第98話 カルマの法則
「話したいこと?」
俺に話すことって、なんだろ。記事が出る前に話さないといけないこと、か……。嫌な予感がするのに、なぜか落ち着いていた。
♦
「私、君と別れた後、板橋と身体の関係をもったの」
私は有沙にりつの番号を教えてもらった。だから今、私のスマホから彼のスマホに電話をかけている状態。今は21時。ライブに備えてはやく寝ないといけないけど、これだけは伝えないといけなかった。
驚かれることは想定内で、板橋と身体の関係をもってしまったことをりつに話すと、やっぱり黙られた。しばらく黙っていたから、頭の中を整理しているのかもしれない。
『身体って、ああいうこと?』
「想像の通り」
『……』
「私、板橋と約束したの。君に手を出さない限り、板橋に尽くすって。その中に身体の関係まで含まれていた」
『俺のことを守るために、遥夏が犠牲になったってこと?』
「君は悪くない」
『俺のせいだよ』
りつが悪いみたいになってるけど、違う。
「違うよ。本当に、君は悪くない。私が悪いの」
未熟な私が招いた結果だ。誓約書に同意した後、板橋に対する警戒心が薄れてしまった。そのせいで私は身体を許した。
「これだけ、伝えたかったの。じゃあ、ばいばい」
切ろうとした時、りつは何も言わなかった。本当は何か言ってほしかったけど、そんなの生意気すぎる。私はりつに何も求めてはいけない。
「……ばいばい」
もう一度、そう言って通話を切った。
♦
何も考えられなくなった俺は、遥夏に何も言えずに電話を切られてしまった。勉強ができるだけの俺は、頭の回転が鈍い。
「……」
どうしよう。今日、寝れないかも。
その予想はあたり、俺は一晩中目をぱっちり開けて起きていた。少しリラックスするためにお湯を飲んだり、夜の道を散歩してみたりしたけど、眠くなることはなくて、いつの間にか朝になってしまっていた。
そして朝6時。伊草さんはネット上に俺たちの記事を取り上げた。まだ朝の6時なのに、もうSNS上では炎上しまくっていて、トレンド1位になっていた。
記事の内容を見た時に、板橋さんと遥夏のことが書いてあった。遥夏が寝ている間に強姦という犯行に及んだこと、それからよく板橋さんの家につれられて遊ばれたみたいだ。遥夏がその時の音声データを撮って、記者に渡したんだ。
「……あれ」
涙が、零れた。頬に雫が伝っている。
「……はあ」
ちょっとだけ泣いて、情緒を整えた。
♦♦♦
その時、板橋は__。
【2年前の報道は嘘? 加藤遥夏、強姦事件の真実を明かす】
【大手芸能事務所の社長、家の中に大金隠す 娘が見つけて告訴】
【女性ソロアイドル・加藤遥夏のマネージャー 強迫・強姦容疑で逮捕か】
「……なんなんだ、これは」
テレビのニュースやネット上の記事を見て、震えていた。その時、外から報道陣の声が聞こえて、怒りが爆発した。
「くそが!!!」
グラスを地面に叩きつけるように投げると、当然のごとく破片が飛び散った。
この後、板橋は警察に拘束され、その様子を見ていた近所の人によりSNS上でその写真が出回る。
♦♦♦
UnClearの三人は、七瀬の家に泊っていた。朝早くに起きてニュースと記事を確認すると、三人は顔を合わせた。
「これでやっと……」
「いいえ。まだです」
「これからこの人たちは、痛い目を見る。それを見届けないとね」
「有沙はいいけど、しずちゃんパパは……」
「いいんです。償ってもらいます。私の、私たちの大切な人の人生を汚したんですから」
「……そっか」
「あとは、遥夏さんとリツがどうなるか」
「どうなるんでしょうか。今頃、リツ君は驚いているでしょうね」
「昨晩、遥夏ちゃんは自分の口からリツさんに、板橋さんとのこと伝えたんだって」
七瀬がリツに電話をかけると、出てくれなかった。
「リツさんは、今晩のライブに来るでしょうか」
「そもそもライブどころじゃないんじゃない?」
先行きが不安だった。
♦♦♦
そして遥夏は、朝から報道陣に囲まれないように事務所にたどりついた。事務所に入って最初に、社長にお呼ばれした。
「この記事はどういうことだ!」
「そういうことですけど」
「ええい! 板橋はまだ来ないか!!」
「報道陣に捕まっているのではないでしょうか」
「脱税のことだって、くそ、有沙め!!」
自分の娘を恨む父親はとても滑稽に見える。
「有沙は社長の部屋にある大金を見つけただけよ。財務諸表・領収証データは、私が会計係から入手した。これからもっと取り調べを受けることになるんじゃない?」
ガチャッ!
いきなりドアが開くと、見知らぬ人たちが入って来た。綺麗な黒いスーツに鋭い目つき、いかにも頭のよさそうな人たちだった。
「税務署の者です。これから犯則調査を行います」
この後、数時間にわたる犯則調査が行われ、脱税したことが明らかになると、川端社長は今後行われる地方裁判で判決を下される。多額の脱税のため、実刑は免れないだろう。
♦♦♦
一方、律貴。
アンクリの三人が律貴のマンションに向かいインターホンを鳴らしたが、留守中だった。
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