第98話 カルマの法則

「話したいこと?」


 俺に話すことって、なんだろ。記事が出る前に話さないといけないこと、か……。嫌な予感がするのに、なぜか落ち着いていた。





「私、君と別れた後、板橋と身体の関係をもったの」


 私は有沙にりつの番号を教えてもらった。だから今、私のスマホから彼のスマホに電話をかけている状態。今は21時。ライブに備えてはやく寝ないといけないけど、これだけは伝えないといけなかった。

 驚かれることは想定内で、板橋と身体の関係をもってしまったことをりつに話すと、やっぱり黙られた。しばらく黙っていたから、頭の中を整理しているのかもしれない。


『身体って、ああいうこと?』

「想像の通り」

『……』

「私、板橋と約束したの。君に手を出さない限り、板橋に尽くすって。その中に身体の関係まで含まれていた」

『俺のことを守るために、遥夏が犠牲になったってこと?』

「君は悪くない」

『俺のせいだよ』


 りつが悪いみたいになってるけど、違う。


「違うよ。本当に、君は悪くない。私が悪いの」


 未熟な私が招いた結果だ。誓約書に同意した後、板橋に対する警戒心が薄れてしまった。そのせいで私は身体を許した。


「これだけ、伝えたかったの。じゃあ、ばいばい」


 切ろうとした時、りつは何も言わなかった。本当は何か言ってほしかったけど、そんなの生意気すぎる。私はりつに何も求めてはいけない。


「……ばいばい」


 もう一度、そう言って通話を切った。





 何も考えられなくなった俺は、遥夏に何も言えずに電話を切られてしまった。勉強ができるだけの俺は、頭の回転が鈍い。


「……」


 どうしよう。今日、寝れないかも。

 その予想はあたり、俺は一晩中目をぱっちり開けて起きていた。少しリラックスするためにお湯を飲んだり、夜の道を散歩してみたりしたけど、眠くなることはなくて、いつの間にか朝になってしまっていた。

 そして朝6時。伊草さんはネット上に俺たちの記事を取り上げた。まだ朝の6時なのに、もうSNS上では炎上しまくっていて、トレンド1位になっていた。

 記事の内容を見た時に、板橋さんと遥夏のことが書いてあった。遥夏が寝ている間に強姦という犯行に及んだこと、それからよく板橋さんの家につれられて遊ばれたみたいだ。遥夏がその時の音声データを撮って、記者に渡したんだ。


「……あれ」


 涙が、零れた。頬に雫が伝っている。


「……はあ」


 ちょっとだけ泣いて、情緒を整えた。



♦♦♦



 その時、板橋は__。



【2年前の報道は嘘? 加藤遥夏、強姦事件の真実を明かす】

【大手芸能事務所の社長、家の中に大金隠す 娘が見つけて告訴】

【女性ソロアイドル・加藤遥夏のマネージャー 強迫・強姦容疑で逮捕か】



「……なんなんだ、これは」


 テレビのニュースやネット上の記事を見て、震えていた。その時、外から報道陣の声が聞こえて、怒りが爆発した。


「くそが!!!」


 グラスを地面に叩きつけるように投げると、当然のごとく破片が飛び散った。

 この後、板橋は警察に拘束され、その様子を見ていた近所の人によりSNS上でその写真が出回る。



♦♦♦



 UnClearの三人は、七瀬の家に泊っていた。朝早くに起きてニュースと記事を確認すると、三人は顔を合わせた。


「これでやっと……」

「いいえ。まだです」

「これからこの人たちは、痛い目を見る。それを見届けないとね」

「有沙はいいけど、しずちゃんパパは……」

「いいんです。償ってもらいます。私の、私たちの大切な人の人生を汚したんですから」

「……そっか」

「あとは、遥夏さんとリツがどうなるか」

「どうなるんでしょうか。今頃、リツ君は驚いているでしょうね」

「昨晩、遥夏ちゃんは自分の口からリツさんに、板橋さんとのこと伝えたんだって」


 七瀬がリツに電話をかけると、出てくれなかった。


「リツさんは、今晩のライブに来るでしょうか」

「そもそもライブどころじゃないんじゃない?」


 先行きが不安だった。



♦♦♦



 そして遥夏は、朝から報道陣に囲まれないように事務所にたどりついた。事務所に入って最初に、社長にお呼ばれした。


「この記事はどういうことだ!」

「そういうことですけど」

「ええい! 板橋はまだ来ないか!!」

「報道陣に捕まっているのではないでしょうか」

「脱税のことだって、くそ、有沙め!!」


 自分の娘を恨む父親はとても滑稽に見える。


「有沙は社長の部屋にある大金を見つけただけよ。財務諸表・領収証データは、私が会計係から入手した。これからもっと取り調べを受けることになるんじゃない?」


ガチャッ!


 いきなりドアが開くと、見知らぬ人たちが入って来た。綺麗な黒いスーツに鋭い目つき、いかにも頭のよさそうな人たちだった。


「税務署の者です。これから犯則調査を行います」


 この後、数時間にわたる犯則調査が行われ、脱税したことが明らかになると、川端社長は今後行われる地方裁判で判決を下される。多額の脱税のため、実刑は免れないだろう。



♦♦♦




 一方、律貴。


 アンクリの三人が律貴のマンションに向かいインターホンを鳴らしたが、留守中だった。

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