第2話 難問の怪 -解- その1

『はい!』と元気よく手を挙げた少女がいた。


 二十人ほどの児童が収まった教室。

 そうだ。確か、小学校低学年の頃だった。


 ホームルームか、道徳の時間か、それとも総合的学習の時間か。何の枠だったかなんて詳細は覚えていない。


 ただ、当時の担任の先生が不意に出した問題。

 それが『ウミガメのスープ』だった。


『はい、では兎村とむらさん』

 

 そう先生が指名すると、その子、兎村六夏とむらりっかは言われてもないのにガタリと立ち上がった。

 立ち上がった瞬間に、ピンクアッシュのポニーテールがゆらゆら揺れた。


『センセー! ウミガメのスープなんてザンコクだと思います!』

 舌足らずな声で元気いっぱい、そのくせ真剣な顔をしてそんなことを言い放った。


 違う、そこじゃない。

 幼ながらにそう思った記憶がある。


 それは問題の根本をなし崩しにする発言だった。


『あのねぇ、兎村さん』

 先生もたじろいでいた。


 しかし、その主張を聞いて、小学校で出す問題としてはあまりよろしくないと思い直したのだろう。

 先生は問題を取り下げてしまった。


 当然、教室はブーイングの嵐となった。

 問題を台無しにした当の本人は、どこ吹く風といった表情をしていた。


 さすが六夏だな、と思った。


 保育園からの幼馴染。

 彼女の性格はよく知っていたから。


 ──ちなみに、答えが気になっていたのもあり、後でこっそり先生に聞いてみたのだが、答えを訊いても結局納得できなかった。


 『ウミガメのスープ』は、当時の蒼伊たちには難易度が高すぎたのだ。


 状況を説明されなければ、なかなか辿り着けない正解だよな、と今でも思う。

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