【レベル】24

【HP】28/28

【MP】282/282

【筋力】12

【敏捷】16

【魔力】44

【器用】16

【耐久】10

【運】1

【特殊能力】魔眼(LvMAX)

【特殊能力】鞭術(Lv0/B)

【特殊能力】火魔法(Lv6/B)


【装備】火精霊の杖サラマンダーロッド

【装備】火精霊の法衣サラマンダーローブ



 完全に後衛の砲台だ。


 一番気になるのはやはり魔眼だ。


 リーガン公爵も魔眼を持っていたからな。


 魔眼を鑑定すると


【魔眼】異性をする。魅了されたものは魅了した者の命令に逆らえない。効果時間は魔力に比例する。また対象との距離により命令できる事が変わる。自分よりも魔力が低い者にしか効果はない。鑑定が少しだけ出来る。消費MP100.



 これかなりやばいスキルじゃん。


 この前リーガン公爵のMPが100減っていたから俺を魅了しようとしていたのか……発動条件は目を合わせるとかかな? でも俺はかかってないんだよなぁ……そういえば、天眼は魔眼の上位版だから全ての魔眼の効果を打ち消すってあったな。


 このスキルがあったらみんなでアイクを取り合うだろうな……


 カレンの挨拶が終わり、最後に新生徒会長からの挨拶となった。


 出てきたのはやはりアイクだった。


 アイクはこの3年ですっかり大人びている。


 身長も170cmを超えている。


「初めまして。新入生の皆さん。私が生徒会長のアイク・ブライアントです」


 アイクが挨拶を始めると、新入生から黄色い声が漏れ始めた。


「生グレンよ」「かっこいい」「今度話しかけてみよう」「紅蓮のパーティ枠1つ空いてるっていうから後で聞いてみよう」


 アイクの挨拶は簡単なものだった。


 友達を作って、分からないことがあれば上級生を頼りなさい。困ったことがあったら1人で抱え込まずに誰かに相談すること。相談する人がいなければ生徒会に来ること。


 などを簡単に言ったくらいだ。


 まぁ挨拶は要点を押さえて短いのが一番だからアイクはそれが出来ている。


 やはり流石アイクだ。


 もう挨拶の締めに入ると思われた時に急にアイクが


「今年はSクラスが創設される事となりました。あとで私の方から挨拶に行くのでまだ帰らないでSクラスの生徒は教室に残ってほしい」


 アイクがこちらを見ながら言った。なんかこの学校自由だなぁ。


 まぁ日本とは違うからそんなものなのか……入学式も終わり、俺たちはSクラスの教室に向かった。教室に向かう途中でミーシャが


「グレンはカッコいいね。挨拶に来るのかぁ。話せるなんて夢のようね。ね? クラリス」


 とクラリスに振る。ミーシャは多分アイクが俺の兄と知らないのであろう。


 クラリスも「う、うん」と返事に困っている。


 そして教室に着くとSクラスの教室は10人で使うにはもったいないくらい広かった。


 既に新入生代表挨拶をしたカレンと3人の男が教室におり、そのうちの1人は実技試験でクラリスにフルボッコにされたドミニクだ。


「あら、あなたたち4人もSクラスなの? あまり強そうには見えないけど……今年のSクラスのレベルは低いようね。先に1つだけ言っておくけど私の足を引っ張ったらすぐにAクラスに叩き落すからせいぜい頑張りなさい」


 めっちゃ高圧的にカレンが俺たちに言った。


 初対面でここまで言えるってある意味才能だよな。


「はい。頑張りますのでよろしくお願いします」


 と俺が頭を下げる。相手は筆頭公爵の娘さんだから波風立てないようにしなきゃね。


 俺の様子を見たクラリスとエリー、ミーシャの3人は納得がいかないようだが、俺が頭を下げたから仕方なくという感じで頭を下げた。


 するとカレンの近くにいた男が俺たちの方に歩いて来てクラリスの前で止まった。


「初めまして、俺はバロン・ラインハルトです。是非貴女のお名前をお聞きしたい。俺の正妻はカレンと決まっているが、あなたが望むのであれば側室になる事を許可するが?」


「初めまして、私はクラリス・ランパードと申します。私はすでに婚約者がいますので申し訳ございませんが、他の人を当たってください」


 クラリスがそういうと俺の右腕に抱き着いてきた。


「そうですか。それではそちらの女性はどうですか?」


 バロンがエリーの方を見ながら言うとエリーも負けじと反対の腕に抱きついてきた。


 バロンは悔しそうに俺を睨みつけるとカレンの方に戻っていった。


 いやこれってミーシャに失礼じゃない? ミーシャにだけ声をかけないなんて……


 ってかさ、自分の婚約者の前でナンパってどうなのよ? しかも相手は筆頭公爵の娘だろ?


 いくらクラリスに全ての軍配が上がるからと言ってそれは無いと思うんだが……


 俺はバロンという男を鑑定してみた。


 確かバロンって北の勇者って呼ばれていたような気がするが



【名前】バロン・ラインハルト

【称号】-

【身分】人族・ラインハルト伯爵家長男

【状態】良好

【年齢】9歳

【レベル】22

【HP】48/48

【MP】201/201

【筋力】31

【敏捷】28

【魔力】30

【器用】32

【耐久】24

【運】1

【特殊能力】剣術(Lv5/B)

【特殊能力】火魔法(Lv3/D)

【特殊能力】水魔法(Lv2/D)

【特殊能力】土魔法(Lv4/C)

【特殊能力】風魔法(Lv2/D)


【装備】土精霊の剣ノームソード

【装備】土精霊の鎧ノームアーマー



 おー。正直かなり強い。


 何より四大魔法全て使えるとか凄いな。俺以外で初めて見た。


 それにカレンと同様に装備が豪華だ。全てBランクだ。


 と鑑定していると


【状態】魅了チャーム


 になった。クラリスをナンパしたバロンにすかさず魅了をかけるとは……



 これでカレンとバロンとドミニクの3人の顔と能力は一致した。


 あと1人鑑定をしようと思ったら教室の外から黄色い声が聞こえてきた。


 黄色い声と共にやってきたのはアイクだった。


 するとすかさずカレンが


「グレン様、私の為に来ていただきありがとうございます。私は先ほど新生徒代表でスピーチをさせて頂きましたフレスバルド公爵家次女のカレン・リオネルと申します。もしかしてパーティの勧誘でございますか? それでは私の第2夫のバロンと一緒でもよろしいでしょうか? もちろん第1夫はグレン様でよろしいですよ」


 カレンの猛アタックにアイクは困惑している。


 この世界の人間は男も女もこんな感じなのだろうか?


「あ、あぁ、もう正妻は決まっているから間に合っているんだ。パーティも枠は空いているが募集しているわけではないからね。また今度時間があるときにでも話そう」


 そう言ってアイクは今度こそ俺たちの所へきた。


 クラリスが最初に少し大きな声で


「お義兄様。お久しぶりです。だいぶ雰囲気が大人っぽくなって見違えてしまいました」


「ああ。クラリス久しぶりだ。クラリスも相変わらず綺麗でマルスがうらやましいよ」


「……お久しぶりです……」


「あ、久しぶり。エリーも相変わらずでほっとした」


 アイクとクラリスとエリーの会話にミーシャ含めた4人が驚いている。


「アイク兄。元気そうでよかったです。4年生で生徒会長なんて流石です」


「まぁ今年だけだな。来年からはマルス、お前が生徒会長だろう。何せこの学校で俺より強い奴はいない。だからお前がこの学校で1番だろう。今日はお前を生徒会にスカウトしに来た」


「え……いやさすがにそれは……」


 アイクは学校生活を謳歌しすぎて俺のキャラを忘れてしまったのだろうか? 俺は目立たないように生きていこうと思っているのだが……


 俺の後ろで固まっていたミーシャが勇気を振りぼってアイクに話しかける。


「初めまして、私はミーシャと申します。3年前にマルスに助けられて偶然この学校で再会しました。1つ聞きたいのですが、グレン様はマルスのお兄さんですか?」


「ははは。俺はグレンじゃなくてアイクだよ。そう俺はマルスの兄だ。3年前までマルスとクラリスとエリーで迷宮に潜っていたりしていたんだよ。マルスから聞いてないかい?」


 この会話にみんなが驚いている中1人の女がアイクの所にやってきた。カレンだ。


「グレン様。いかにグレン様が言った事とはいえ、さすがに私たちがそこの弟君に負けるわけがないです。発言の撤回を!」


 カレンがアイクの目を見ながら言う。この雰囲気は魔眼を使ったな? 魔眼は俺の魔力眼でも魔力の流れが分からないっぽくとても厄介だ。


 魔眼を使ったか使っていないかはMPを見ないと分からないのだ。


 自分にくるなら無効化できるが他の人にかけられるとほんの数秒だけかもしれないが、操られてしまう。しかしアイクは


「カレン君、俺に君の魔眼は効かないよ。あと魔眼を使うのであれば、それ相応の覚悟があるという事かい? 今のは宣戦布告と受け取るが?」


 アイクがかなり怒って……いや、魔眼を充てられたせいか殺気を放っていた。


 アイクに本気の殺気を当てられたカレンはおしっこを漏らしていた。


 俺もクラリスもそうだけど自分が蔑まれるのはいいが、近しい人が蔑まれるのはダメなようだ。


 それにアイクは昔から弟思いだからな。


 カレンがおしっこを漏らしていようがアイクは徹底的にカレンを責め立てる。


「カレン君、もう一度聞く。沈黙は宣戦布告とみなす。筆頭公爵の娘だからと言って、好き勝手に魔眼を使われては困るからね」


 そう言ってアイクは炎の槍フレイムランスに手をかける。


 完全にアイクは脅しをかけている。


 これは今後カレンにこのクラスでの横暴を許さないようにしているのであろう。



 初めて当てられた圧倒的な強者からの殺意にカレンが抵抗できるわけもなく、しゃがみこんで「申し訳ございませんでした」と小さく呟く。


 アイクは殺意を引っ込めて、カレンの手を取ると


「謝罪を受け入れよう。もう魔眼をこの学校内でむやみに使わないように」とさわやかに言った。


 アイクよ。カレンの手はおしっこまみれだぞ……

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