第101話 私の色は変わらない
ライブ前の裏側
遥夏は化粧や衣装着替えを終えて、ステージの裏で最終確認を行っていた。
「板橋さんがいないけど、大丈夫かしら……」
「ほっとけ、あんなマネージャー」
板橋は軽くあしらわれていた。
「加藤さん! お知らせは、予定通り告知しますか?」
「はい、します」
「了解です! では、本番開始します」
もう始まるんだ。
スタッフによって会場に照明がついた時、私は煙に紛れてステージに登場した。ブーイングがくるかな、って思ったけどそんなこともなくて大きな歓声が響いた。そしてファンのみんなは、桃色のペンライトを掲げてくれた。
(そうだ。これが私の色……)
私が”笑わないアイドル”になる前から、私のカラーは桃色だった。変えずにしてくれていたんだった。前回のライブもそうだったのに、今改めて感謝しなければならないと感じた。
「あれ、見て!」
「笑ってる……」
今の私は、きっと笑えてる。
♦♦♦
「遥夏ちゃんが笑ってるー!!」
「記事のおかげで本調子になってきたのかもね」
「きゃー! 可愛いです~!!」
静音さん、めっちゃペンライト振ってる。(笑)
それにしても、遥夏が楽しそうにライブをしている姿が見れるなんて幸せだ。
「綺麗だな」
輝かしい、絵に描いたようなアイドル。
これからもずっとあの笑顔を見れると思うと嬉しいし、感動する。幸いファンの人たちは遥夏を批判することはなかった。ただ、頑張れ、って応援してくれる人がたくさんいた。優しい人に包まれている遥夏は、これからもきっと大丈夫だろう。
(頑張れ)
そのままの姿でいてくれ。
♦♦♦
最後の曲を迎えた時、私は泣きそうになった。
VIP席から見ているという有沙たちを見つけた時に、りつが隣にいた。りつが好きだと言ってくれた私の笑顔を、嬉しそうに見てくれていた。
それがとっても、嬉しい。
「最後の曲は、私のデビュー作です。でもその前に伝えることがあります」
ニュースでも取り上げてもらったから、みんなそれぞれ予想していたと思う。海外進出じゃないか、アイドルを辞めるんじゃないか、休暇をとるのかもしれない、とSNSで呟いていた。
あながち間違っていない回答がこの中にある。本当はこのライブのチケットを発売する前に伝えるつもりだった。そのほうが叩かれないし。
でも私はわがままだ。わがままなこの私を知ってもらいたくて、今、この場で伝えることにした。
「私は三年前から1年間、男性と交際をしていました。期待を裏切るような行為をしてしまい、本当に申し訳ありません。今日このライブに来てくださった皆様には伝えきれないほど感謝をしています。本当にありがとうございます。
そして、もう一つ伝えることがあります」
会場内が静まり返った。
怖い。怖いけど、言わないと。
「今日このライブをもって、私、加藤遥夏はアイドルを辞めます」
その言葉に、一気に会場がざわついた。
「急なお知らせでごめんなさい。自分勝手で、わがままで、ごめんなさい。
アイドルを辞める理由は、私が、アイドルの私を好きじゃないからです。私は大勢の期待を表で背負うことはできません。表舞台には立ちませんが、裏方として今後活動できたらいいなと思っています」
手が震える。声も震える。どういう顔をされるかな。
「遥夏ー! 頑張れー!」
「大好きー!!」
「わがままな遥夏も可愛い!!」
みんなは応援してくれた。一人の私を応援してくれた。
その声に、本気で泣きそうになって少しだけ涙が出てしまった。指で急いで涙を拭ってVIP席に目をやると、有沙たちが何か言っていた。頑張れ、って応援してくれているように見えた。そんな中、りつはずっと微笑んでくれていた。まるで、私の背中を押さないわけない、って言ってくれているようだった。
初めて救われた気がした。
初めて自由になれる予感がした。
「ありがとう……」
弱々しい私の感謝の言葉は、会場中に小さく響いた。
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