第44話 深夜の密談

 MP枯渇させてから3時間が過ぎ俺は目が覚めた。


 夜も更けており、寝静まっている。


 俺は宿の外に出て、辺りを見回す。サーシャが雇ったと思われる冒険者が宿を見張っていた。


「どうしたの? 寝られないの?」


 急に後ろからサーシャが話しかけてきた。


「えぇ。なんか今日のことで興奮してしまって……」


「マルス君はとても強いんだってね。何か聞きたいことでもある?」


 俺の顔を見て察したのだろうか?


「はい。それでは、サーシャさんはもしかしたら風魔法を使う事が出来たりしませんか?」


「ええ。風魔法は得意よ。でもどうしてわかったの?」


「なんとなくエルフの方々は風に愛されているのかなって思ったからです」


「そう。それで風魔法が何か?」


「僕に風魔法を教えてくれませんか?実は僕も風魔法が得意なのですが、ほとんど自己流でどういう魔法があるのかすら分からないのです」


「いいわよ。ちょっと見せて」


「はい、ここでは少し被害が出そうなので街の外でもいいですか?」


「大丈夫だと思うけど……分かったわ。それでは街の外に行きましょう」


 俺とサーシャは街の外に出て広いところに行った。


 俺はまずウィンドとウィンドカッターを発現させた。


 するとサーシャが


「え、無詠唱なの?」


「えぇ、ウィンドとウィンドカッターはずっと使っていましたから、詠唱しなくても発現するようになりました。もう一つ無詠唱で使う事が出来ますが、それはオリジナルの魔法です」


「す、すごいわね。噂では剣士と聞いていたのだけれど……ほかにも風魔法使えるの?」


「はい、トルネードとファイアストームが使えます」


「!!! トルネードは分かるけど、ファイアストーム? 混合魔法じゃない! ちょっと両方とも見せてみて」


 俺はトルネードとファイアストームを見せた。トルネードはトルネードにウィンドカッターを仕込んだ魔法を見せた。


 するとサーシャが


「本当にトルネードを……しかもウィンドカッターも……それに本当にファイアストームだわ。ファイアストームなんて初めて見たわ……」


 サーシャはファイアストームをずっと見ている。


「僕はこの魔法しか使えないのですが、ほかに何かありませんか? 特に1対1で戦う時に相手の耐久値が高いとどうしてもダメージを与えることが出来ないのです」


「ウィンドカッターよりも強い単体風魔法はあるにはあるわ。ウィンドインパルスという魔法が……マルス君の使っているウィンドの強化版という感じね、風で飛ばすというよりは衝撃波で相手を飛ばすという感じね」


「教えて頂くことはできますか?」


「ええいいわよ。トルネードを使えるのであれば、すぐに使えるようになるわ」


「あと知っていれば教えてほしいのですが、風魔法で最強の魔法ってどんな魔法ですか?」


「風魔法の最強魔法は多分テンペストという魔法ね。多分今使えるのは風神しかいないと思うけど……」


「風神って神様ですか?」


「いいえ、この世界で一番風魔法が使える人が風神と言う称号を与えられるの。2位〜10位までが風王ね」


「テンペストという魔法は風神にならないと使えないのですか? それとも風王とかでも使えるのですか?」


「風王でも使えると思うわ……ただ前例がないけれど……」


「ありがとうございます。最後にもう一つお願いします。これは僕の知り合いの話なのですが、未知の魔法の才能があると言われたらしいのですが、どうやってその魔法を使うか分からないらしいのです。どうしてもその子はその魔法を使わないといけないらしいのですが、未知の魔法の為に魔導書などあるわけがなく、訓練方法が分からないと言っているのですが、どうにかして覚えることはできませんか?」


「うーん良く分からないわね。私の知り合いにも変な魔法を使う人がいるけど……私には分からないわね。力になれなくてごめんなさいね」


 サーシャはそう言って俺にウィンドインパルスという魔法を教えてくれた。


 サーシャの魔力は俺よりも高いので同じ魔法でも威力が違うと思ったのだが、風王の称号のせいか、俺と同じくらいの威力だった。


 やっぱり無理やりにでも睡眠魔法を使うワルツにどうやって睡眠魔法を覚えたか聞けばよかったかな……


 でも聞けるタイミングがなかったからなぁ……



 サーシャはあまり宿から離れるのは気が引けるらしく宿に戻った。


 俺も一緒に戻ろうと言われたが、まだちょっとやりたいことがあると言って、街の外に残った。サーシャも俺のことを認めてくれたのか、じゃあ気を付けるんだよと言って戻っていった。



 俺が一人になり少し時間が経つと、6人組が俺の前に現れた。


 月夜の闇の6人だ。


 これはラッキーでワルツがいる。


 そして鑑定すると6人はまだみんな全快はしていなかった。


「おい、そこのガキ! 少し面を貸せ!」


 リーダーのオリゴが俺にそう言ったので


「なぜ人さらいのいう事を聞かないといけないのですか?」


「ちっ、面倒くせー、ワルツ! ガキを寝かせろ!」


 そういうとワルツが睡眠魔法を俺に唱えた。


 俺はあえて睡眠魔法を受けたが、案の定俺は寝ることは無かった。


「なぁっ! 効かない!」


「なんだと!? そんなわけないだろう?このガキは剣士だぞ!? 状態異常回避装備か?」


 やっぱり睡眠魔法は自分よりも魔力が低い相手にしか効かないっぽい。


「残念でしたね。僕には睡眠魔法は効かないらしいです。僕の質問に答えてくれたらオリゴさんの提案を受けてもいいですよ? オリゴさんは何が望みなのですか?」


「俺と1対1で勝負しろ! お前がキュルスと互角に戦いをしていたのが信じられない!」


「いいですよ。それでは僕からはワルツさんに聞きたいことがあります。どうやって睡眠魔法を覚えたのか? どうして覚えようとしたかです。いいですか?」


 オリゴとワルツは顔を見合わせて頷くと


「いいだろう。それでは勝負が先だ! 場所はここでもいいか?」


「ええ。では早速やりましょう」


 俺とオリゴは剣を構えるとすぐに打ち合った。


 オリゴはキュルスと違い本気で俺と打ち合ってきた。


 俺は風纏衣シルフィードを展開してオリゴを迎え撃った。



 お互い決定打がないまま10分以上剣戟が続いた。


 内容はと言うと俺が押されていた。


 やはり受けることはできるが、自分から攻撃に移れるほど甘くはない。


 スピードは風纏衣シルフィードを展開した俺の方が速いが、一撃の重さは圧倒的にオリゴの方が上だ。何度もオリゴの剣に弾かれてそれを風纏衣シルフィードで無理やり立て直す。



 キュルス戦と違うのはオリゴがキュルスよりも遅いためウィンドカッターを使わなくても剣戟を続けられるという事だ。


 俺はこれだけでもすごい自信になった。


 反対にオリゴはガキと同じレベルという事にとても落胆している様子だ。


 オリゴが振るう剣は怒りに満ちていた。



 するとワルツが「もういいだろ」と言ってオリゴを止め、オリゴもそれに従った。


「ちっ! 本当の天才か……ガキにこうもいいようにやられちゃあな! おいお前何歳だ?」


「6歳です」


「なっ! 鑑定の儀が終わったばかりでこの強さか……マジで化け物だな……」


「それでは僕の質問に答えてください。ワルツさんはどのようにして睡眠魔法を覚えたのですか? またどうして覚えようとしたのですか?」


 するとワルツが俺の目をしっかり見て言った。


「睡眠魔法は本当に偶然だったんだ。俺は火魔法と風魔法が使える。暖を取ろうとして風に火魔法で少し温めたら気持ちよくてな。みんなに試してみたら気持ちいいと言ってくれていたんで、ずっと使い続けていたら、いつの間にかこの魔法を唱えるとみんなが寝てしまうようになってな。多分君に効かないのは魔力が君の方が高いからだろう……」


「な!? バカ言うな! 俺と互角に剣戟を繰り広げた奴がお前以上に魔力があるなんてありえない!」


「普通に考えれば6歳が俺やお前に立ち向かう事すらありえないだろう。この子がここにいる時点でもう俺たちの物差しでは測れないんだ。分かるだろう?」


 ワルツがパーティリーダーのオリゴを諫める。


「本当に最後に聞きたいことがあります。ワルツさんがミーシャを眠らせた時に月夜の闇のメンバーやこの街の住民や冒険者じゃない人が1人いたと思うのですが、その人は誰か知っていますか?」


 と俺がいうとワルツが


「俺がエルフの嬢ちゃんを眠らせた時は月夜の闇のメンバーしかいなかった。俺は貴重な睡眠魔法が使えるから必ずメンバーの誰かと同行している。俺に何かあったら月夜の闇はかなりきつくなるからな。できれば俺たちもまだ話をしたいのだが、俺たちにも立場がある。勝手を言って悪いがもうこれまでにしてくれ」


 そう言うとワルツがオリゴを連れてメンバーと一緒に闇に消えていった。


 仕方ない、俺ももう宿に戻るか。



 奴隷売買の件も片付いた。


 クラリスが言っていた変な魔法を使う奴からも話を聞けた。


 ミーシャのお母さんにも会えた。


 ミーシャが会ったことがある人というのは見間違いかもしれない。


 もうやり残したことはないな。

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