この上司、ブラックにつき

蝶 季那琥

第1話

「だからてめぇが上司だと、良くて怪我人、最悪死人がでんだよ!」

 響き渡る怒声。

「警察の癖に簡単に死ぬのが悪いと思わない?」

 悪びれることなく返される言葉に、二人のやり取りにワタワタする外野。

「てめぇの基準がオカシイって気づけ、くそが」

 一応、部下ではあるがこの上司に敬語は不要だ。

「不意打ちだから仕方ない、なんて、ヌルイこと言ってるから死ぬって気づかないのかな?」

 目の笑っていない笑みを貼り付け、周りに視線を流す。

「まさか、味方のはずの上司が自分に銃ブッ放すとは思わねぇだろ!」

「敵を欺くにはまず味方からだよ」

 この男、部下の後ろに立つなり発砲し、怪我を負わせる。

 その尻拭いもといフォローをさせられるのは役職は名ばかりであるディン。

 そして、何をしても咎められない最高幹部のギース。

「新人に怪我させて、実践が出来ねぇってクレームがオレの所に来るんだよ!」

「へぇ、クレーム…誰かは予想付くけど、誰から?」

 真顔で問えば、温度が下がる。

「文句があるならボクに言えばいいだろう?ディンに言っても無駄だって知ってて言うなんて…いっそ陛下に嘆願書でも出せばいいのにね?」

 一人の部下を覗き込めば、分かりやすく目を逸らす。

「嘆願書に対応出来ねぇ陛下からの、依頼だボケ」

「国のトップが何言ってるのかな…あの人ボクの事嫌いなくせに生かすから面倒なことになるのに、バカだよね」

 本来なら、不敬罪で即断頭台行きだが、ギースに限っては該当しない。

 公然の秘密だが、ギースは暇潰しに国王陛下を屠ろうとして、陛下の命乞いで興味を失い生かしている。

 屠られそうになった陛下は、自分を裏切らないように警察へ縛り付けようと目論んだものの、ギースを抑えつけることが出来ず、生かしているのか、生かされているのか定かで無くなっていた。

「敵にしたら厄介でも、味方なら多少は役立つはずだったんだろ」

「んー…面倒だから退職願い出てみるか。辞めたらマフィアのトップ目指そうかな」

 ディンも大概な言い方をするが、ギースと対等に渡りあえる唯一の人間の為誰も咎められない。

「恐怖政治か…そうなったらこちらとしては楽になる…と見せかけて、結局地獄絵図だろ」

 おもむろに煙草を取り出せば、

「ボクに協力してくれるなら、凄く平和になると思うよ?」

 と笑う。

「てめぇが関わる時点で、オレの負担変わらねぇからいっそ死ね」

 火を付けながら言い捨てる。

「ボクを殺せる人間はキミしかいないけど…素直に殺させてくれないだろう?」

「ほざけよ、くそが」

 軽口を叩き合う二人に皆は遠い目をした。

 ギースがいる限り、死亡フラグは付きまとう。

 それをディンのように楽しめる訳もなく。

 この上司ブラックにつき、ホワイト(?)な部下達が割を食うのは、しばらく、否、相当続くことになるがギースには関係のないことだ。

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