第43話 E級冒険者対B級冒険者

 俺とキュルスの剣戟はすさまじいものであった。


 周りにいる冒険者、奴隷も目を見張っていた。


 俺はと言うと風纏衣シルフィードだけを使っていた。



 圧倒的にキュルスの方が有利だが、俺の剣が弾かれて防御が間に合わない時は、ウィンドカッターを使ってキュルスの剣を弾く。


 こういう時に咄嗟に出せるウィンドカッターは強い。


 俺がウィンドカッターを無詠唱で発現させるたびにキュルスは驚いた顔をする。


「小僧、もう一度聞く、お前何者だ? なぜその年で俺と打ち合える?」


「教えたら引いてくれますか? 僕たちをもう狙わないですか?」


「まさか、ゲドーやここのやつらが見逃しても俺はお前だけは見逃さないさ」


 キュルスはそう言うと更に剣戟が激しくなる。


 まだまだキュルスは本気じゃなかった。そして今も本気ではないのが分かる。


 ただ俺もキュルスとの剣戟を続けているうちに慣れてきた。



 俺が少し慣れ始めると、より一層剣戟が激しくなる。それを繰り返している。


 俺にとってもとてもいい経験となっている。


 俺とキュルスの激しい剣戟に周囲が釘付けとなっているため、クラリスとミーシャを攫おうとする輩がいない。


 1回だけ敗走した奈落のメンバーがミーシャを攫おうとしていたようだが、なぜかキュルスがそれを阻止するように俺をミーシャの方に吹っ飛ばした。


 明らかにキュルスは俺を殺すつもりはないらしい。


「あなたは何が目的なのですか?」


「自分のことは何も言わないのに、俺が質問に答える義理はない」


 俺はこのキュルスという男になら事情を話してもいいと思った。


「……俺はマルスって言います。魔の森でミーシャが地獄の蛇ヘルスネークに襲われている所を助けて、それからミーシャのお母さんを一緒に探しています」


地獄の蛇ヘルスネークを倒したのか?」


「1人では倒せませんでしたが、なんとか……」


「マジか……あと30分くらいこのまま続けられるか?」


「ええ、だいぶ慣れてきました」


「ちっ! これだから天才ってやつは……もう少し速く強くいくぞ!」


 キュルスがそう言うと本当に剣閃が速くなった。


 周囲で見ている人の何人が俺とキュルスの剣戟を目で追えているのであろうか?


 だがこれほどの剣戟を繰り広げていてもだいぶ余裕が出てきた。


 風纏衣シルフィードを少し弱めても防御するだけなら事足りるようになった。



 恐らくキュルスは力を緩めて、スピードだけ速くしたのだろう。


 何故そんなことをするのか分からないが、とにかくキュルスは俺を指導するように剣を振った。


 俺は今のうちに未来視に慣れておこうと思って風纏衣シルフィードを完全に解いて未来視を少し使いながら戦った。さすがに未来視をずっと使い続けるとMPがすぐに枯渇してしまうからな。



 最初は全く慣れなくて何度も斬られそうになったが、ウィンドカッターで凌いだり、本当に斬られそうになるとキュルスが剣を緩めてくれた。


 未来視は相手の攻撃が事前に分かるのがいいのだが、映像が重なって慣れないとどれが本当の攻撃なのか分からなくなる。今使うのは危ないかもしれないがキュルスは俺を殺そうとしていないからいい練習になる。


「いいところだったんだがな……もう邪魔が入るから俺等はとんずらさせてもらうぜ。もしもお前がもっと強くなりたいと思うのであれば、北のリスター連合国へ行くといい。リスター連合国にはこの大陸で1番の学校もあるしな。最後にマルスよ、これだけは言っておく。敵をしっかりと見極めろよ」


 そう言うとキュルスはゲドーの所に戻っていく。


 ゲドーはミーシャを攫えなくて激怒しているが、あんな化け物みたいな子供がいるんじゃ時間が掛かり過ぎてしまう。キュルスがもうタイムオーバーだというとあっさり怒りの矛を収めた。


 そしてゲドー一味は暗闇に消えていった。


 ゲドー一味がいなくなるとすぐに月夜の闇のメンバーが俺らを捕らえようとするが、俺が少し剣を振るとあっさり引き下がった。


 主催者側も逃走したのか司会者含めて誰もいない。


 それにダメーズもいなくなっていた。ダメーズは手縄に猿轡だから逃げるにしても目立つのに……



 そんなことを考えようやく一息つけるかもと思ったが、急に俺の後ろに人が降りてきた。


 警戒していたのにここまで接近されて気づかないとは……


 その人物は現れるとすぐにミーシャを攫おうとした。


 俺がそれを阻止しようとすると、ミーシャが


「お母さん!」


 と言って泣き崩れた。


 ミーシャのお母さんはミーシャをそのまま大人にした感じで、緑色の髪の毛に目は赤色だった。


 本当にようやく終わったんだなと思ったら気が抜けてその場に座り込んでしまった。


 クラリスが俺の所に寄ってくる。


「お疲れ様。そしてありがとう。今戦っていた人、殺気を感じなかったんだけど……」


「ああ、なんか指導をしてもらった感じだ」


「何がしたかったんだろうね? 何か話しているような気がしたけど?」


「あぁ、強くなりたいのであればリスター連合国に行けと、あと敵は見誤るなと……キュルスは俺が敵とは思ってないらしい。月夜の闇のことも逃がしたしな。俺たちとは違うものが見えているらしい」


 俺とクラリスが話を終えて、ミーシャの方へ向かう。


 ミーシャのお母さんはここで起こった事を全く理解していなかったのか、俺たちを鋭い目で睨んできた。


 ミーシャが「この2人が私を助けてくれたんだよ」と言うまでずっとだ。


「ごめんなさいね。私はミーシャの母のサーシャです。ミーシャを助けてくれたのに、敵意を剝き出しにしてしまって……」


「いいえ。不安なのはわかりますから、僕はマルスと申します。僕の隣にいるクラリスと一緒に西に向かう用事がありまして、その途中で偶然ミーシャさんと会ったものですから……」


「初めまして。クラリスと申します。ミーシャさんが地獄の蛇ヘルスネークに襲われている所に偶然通りかかりまして、一緒にサーシャさんを探していました」


「2人ともありがとう。お礼をしたいのだけれどもう暗いから明日にでもまたいいかしら。本当はこの街で宿泊なんてしたくはないけど私が雇った冒険者が見張りをするからもう攫われることはないと思うわ」


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 俺はそう言ってサーシャの後に付いて行き、その途中でサーシャを鑑定すると


【名前】サーシャ・フェブラント

【称号】-

【身分】妖精族エルフ・平民

【状態】良好

【年齢】84歳

【レベル】42

【HP】52/52

【MP】102/360

【筋力】38

【敏捷】60

【魔力】72

【器用】70

【耐久】30

【運】5

【特殊能力】弓術(Lv6/D)

【特殊能力】風魔法(Lv8/B)


 つ、強い……キュルスよりも圧倒的に強い。これでB級冒険者か。


 やはり俺はまだB級冒険者のステータスではないらしい。


 それにしても84歳でこの容姿は反則だろ。



 俺は先ほどのキュルスとの戦いで少し手ごたえがあったので、自分自身も鑑定してみた。


【名前】マルス・ブライアント

【称号】風王/ゴブリン虐殺者

【身分】人族・ブライアント子爵家次男

【状態】良好

【年齢】6歳

【レベル】14

【HP】43/43

【MP】5291/6021

【筋力】36

【敏捷】40

【魔力】48

【器用】38

【耐久】37

【運】30

【固有能力】天賦(LvMAX)

【固有能力】天眼(Lv8)

【固有能力】雷魔法(Lv0/S)

【特殊能力】剣術(Lv7/B)

【特殊能力】火魔法(Lv2/F)

【特殊能力】水魔法(Lv1/G)

【特殊能力】土魔法(Lv1/G)

【特殊能力】風魔法(Lv8/A)

【特殊能力】神聖魔法(Lv4/B)


 レベルアップしていないのに敏捷が上がっていた。


 そして剣術も7に上がっている。


 ステータスはB級には及ばないが、スキルだけはB級レベルで間違いないと思う。



 俺はクラリスと一緒に宿に向かった。


 もちろん俺とクラリスの部屋は別々だ。



 明日はサーシャに教えてほしいことがある。


 俺はいつものように魔力を枯渇させてから眠りについた。


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