ウルヤ編

2.鎧化症者の少女と男

とある海辺に暮らしていた夫婦に、一人の女の子が産まれた。

夫婦は女の子をウルヤと名付け、しあわせな日々を送っていたが、ウルヤは病にかかってしまった。何をしても治らず、神に祈っても変わらなかった。

ウルヤは病のまま育った。成長するごとに痛む腕と強くなる腕力に、両親は根気よく付き合った。

その手が肘まで真っ黒にひび割れたころ、村のあちこちで物取りが発生した。

それも、必ずウルヤが関わったものばかりだ。

物は量が多く、ウルヤ自身は疑われるも隠し場所などなく、怪力があるとはいえ幼子の手で運ぶには不可能だ。

ついに村人まで傷つけられ、村人は総出で犯人を探すも捕まえられず、被害は続いた。占を立てた巫女により、ウルヤの追放が決まった。

ある夜、一家は生まれ育った海をあとにした。


一家は、通り道を通る商隊に望みをかけ、娘の病を隠して同行する。

元常和国の衣斐詩軍・宇原公鷹麻呂が反旗を翻してから、常和国と衣斐詩はよりはっきりと敵対することになった。衣斐詩は今、一人の強大なリーダーの元に、その力を集めつつあった。

最北端の地でもその余波から逃れられず、逃げ出したり避難した人々により、強盗や盗みなどが日常的に起き、道をゆくにも武装を強めなければならなかった。

商隊についていた護衛の男たちの中に、アザカミはいた。

狩人の囮を引き受けたアザカミは、狩人・根古目清正に奇妙な執着を示され、仲間の元へは戻れず、数年間ずっと隠れるように暮らしてきた。

アザカミは幼い同胞に気づいており、時折助け船を出していた。


一家を加えた商隊は、山道を横断する途中、人外のような強さの盗賊に襲われる。

盗賊の頭からは、頭皮を突き破って角のようなものが生え、身体には多くの鉄の破片のようなものが張り付いていた。

護衛たちはなんとか盗賊を蹴散らすが、商隊の何人かが殺されてしまう。ウルヤの両親は、彼女をかばって亡くなってしまう。

乱闘の最中で、護衛の男とウルヤの病が盗賊の姿とよく似ているとばれてしまう。

共謀を疑われた二人は、商隊から外されてしまう。


残されたアザカミは、ウルヤを見捨てようとしたが、幼い頃の自分と重なり、連れていくことにする。

幼子を連れて旅を続ける訳にもいかず、アザカミは昔の仲間に彼女を預けようと考える。

しかし仲間と連絡を絶って数年たつ。どのくらい生き延びたかも分からない。それに、狩人が執拗に追跡しているせいで、仲間の元に狩人を連れてきてしまうのではないかと危惧したアザカミは戻る決断ができなかった。

しかし、自分の厄介事に幼子を巻き込む方が最も危険だ。

預けたらすぐに仲間のもとを離れようと決め、アザカミはウルヤを連れて、仲間を探しに向かう。


お互いに戸惑いながらも心を通わせていくアザカミとウルヤは、ついに仲間がいる浜の集落にたどり着いた。

アザカミが過去、任務で出入りしたときに使っていた家だ。

集落に隠れすんでいた協力者により、逗留していた元衣斐詩首領・ワッカと、元狩人と共に、アザカミは仲間がくる間まで集落に逗留する。


しかし、二人のあとを盗賊がつけており、集落が襲われてしまう。盗賊は、商隊をつけたのではなく、ウルヤたち一家をつけていた。

盗賊は、病が身体を蝕み世話人を必要としていた。容易く支配できる幼い同胞に世話をさせる目的で誘拐を際立てる。

アザカミとワッカは、ワッカを頼って尾崎のもとから逃げ出した元狩人とともに、機転を利かせたウルヤの助けを得て集落を守る。


ある夏の日、北方から船がやってくる。物資を調達しにきたノキと真澄は、行方不明となっていた弟分との再会をはたす。


ウルヤを預け、消えようとするアザカミに、ワッカが現在の狩人の動向を伝え、戻るよう強く進める。狩人は内部割れを起こし、鎧人を狩るひまなどないという。

心の揺れたアザカミの手を、ノキと真澄が掴む。アザカミは折れ、懐かしい友の手を握り返した。こうしてアザカミは、少女と共に同胞の元へ帰還した。

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