第5話
私と妹は、1か月の差で、子供を出産した。
真夏に生まれた女の子と男の子。
私は、自分の子を
「あれ、なんだか目鼻立ちがはっきりしていて、僕らにはあんまり似ていないね。どちらかと言えば…。
そう一言言った。
「あらら、そんなことないわよ。きっと、成長したら似てくるのよ。きっとこの子は物凄く頭の良い、感性が豊かな子になるわ。」
私は、笑ってそう返した。
一方の妹も、
私たちは、どちらも子育てに忙殺され、あっという間に卒園式を迎え、
幼稚園の時から習っていた体操、水泳、バレエは全て低学年の地区大会で優勝、
そして、もちろん、天才的な頭脳を持っていた。小学1年生で、高校レベルの授業を理解し、
夏菜が7歳の誕生日を迎えた時、
旦那は真剣な顔をして、私にこう言った。
「これは、私達の子じゃない」、と。
娘の顔も素質も、私達から産まれたとはとても思えない。
病院で手違いがあったのだ、と。
そんなことはないわ、そのうち似てくるのよ、
私は笑ってそう返した。だが、旦那の顔はどんどん暗くなっていった。
「君はいつもそのうち、そのうち、って言うけど、もう娘も7歳だぞ!もし、探している両親でもいたらどうするんだ。」
それから旦那は狂ったように病院に電話をかけたり、
周りに尋ねたりした。それでも、娘はれっきとした私達の子だった。
何をそんなに焦るの、こんなに完璧な子はいないじゃない、と、
私はまた笑って言った。
それに、今更そんなことを言っても、もう遅いわ。
この子は、私達の、いえ、私の子だもの。
旦那は、もうそれ以上、何も言わなかった。
妹も同じように、
*
子供たちが7歳の誕生日を迎えてからしばらくして、また季節は秋になった。
今となっては、
今日、私は久しぶりに、今では妹の旦那となった
「ここに二人で来るのも、久しぶりね。」
「確かに、懐かしいな。あの頃は、まさかこんなことになるとはね。」
「まあ、全てはあなたのおかげと言っても過言ではないわ。あなたは、本当にうまくやってくれた。改めて感謝するわ。」
「君だって、もの見事な絵画を僕にくれたじゃないか。」
「そうだったわね。ところで…。
「
「まさか。旦那には内緒にしておくわ。」
「まったく、君ってひとは…。まあでも、僕は君のこと気に入ってるからやってあげたんだからね。」
「わかっているわ。」
秋風が、冷たく顔に吹き付ける。水しぶきを上げる潮のにおいが、いつまでも二人の間に残っていた。
あの時。
私、
「絵画を
私と旦那の子供を、
鮫島は、条件を呑んで、「不妊治療」として晴のお腹に私達の子供を宿した。
代わりに、私のお腹には、その過程で発生した二人の子供の受精卵をかけこんだ病院で宿した。
その結果、見事に、赤ちゃんの入れ替え、が成功した。
私は、昔から自分にこう言い聞かせてきた。
"人は、レッテルを貼られ評価されるが、自分から貼ってしまえば、いつでも変われる。自分に無い要素は貰ってきて、作る。
作れば、それは永遠に自分のものだ。" と。
私は、ずっと妹になりたかった。だが妹は作れなかった。
18年間の憧れと悔恨。その中で、私はいつしか妹の要素が欲しい、と思うようになった。それから、私は振り返ることはなかった。
妹の「美貌」、鮫島の「運動神経」、天才である旦那による「教育」、芸術家である私の「感性」。全てのピースがそろった時、私は、自分の作りたかった世界を作ることに成功した。
「
旦那も、妹も、いつかは気づくかもしれない。いつかは、私は訴えられるかもしれない。全てを受け入れる覚悟は、できている。
だが、気づいたところで、一度作った世界を取り壊して、
また作り直すことは、難しい―
私の作りたかった世界は、これからも永遠に自分のものなのだ。
海野家の秘密 白柳テア @shiroyanagi
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