第64話 有沙の王子様

♦♢♦♢





 さて、あの二人はどこに行ったんだ。


「電話をかけてみます」

「うん。俺が有沙さんに電話かけるから、静音さんは七瀬さんにかけて」

「了解です」


 電話をかけると、しばらく出てくれなかった。もうすぐ切れてしまいそうなところで、有沙さんは電話に出てくれた。


「有沙さん。今どこにいる?」

「七瀬! どこにいるんですか?」


 同時に電話に出た。


『屋上だよー。ななちゃんと一緒にいて、少しだけ話してたの』


 元気が、なさそう。


「大丈夫?」

『……えー? 大丈夫だよ~』


 どこが大丈夫なんだ。昨日のこともあるし、有沙さんの事情をもっと理解してあげたいな。


「あのさ、今日ってレッスン何時まで?」

『えっとね、18時までだよ~』


 俺の勤務時間が17時までだから、1時間待てばいいのか。


「二人で、食事でも行く?」


 周囲の目を気にしてこういうことは避けていた。だから俺がどうして有沙さんを誘ったのか不思議だけど、放っておけないんだ。ばっちり変装すればバレないことがわかったし、個室のある店を選べば問題はないだろう。多少、値段は高くなるけども。


『あはは!』


 有沙さんは笑っていた。でも嬉しそうだった。


『どこに連れて行ってくれるの? 王子様』


 冷やかしてくるなぁ。


『なーんてね。嬉しいけど、今日は予定が入ってるんだ~。また今度誘ってね』

「そっか。わかった。あんまりさ、無理は……」


「過保護」


 電話越しからは聞こえなかった声に驚いて、すぐに真後ろを向いた。


「七瀬さん」


 びっっっくりしたあああ。心臓に悪い。


『……もう切るね。ありがとう』


 電話が切れた後、俺はスマホをポケットにしまった。七瀬さんは腕を組んでずっと俺の目を見ている。


「二人で食事はやめて。有沙の話を聞くにしても、場所は謹んで」


 ……食事は、流石に早まりすぎた。ていうか、よく考えたら急に食事に誘っただけで有沙さんの本心を聞けるわけでもない。気を遣われることは、苦手そうだし……。



 俺は素直に、ごめん、と謝った。





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