第102話 罪な男
私の最後のライブは、あっという間に終わった。夢のようなひと時は、6年間のアイドル活動に幕を閉じた。
「お疲れさまでした!!」
楽屋に戻ると、事前に告知を知っていたスタッフさんたちがケーキやお花を用意してくれていた。
「今までありがとうございました」
私の専属メイクアーティストさんは、桃色の綺麗な花をくれた。とても綺麗で、私はまた泣いた。
アイドルをやめるのは寂しいけど後悔はしない。私はこれから、今以上に勉強をして、裏方としてみんなを支えるんだ。
私のアイドル卒業祝いが終えた後、私に会いたい人がいるとスタッフさんから聞いて、多分有沙たちだと思ったから楽屋に来てもらった。
「遥夏ちゃーん!」
ドアを開けて私を見つけるなり、飛びつてきた。
「卒業おめでと~」
「ありがとう。びっくりした?」
「なんとなく辞めるかなって思ってたから、そんなにびっくりしなかった~」
勘がいい……。
「ななちゃんとしずちゃんは凄いびっくりしてたよ。しずちゃん、泣いてたもんね~」
「泣かないわけないですよ!」
静音さんは、私のファンなんだ。初めて知った。
そういえばりつは……。
「あの人なら、ここには来ないわよ」
「!」
「この会場にはいるから、時間があるなら探しに行ったらいいんじゃない?」
七瀬さんはりつのことが好き。なのに、私の応援をしてくれているのは気持ちの整理ができているからかしら。……いや、そんなはずない。
「警戒しないでよ。二人の仲を引き裂こうなんて思ってないから」
でも、と続けた。
「入る隙を見せたら、奪いに行くかもね」
ちょっと微笑んでそう言った。
七瀬さんはこの三人の中でもりつの好きなタイプに近いから、とられるかもしれない。私が知らないりつを知っているかも。今まで散々りつを傷つけた私だから、この胸の痛みは必要ないのに、痛みが消えない。
「私は、あの人とはもう……」
「それを伝える相手は、私たちではありませんよね」
俯いていた顔を静音さんに向けると、少し悔しそうに笑っていた。私にくっついていた有沙は私のことを楽屋から出るように背中を押した。
「リツさんのところ行って」
「え……」
「伝えたいこと決まってるでしょ。自分に嘘つかないで、伝えてきなよ」
有沙も、悔しそうな笑顔を見せた。
ああ、そういうことね。有沙も、静音さんも、七瀬さんも、みんな同じ気持ちをりつに向けているんだ。でもりつは私のことが好きだから、りつを応援することに決めた。入る隙があるなら奪いに行くのは、この子達みんな同じなんだ。
「行ってくる」
それでも私は、私を貫く。
♦♦♦
遥夏さんは、リツを探しに向かった。
その頃、私たちは立花さんが待っている車に乗り込んで話し合っていた。
「もし、あの二人が付き合ったらどうするー?」
「もちろん応援しますよ」
「……両想いでいるまでは応援する」
私はもう、あの人以外に好きだと思える人はできない気がするから。
「そっかー。そういえば依織君とはどうなの? しずちゃん」
「依織は、そういう相手では……。でも今度食事に行こうと約束はしました」
そっか。あの人、静音に告白してふられたんだっけ。
「って、私の話はいいですよ。七瀬はどうなんですか? 秋君と」
「……遊びたい、とは言われた」
「行くの?」
「今は行かない」
運転席に座っている立花さんは、気まずそうにこの話を聞いていた。
「有沙にはそういう相手いないから、ちょっと羨ましいー」
こんな風に軽く言ってるけど、本当はもっと気にしているはず。三人の中で有沙だけ告白されていない状況だから、一人が怖い有沙にとっては苦痛。
「誰かいい人いないかなー」
「僕とかどう?」
急に話に入ってきたのは立花さんだ。
「えー? 有沙のこと好きじゃないでしょー」
「あは~。でも、性格はあうと思うんだよねぇ」
「有沙のこと知ったら嫌いになるかもよ?」
「律貴が嫌いにならない相手なら、僕も嫌いにならないさ」
どう? 僕とデートでもしてみない? 本当に軽いノリで有沙をデートに誘った。有沙は悩むことなく答えを出した。
「今はリツさんしか見てないから」
ごめん、とは言わずに断った。
「ちぇー。律貴って罪な男だな~」
今頃、あの二人は再会できているかな。
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