第24話 ランパード家

 ひとしきり泣いた後、俺らは自己紹介をする事にした。


 思わず抱き合ってしまったのだが、我に返って恥ずかしくなり、今はお互い正面を向いて座っている。ただなかなか涙が止まらない。


『俺は藤崎裕翔20歳。こっちではマルス・ブライアント6歳』


『私は綾小路葵20歳。こっちではクラリス・ランパード6歳』


『確認だけど、あのコンビニの店員だよね?』


『ええ。あの時助けてくれた人だよね?』


『助けきれなかったけどね』


 日本語で話しているとクラリスの両親が驚いた顔で俺たちを見ている。


 まだまだクラリスと話したいことはいっぱいあるが、これ以上怪しまれるのも嫌なので、こちらの世界の言葉で話す。



「申し訳ございません。ゴブリンとの戦いで気持ちが高ぶっていたのと、僕が習ったばかりの言葉が通じたので嬉しくなってしまって泣いてしまいました。僕はマルス・ブライアントと申します。6歳です」


 自分でも支離滅裂な説明をしているなと思ったが、乗っかってくれたらしく


「あ、ああ急に娘と泣き出したんで驚いてしまった申し訳ない。グレイ・ランパードです。後ろにいるのが妻のエルナ、そして娘のクラリスです」


「妻のエルナです。この度はクラリスをはじめ私たちを助けて頂いてありがとうございました」


「クラリスです。マルス様。お時間があればお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺は頷いた。しかしグレイが俺を警戒しているように見える。


 恐らく自分の娘に何かするかもしれないという警戒だろう。表情に少し表れている。


「クラリス、少し父さんと話をさせてもらってからでもいいかな?」


「はい。お父さん」


「マルス様はこのあたりの子供ではないと思うのですが、どこから来たのですか?」


「はい。僕は迷宮都市のイルグシアから来ました。元カーメル伯爵領です」


「ん?そんな都市聞いたことないですな。カーメル伯爵というのも知らないですし」


「バルクス王国の南西にある迷宮都市アルメリアのさらに西に出来た新しい迷宮都市です。カーメル伯爵は陞爵なされて辺境伯となられていると思いますが……」


「バルクス王国だと……そうですかこの街はザルカム王国の東に位置する迷宮都市グランザムです。知っているか分からないですが、我がザルカム王国とザルカム王国の西にあるバルクス王国は戦争中だと思われますが……ただ助けて頂いたご恩もありますし……」


 グレイの言葉を聞いて剣呑な雰囲気になる。しかしエルナが


「立ち話もなんですし、いったん家でお話をしませんか? 周囲に聞かれると面白くない事が起きそうですし。私たちもダメーズ様に見つかると何かまた揉めそうですので……クラリスの為にも……ね?」


「そうだな。マルス様、いやマルス君。敵国とはいえ恩人だからしっかりとしたもてなしをしたいのだが、よろしいか? まぁランパード家に出来る限りでのもてなしだが」


「ありがとうございます。お話を聞かせて頂きたいのでぜひお願いします」


 俺たちは誰にも気づかれないようにランパード家に向かった。


 そのため無言で歩いていたので、クラリスを鑑定してみた。


【名前】クラリス・ランパード

【称号】-

【身分】人族・平民

【状態】良好

【年齢】6歳

【レベル】1

【HP】6/6

【MP】4/124

【筋力】2

【敏捷】3

【魔力】4

【器用】4

【耐久】2

【運】20

【固有能力】結界魔法(Lv0/A)

【特殊能力】剣術(Lv2/C)

【特殊能力】弓術(Lv0/B)

【特殊能力】神聖魔法(Lv1/A)


 固有能力が結界魔法か。Lv0という事はまだ自分の固有能力ユニークスキルに気が付いてないのであろう。あと俺やアイクと違って訓練とかしてないからステータスは少し低めか。


 剣術レベル2というのはきっと前世での経験な気がする。あの雨の日の構えは綺麗だった。


 ランパード家に着き、グレイから色々な話を聞いた。


 このグランザムの状況、ビートル伯爵の事、ダメーズ男爵の事、クラリスの事など。


 さすがにザルカム王国の話はあまり教えてくれなかった。



 俺の話やバルクスの話もした。長男は俺よりも剣術ができ、その上槍は剣以上に手が付けられない事や、イルグシアにもゴブリンだけが出る迷宮が最近出現したと。


 嘘だと思われるのも嫌なので迷宮をクリアしたことは明かさなかった。


 いくら強くても6歳の子供が迷宮をクリア出来るとは思わないからね。


 あと俺が魔法を使えることは隠した。まぁ転生者のクラリスはわかっているかもしれないが。


「バルクス王国だけではなくザルカム王国も魔物が異常発生しているのですね。そして両国とも同じようなダンジョンが出来ている……


あと何年かしたらイルグシア迷宮も迷宮飽和ラビリンスが起きるのかもしれない……このことを早くお父様たちに知らせないと」


「戦争なんてしている場合ではないのかもしれないな。我々平民がいつもバカを見る」


 グレイがブツブツと言い始めた。そしてそのタイミングでクラリスが


「お父さん、私もと話をしてもいいかしら?」


 おっ、呼び捨てになった。早いうちに敬称が抜けると親しみやすくなるから大歓迎だ。


 ある程度俺への警戒心が解けたグレイが


「あぁ、年も近いことだしいい刺激にもなるかもしれないからな。好きにしなさい」


「では私の部屋にいきましょう」


 そう言うとクラリスは俺の手を引っ張って2階の部屋に行く。


 グレイとエルナをちらっと見たら驚いた顔をしていた。


 そりゃあそうだよな。普通ここで話をすると思うよな。


 だけど俺としても2人で話をしたかったから今回はクラリスに強引に押し切られる事にした。


 部屋に着くなり


「あの後どうなった? 雷に打たれた後のことだよ?」


 とベッドに2人で座るとクラリスが言ってきた。


 見た目は子供、頭脳は大人? の俺には少し刺激が強い。


 まぁお互い体は子供だから何かあったりはしないけどね……


 俺は覚えている限りの亜神との会話をクラリスにした。俺の能力のことは話していないが。


 クラリスにも境界世界でのことを聞いた。クラリスにはほとんど説明がなく、固有能力ユニークスキルのことも知らなかったらしい。


 そういえば亜神が2は分体が対応すると言っていたな。


 という事はあのコンビニ強盗もこの世界に来ているという事だ。


 完全に失念していた。


 そのことをクラリスに伝えるとお互い転生者とバレないように行動しようという事になった。人前での日本語は事情が無い限り禁止という事にした。


 話をしていると窓の外が急に騒がしくなった。


 どうやら第4波がきたらしい。

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