第104話 体温に壊される

 この後、俺たちはみんなで深夜のイルミネーションを見に行った。立花の車を借り、アンクリと遥夏の4人を後部座席に乗せたんだけど、あまりキツそうでもなかった。みんな細いからだな。男が4人も並んで座ったらむさ苦しいのに、女の子が並んで座っているとそんな気はまったくしない。これが男女の差……。


「変装しなくていいかなー?」

「しなさい」

「しないと駄目です。夜だからって気を抜いてはいけません」


 相変わらずのテンションの三人に、遥夏はついていけるかどうか……。


「私たちは責任取らないからね、有沙」

「えー。遥夏ちゃん、冷た~い」

「私も置いてく」

「私もです」


 大丈夫そうかな。


「立花。ありがとう」

「何が?」

「何がって……」

「友達だろ。友達の背中を押さない友達がいるか?」


 感動して目頭が熱くなった。


「……ありがとう」

「感謝はいらないから、奢ってくれ~」

「なんでも奢る」


 なんでも、というと立花はからかってきた。


「ゲーム機」

「え」

「嘘。ははっ」


 さすがにゲーム機は高い。

 青の洞窟に着いて車を降りると、少なからず人はいた。0時が回りそうな時間帯にも関わらず、カップルがイチャついていた。手を繋いでいる人たちを見て、俺と遥夏の思い出を思い出した。初めて付き合った時、あんな風に手を繋いでいた。


「綺麗!」

「青の世界ですね」

「……そうね」


 有沙さんたちや立花はイルミネーションに夢中になっていた。俺はその背中姿を眺めていたんだけど、遥夏は俺の隣に立っていた。

 ……繋いでもいいよな。

 遥夏の右手に、ほんの少し、かするくらいの気持ちで触れてみる。そしたら俺に視線が向いたような気がしたけど、俺は恥ずかしいから目の前のイルミネーションを見ていた。すると、遥夏も応えるように俺の指に触れた。


 この世界には俺と遥夏しかいないように錯覚する。


 しっかり握りたい。こんなじれったいんじゃなくて、俺がずっと隣にいてほしい思えた人の手を、俺の手が忘れないように、もう一生離さないように繋ぎとめておきたい。

 でも強くしっかり握らず、軽く遥夏の指に絡めた。


「変なこと言っていい?」

「ん」

「今、この世界には俺と遥夏しかいないんじゃないかって錯覚するくらい緊張した」


 手をつなぐだけで。

 こんなこと言ったらまだ緊張しているのかって、さっきみたいに言われる気がしたんだけど、俺の予想はまた外れた。

 遥夏は言った。



「じゃあ、私たちはお互いに溺れてるんだね」



 遥夏も俺と同じ気持ちだったみたいだ。

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