第45話 また会う日まで

「おいしぃ! クラリスこれも食べてごらん」


 ミーシャが朝から豪華なご飯にはしゃいでいる。


 サーシャが見つかったことで心の底から笑えるようになっていた。


「うん! おいしい。こんなの初めて食べた!」


 朝ごはんはサーシャが特別に用意をしてくれた。


 サーシャが今はお礼が出来るものがないと言って俺に金貨10枚もくれた。


 いや100万円って! まぁ自分の子供の命の値段にすると少ないのか。


 次に会う時には必ずお礼をすると言ってくれた。まぁ金貨10枚でも十分なんですけどね。


 何せミーシャのおかげでクラリスは結界魔法を覚えたし、俺もかなり強くなれた。


「マルスもちゃんと食べてる? 後悔するよ?」


 ミーシャは本当にご機嫌だ。


 サーシャはご機嫌なミーシャを見ながら、俺にこの街の奴隷売買について報告してきた。


「どうやらこの街の違法な奴隷売買は一部の人間しか知らなかったようね。ギルド職員やこの街の冒険者は知っていたけど、月夜の闇はこの街の冒険者ではないらしいから知らなかったみたいね。この街の人たちだけで、あなたたち3人を売ったお金を山分けしたかったらしいわ」


 俺たち3人の装備を取らなかった事、監禁場所が違った事、手縄をしなかった事は、もしかしたら月夜の闇や他の街の冒険者に俺たち3人は商品奴隷ではないと認識させるためだったのかもしれない。


 俺は気になっていたことをサーシャに聞いてみた。


「僕たちが捕らえられたきっかけにもなったのですが、ミーシャがサーシャさんの知り合いを見たと言っていたのですが、心当たりありますか? 昨日オークション会場でミーシャに聞いたのですが、オークション会場には来ていなかったらしくて……」


「さぁ心当たりはないわね……迷宮都市ギルバーンでミーシャが会った冒険者たちはだれ1人こっちに来ているわけないから……」


「そうですか」


 まぁ別に解決しなくちゃいけない事ではないからいいか。


「それにしてもミーシャがこんなにもはしゃぐなんて珍しいわね。初めてじゃないかしら?」


「そうなんですか? 会ったその日からクラリスとずっと馬車の中で盛り上がっていましたけど」


「やっぱり同じくらいの年の子が必要なようね……エルフは長生きするでしょ? だから結婚適齢期というものが無くて……そのまま結婚しないで子供を産まないという人が多いのよ、そうじゃなくてもエルフは子供が出来にくいから、結婚しても子供が生まれない事が多くてね。だからミーシャの周りに同じ年くらいの子供がいなくてね……良かったらミーシャと友達になってくれない?」


 そうサーシャが言うと俺とクラリスとミーシャが目を合わせて笑いあった。


 俺とクラリスが


「もう友達ですよ」


 俺たちの言葉を聞いたミーシャが嬉しそうに


「そう私と二人はもう友達なんだよ!」


 口の中をクリームでいっぱいにして言うと、ミーシャの顔を見てサーシャも嬉しそうに笑う。



 朝ごはんを食べ終えて俺とクラリスとミーシャの3人でガルナの街を散歩した。


 サーシャは連れてきた冒険者たちと一緒に俺たちの誘拐に関わった者たちへの取り調べを行うようだ。


 サーシャが言うには厳重注意程度で済まされてしまうらしいが……



 街をぶらぶらしていると物陰から一人の男が俺たちの前に立ちふさがった。


 男は手縄がされており、猿轡もしている。そして一生懸命俺らに向かって何か喚いている。


「あー、ダメーズさんだ。お久しぶりです。少し見ない間に随分なご趣味に目覚められたようで。それでは私たちは急いでいるのでまた。ごきげんよう」


 クラリスが煽ると俺とミーシャは思わず笑ってしまった。


 だがダメーズは必死に手縄を解けと目配せしてくる。


「え、そんなに私を見つめてきてなんですか? もしかして私に気があるのですか?」


 まだクラリスはダメーズを煽る。まぁ一度殺されかけた相手だからな。


 ダメーズがクラリスの言葉に顔を真っ赤にして喚く。


「そんな……顔を真っ赤にして……図星ですか……でも私はまだ6歳なので……」


 二人の漫才が続く、俺とミーシャはずっとその漫才に笑い転げている。


 その漫才の途中でサーシャが来た。


 サーシャは汚物を見るような目でダメーズを見ながら、俺たちに聞いてきた。


「この人はあなたたちのお知り合い?」


「ええ、まぁ、ちょっと訳ありでして……」


 俺がそう答えると、サーシャがダメーズの手縄を解いて猿轡を外す。


 絶対にダメーズは喚き散らかすと思ったが意外なことにおとなしかった。ずっと一点を見ていたのだ。ずっとサーシャの顔を……


 ただサーシャはダメーズをまだ汚物を見るような目で見ている。


 もしかしたらダメーズはクラリスの言ったように本当に目覚めてしまったのかもしれない。



 サーシャはダメーズを俺たちから遠ざけるとダメーズを他の冒険者に預けてこちらに来た。


「あの人大丈夫? なんかずっと私を見ている気がするのだけれども……」


「いえ、気がするのではなく見ていると思います」


 事情を説明するとサーシャの綺麗な顔が歪んだ。



 そして昼になった。


 ミーシャのご機嫌は午前中までだった。


 俺らはもう次の目的地に進まなければならない。


「ミーシャもうここでお別れだ。さみしいけど縁があったらまた会おう」


「ミーシャと一緒にお話が出来て楽しかったわ。また今度ね」


 俺とクラリスが別れを述べるとミーシャが「嫌だ! 離れたくない」と大泣きをする。


 俺もミーシャに情がわいてしまったが、これはもう仕方のないことだ。


 するとサーシャが俺らの出自を尋ねてきた。



 逡巡したが、結局俺とクラリスは出自を教えた。


 二人とも貴族の子供という事に非常に驚いていた。しかも俺に至っては戦争中のバルクス王国の出身だ。


 そして目的地を聞いたサーシャが言った。


「そこまで遠いとなかなかお礼も出来ないわね……」


「もし次に会った時でもいいですよ。僕はずっとイルグシアにいるという訳でもないですし」


「分かったわ、必ずどこかでお礼をするからね。ミーシャもちゃんと覚えておくのよ」


「うん! マルスにはとっておきの物あげるからね。期待していてね」


 そう言ってミーシャは泣いてくしゃくしゃな顔でウィンクをしてくる。


 それを見た俺とクラリスが大笑いをする。



 俺とクラリスは進路を西へ、ミーシャとサーシャは進路を北東へそれぞれ目的の場所に向かって進んだ。

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