最終話 イチゴオレ

 あれから時期が経ち、俺は大学3年生になった。ちなみに今は冬で、もう少ししたら遥夏と付き合ってから2年が経つ。

 有沙さんたちは、今でもアイドルを続けていて超人気の売り子だ。アンクリの冠番組まで出来上がるほどだ。俳優をやってみないかとオファーが来たり、テレビCMにも顔を出している。この子達はまだ19歳だから、まだまだ伸びしろが見られる。一応、大学3年生の俺だけど立花芸能事務所に就職しそうな勢いで事務仕事をこなしているが、あの三人のそばで支えることもできている。

 今現在だって、2年前とは比べ物にならないほどの事務作業をこなしているわけだけど、三人のレッスンを見に行ったりしている。


「リツ君! おつかれさまです!」

「おつかれ」

「おつかれさま~! 今ダンス終わって、次はボイトレするんだよ~」


 三人は凄く大人っぽい顔つきになった。性格はまるで変わらないけどな。


「ボイトレ、そっか。俺も見に行こうかな」

「はあ、あきれた。私たちを見に来るわけじゃないくせに」

「そんなことないよ」

「どうだか」


 ほら、相変わらず七瀬さんはこんな感じ。

 どうしてこんなに拗ねているのかというと、それはレッスン室に行けばわかる。


「こんにちは!」

「こんにちは」

「今日もよろしくお願いします! 遥夏先生~!」


 レッスン室に入ると、トレーニング服を着て待っていた遥夏がいた。


「よろしくね。アンクリちゃん」


 そう。遥夏は独立してアイドル育成事業の講師として活躍しているんだ。ここの事務所だけではなくて他のアイドル事務所にも顔を出して、みんなのダンスや歌の指導を行っている。アンクリのレッスンは週に1度、つまり今週事務所で会える日は今日しかない。


「りつもレッスンしに来たの?」

「いや、休憩がてら見に来ただけ」

「これは、遥夏さんを見たかっただけですね」

「本当よ」


 言い訳をしても静音さんと七瀬さんに反論されては何も言い返せない。


「まあ、それも、あるかなー……」


 恥ずかしい。


「有沙のこと見に来たんでしょ? ね?」


 有沙さんのスキンシップも軽くて、俺にガンガン顔を近づけてくる。


「有沙!」

「きゃ~! 先生が怒った!」


 楽しそうだなぁ。

 あ、そろそろ休憩時間が終わる。


「俺はここで」

「またね~、リツさん」

「約束、忘れないでよ」

「事務所でドームライブ開催記念パーティですからね!」

「うん。準備しとくよ」


 室内から出て事務室に向かおうとした時、ボイトレ室のドアが勢いよく開いたと思ったら、急に腕をひかれた。振り向くと遥夏だった。何かあったのかと思ったら、俺の手にイチゴオレを握らせた。



「ん、お揃いだね」



 遥夏はもう一つのイチゴオレを片手に、笑顔でそう言った。

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