第99話 一途な友達、一途な元彼
「リツさん、どこに行ったんだろ……。思い当たる節ある?」
「んー。リツ君の好きな場所、思い出のある場所……」
「今日はクリスマス。ツリーでも見に行ったとか」
あっ! 有沙は思いついたように大きな声を出した。
「わかったかも」
スマホを取り出して、ある人に電話をかけた。
『どうしたの? 有沙』
すぐに電話に出てくれたのは、遥夏だ。
「リツさんと付き合った場所ってどこ?」
『どうしてそんなこと聞くの?』
「リツさんの家に行ったら留守中で、電話にも出てくれないから探しに行こうと思うって。リツさんは遥夏ちゃんと思い入れのある場所に行くんじゃないかなって」
『……私たちが付き合った場所は、渋谷のイルミネーション』
「青の洞窟?」
『ん』
「わかった。ありがとう」
有沙。電話を切ろうとした時、遥夏に名前を呼ばれて手を止めた。
『彼のこと、お願いね』
それは、多分そのままの意味だ。でも有沙は納得いかなかった。
「遥夏ちゃん。リツさんの好きな食べ物知ってる?」
『え? ……ペペロンチーノだよ。パスタはなんでも食べるけど』
「好きなスポーツは?」
『サッカー。中学の時に都大会で優勝してるから、特技でもある』
「じゃあ、好きな飲み物は?」
有沙の知っている律貴の好きな飲み物は、イチゴオレ。
『水とコーラだよ。水はずっと飲んでる』
「……甘い飲み物は?」
『好んで飲まなかった。パーティで会った時はイチゴオレを飲んでいたから、好みは変わってるんでしょうね』
有沙は、知らなかった。リツさんはなんでも食べると思っていたし、サッカーが好きなんて聞いたことない。飲み物だって、コーラが好きなのは知ってるけど、水が好きなんて知らない。
有沙は落としていた視線をあげて、まっすぐ前を見た。
「問題です! 律貴さんは有沙たちと出会う前からよくイチゴオレを飲んでいます。事務所ではそれ以外を飲んでいるところを見ません。その理由はなんでもしょう」
急に何? とは聞かず、遥夏は考えた。でもわからなくてずっと黙っていると、有沙は答えを言った。
「答えは、遥夏ちゃんが大好きな飲み物だから」
『!』
「遥夏ちゃんがいくらリツさんと顔を合わせる気がなくても、リツさんは遥夏ちゃんに会いに行くよ」
『来ないよ。だって電話した時、あの人は何も言わなかった。私に幻滅したからそういう態度をとったんだよ』
それを聞いて、三人は目を合わせて笑った。
「驚いて何も言えかっただけ」
「リツ君は遥夏さんが思っているよりも、何百倍も何千倍も一途ですよ」
七瀬と静音の言葉を聞いて、有沙も頷いた。
「待っててね。とりあえず、有沙たちは一人でいるであろうリツさんの背中を撫でに行ってくるから!」
『……っ』
「遥夏ちゃんはリツさんとどうなりたいのか、それだけ考えてればいいよ。あとはライブ楽しも! ファンに何を言われても、有沙たちは応援するから」
『……どうして、そんなに優しくしてくれるの……』
不思議なことを聞いてきたかのように、有沙は笑った。
「友達だから~」
遥夏のライブ__17時まであと6時間。
三人は青の洞窟に向かった。
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