第2話 難問の怪 -解- その2
*
ぼんやりと景色を眺めながら、そんな取りとめのない思考を巡らせていると、ちょっとした揺れを感じた。
列車がゆっくり止まるとき特有のそれ。
もちろん緊急停止ではない。
窓の外には駅のプラットホームが見えた。
比較的小さな駅のようで、乗り降りする人たちはほとんどいない。
アスファルトが陽炎を
真夏の太陽に照らされた地面は、さぞ熱いことだろう。
どこの乗車口から染み入ってくるのか、蝉の
再び、ゆっくりと列車が動き出した。
──答えは一体、なんだったんだろうな。
ふと、先ほどの少女が出した問題の答えが気になった。さきほど座っていた席を見れば、少女の姿はなくなっていた。
知らないうちに、この駅で降りたのだろうか。
あまり気に止めることでもないのだが、ちょっとした罪悪感が胸を
もう少し付き合ってもよかったかもしれない。
そう思いつつ、蒼伊は席を立った。
汗が引いて少し肌寒くなったのと、アイスコーヒーを飲んだせいだろう。トイレに行きたくなった。
その前に……。
蒼伊は通路に出て、視線を巡らせる。
後ろの席の足元とかにチラホラ小銭が落ちているのを認め、頬をかいた。
うん、やっぱり散らばってるなぁ。
このままだと後で駅員に迷惑をかける。
立つ鳥跡を濁さず、とも言うし。
そんなおためごかしな口上を胸に、そそくさと小銭の回収に努めることにした。
しかしその実、原動力の要因は金欠だからというのが一番大きかったりする。
来週以降バイトの頻度を増やさないとまずいかもしれないなぁ、なんてことが頭の片隅をよぎった。
思った以上にぶち撒けていたらしく、てんでバラバラに小銭が落ちていた。列車の慣性も働き、遠くまで転がっているのもある。
それほど乗客がいなくてよかった。
さすがに多くの乗客の視線を受けながら、こんな醜態を晒すのは気が引ける。
……さて、と。
あらかた見つけた小銭を回収してポケットに突っ込みつつ、蒼伊は後方の車両に向かった。
座席前の列車案内。自分がいる車両のすぐ後ろ隣の車両に、お手洗いのマークがあるのを事前に確認していた。
ガタリとスライド式の自動ドアが開く。
お手洗いに目を向け、蒼伊は真顔で足を止めた。
その扉の前には『故障中』と書かれた看板が鎮座していた。
ここのトイレは現在、使用禁止のようで。
小さくため息をつく。
どうも今日はそういう日らしい。
大きな問題はないが、ちょっとした不運が積み重なっている。
たまにこういう日、あるよな。
こんな状況の打破には、何かしら起爆剤が必要だ。
そんなものはない。……少なくともここには。
仮にあったとして、目の前で故障中の看板が吹っ飛んだりしたら、笑う。シュールすぎる。
ないものねだりの思考を振り払い、仕方なく先ほどの車両に戻った。
何をウロウロしとるのだという、乗客たちの胡乱げな視線を足早に受け流しつつ、さらに前の車両に向かう。
前の車両に来た。
パッと見た感じ、この車両も人が少ない。
この列車は居心地やデザイン性を重視しているのだろうか。座席の背もたれがやけに高い。
それで乗客の頭が覗きにくいのも一因だろう。
座高が高い人でない限り、席を覗き込まないと、座っているかどうかも分かりづらい。
蒼伊は足早に、車両の通路を通り抜けた。
ぐおんと音が鳴った。あたりが少し暗くなる。
トンネルに入ったらしい。
籠もったような低音が耳にまとわりつく。
ガタンと軋んだ音を立て、目の前のスライドドアが開いた。
トイレに向かおうとした足は、一歩踏み出したきりピタリと止まった。
故障中のデジャブ、ではなかった。
蒼伊は目を見張った。
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