第82話 臆病なマリオネット
遥夏は自分をけなしている。自分のどこがいいか、なんて、そんなこと聞かないでほしい。
「本当にそう思ってるなら怒る」
顔を上げた遥夏と目が合う。俺が少し怒っていることが声でわかったのか、ちょっとだけ眉毛を八の字にしていた。でも俺はそれを無視して、少しだけ怒鳴ってしまった。
「俺は遥夏に一目惚れしたけど、見た目だけが好きで告白したわけじゃないから」
勘違いされたまま付き合っていたのかと思うと、凄く嫌だった。
「……ごめん、なさい」
遥夏はうつむいた。
少し言い過ぎた、とは思ってない。好きな人には俺の気持ちをしっかりわかってほしかった。だからもっと君への愛を伝えたかった。でもその時、電話の音が鳴った。
「もしもし、……板橋? なに?」
最悪だ、このタイミングできたか。
「えっと、今は、スタッフに送ってもらってるところよ」
気まずそうに会話をしているのは近くに俺がいるせいだ。
遥夏が電話している最中、俺はこっそり車から出て、後部座席に移動した。その間に遥夏はもう電話を切っていて、俺が遥夏の隣に座った頃には鞄の中にスマホをしまっているところだった。
「……家の近くで降ろして。そこからは歩いて帰れるから」
俺が隣に来たことに対して何も言わなかったのは俺との会話を避けるためかな。でも俺は遥夏の手を握って話を続けようとした。すると遥夏は、俺の手を振り払った。
「やめて!」
ちょっと震えた声が車の中に響いた。
「さっきは私が無神経なことを言って怒らせたから、ごめんなさい。でも、もう、金輪際、この話はしたくない。
話したところで私の気持ちは変わらない。
ずっとこのままなの。変わらないの。
私はもう君と関わらない。君も私と関わらない」
だから
「もう私のこと、好きでいなくていいんだよ」
__なんだよ、それ。
「なんで、俺が無理に遥夏のこと好きみたいな……」
どうしたらそんな考え方になるんだ。
「マリオネット君」
遥夏は俺の顔を見て、悲しそうな表情を見せた。
「君は、私のせいで不自由だよ」
泣きそうな声。少し意地悪したらすぐにでも泣きそうなくらい弱かった。でも俺は、そんな遥夏に触れられなかった。いつもならすぐにその小さな手を握るし、その華奢な身体を抱きしめてあげる。でも身体が固まって何もできなかった。
自信がなかった。
今の俺では、遥夏を元気にすることはできない現実を突きつけられた気分だ。
「私、ここで降りるね。送らなくていいよ」
遥夏はドアを開けて外に出た。送ってあげないといけないのに、気力がなくなってしまって何も考えられなくなった。
【君は、私のせいで不自由だよ】
そんなことない、って、言えなかった。
「どこまで俺は……」
どこまで、臆病なんだろう。
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