第4話 その皮肉は地頭が悪い娘には効かなかったようだった
放課後、忘れたふりをしてバッグを持とうとしたが背中からの圧力に負け、手を挙げて白旗を上げる。
「降参だよ。」
ため息を一つこぼすとバッグを降ろし、すでに椅子を百八十度回転させた
「その前に、お手洗い行ってからでもいいかな?」
「どーぞっ。」
律儀に確認を取りつつも健一は一度お手洗いに行き、ありったけのため息と少しの用を足してからしぶしぶ教室へと戻った。
「遅い。」
早速、怒られた。理不尽極まりないとはこのことである。別にいいだろう、ほんの少しだけお手洗いが長かったところで文句を言われることになるとは。
「大きい方だったんだよ。」
「そんなの知らない!」
「で、何の用?僕、この後教諭に呼ばれているから早めに済ませてくれるとありがたい。」
「じゃあ、単刀直入に聞くわ。イエスかはいで答えなさい。」
「んな、アホな。」
結局、肯定しかない、美里の言っていることは無茶苦茶だ。そう前置きをしたところで美里は健一の方へとにらみつけた。
「クラスで浮いている語螺瀬と一緒なんかにいると
「…………………………………はぁ。」
まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかった。宣言通り、単刀直入である。
「今日、初めてあなたと話すのに、よく僕のことなんか知っていますね。さすがは学級委員というべきか。」
半ば、棒読み加減で返しておく。実際、美里と健一は交流がありつつもそこまでの深い会話などはない、が、友人の彼女との距離感で広辞苑を開きたいところだがやめておくことにする。
「語螺瀬がどうして友達を作らないのかは知らないけど、クラスの中で浮いているのは理解しているつもりよ。」
「そっか………よくご存じで。」
最初は豆鉄砲を食らったかのような顔をしていたが、すぐに興味なさそうに頬杖を突く。
「朝陽に何かあった時に助けられなくなっちゃうから、今後、朝陽と話さないで。」
「その理論だとあなたも僕と会話していることから助けられなくなるけど……いいの?」
「私はいいの。朝陽のためだから。」
「なるほどな、すごい理屈だな。あんた。」
「なに?褒めているの?」
「いいや?全く。」
どちらかといえば
「まあ、一つだけ言うと僕と周防は小学校からの付き合いだ。その段階で周防の知名度が下がったことはない。あいつは毎朝早起きして自炊できるほどだ。それを家族全員分作っているから思いやりというものがある。まあ、要はいいやつってことだ。」
ちっと特殊な環境に育てば誰だってこうなるさ、と朝陽は笑いながら話していたが、そんな簡単な話じゃないことは馬鹿でもわかる。
「そんなわけで周防はあんたにとってもいいやつを全面に出しているから安心しろ。」
「なにそれ、喧嘩売っているの?」
「こっちがわざわざあんたの喧嘩を買ってやっているんだよ。なんであんたに喧嘩を売らないといけないんだよ、面倒くさい。」
ちょっといらいらしてきたのか、健一も口調が強くなってしまう。
「大体!その『あんた』もムカつく!なんで語螺瀬のことは名前で言うくせに……なんで私はまだ『ちゃん付け』なのよ。」
変なところを食いつかれたのか、もうこの際全部ぶちまけようとしていたのか美里は急に話題を飛ばした。「んなもん、知らん。」と思ったが、知らないで済ませるわけにはいかない。
「どうでもいいが、小野澤、周防と付き合ったのはいつからだ?」
「え……?高校一年の夏休みからだけど……?」
「ま、そういうことだ。年季の差ってやつかな。」
「んなっ!!」
健一と朝陽は小学校からの悪友、そこに美里という中学までは存在を知っていたが、高校から入ってきた彼女がいる。つまりは勝手に入ってきたのは美里のほうだと言いたいのである。
その言葉と不敵に笑みを浮かべる健一で美里も理解を示したのか顔を真っ赤にして健一の机を何度もバンバンとたたき始めた。
「そんなにたたくと机が壊れるだろ……机がかわいそうだ。学校の備品は大切にしろよ、弁償問題になると面倒だ。」
「死ねっ!絶対に死ねっ!」
完全に取り乱した美里はそのまま罵声を浴びせながら教室のドアを開け、一目散に抜けるとばたんと扉を強く閉めた。
一人残された健一は「少し、やりすぎたかな。後で周防に言っておけばいいか。」とマフラーを結びなおし、十分ほど本を読んでからバッグを片手にドアを開けたまま廊下をきょろきょろして美里がいないことを把握すると安堵して職員室へと急いだ。
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