第41話 独りの改感
今日は、アンクリの強化合宿が始まる日だ。
メールで”いってらっしゃい”の一言でも送ろうと思ったんだけど、なんだか朝から気分が悪い。3日前から身体に力が入らないなとは思っていたけど、まさか今日このタイミングで体調を崩すとは思わなかった。
俺のスマホどこだろ。あ、小さい机の上だ。腕を伸ばせば届くかな。
「うっ、はぁ」
ギリギリ届かない。これ以上前のめりになるとベッドから落ちる。ベッドから落ちたら下の階の人に音が響いて悪いからやめておいた。
「あっつ」
猛暑日に高熱って……。
どうしよう、喉が渇いた。動けない。
「はぁ……、はぁ……」
このまま寝ればよくなるかな。
俺、熱出た時どうしてたっけ。
両親に見捨てられた後、ストレスで体調を崩したことがあったけど、どうしてたっけ。
独りで、何してたっけ。
Prrr...Prrr...
スマホに電話がかかってきた。部屋中に響くその音に意識が朦朧とし、いつの間にか俺は眠りに落ちた。
♦♢♦♢
朝の8時、空港で待ち合わせをした私たちはリツさんだけを待っていた。リツさんのことだから、待ち合わせの5分前には着いてると思ったのに全然来ない。
だから大ちゃんに聞いた。
「大ちゃん。リツさんはー?」
すると、大ちゃんは申し訳なさそうな顔をして私達に頭を下げた。
「ごめん。あいつは来れないんだ」
有沙達3人の中で一番驚いていたのは、多分ななちゃん。いつもと変わらない涼しい顔をしているように見えるけど、そういう顔をしている時ほど感情を抑えようとしてる時だから。
しずちゃんは泣きそうな顔をしていた。
「ど、どうしてですか? なんで言ってくれなかったんですか」
大ちゃんが言うには、事務所で働く他のバイトの子たちの嫉妬が原因みたい。リツさんのおかげでビーチに行けるから、ついてきていいのに。
しずちゃんはずっと大ちゃんと言い合いをしてて声をかけられる雰囲気じゃなかったから、ななちゃんと二人で会話をした。
「リツさんの家行ってつれてくるー?」
「間に合わない。……電話でもかけてみたら」
ななちゃんはツンデレだから、本当は電話をかけたいけど自分から電話をかけるのは恥ずかしかった。だから代わりに私が電話をかけた。
「んー、出ない。有沙、帰ろうなぁ」
「……それはあの人に失礼」
「え?」
「あの人は、元々静音に貸切券をあげる予定だった」
ななちゃんはそれ以上言わなかった。
元々しずちゃんにあげる予定だったから、私達が行かなかったら悲しんじゃうって言いたいのかなぁ。
「ななちゃんは優しいね~」
「っ、私は優しいことは言ってない」
大ちゃんと話が終わったしずちゃんは、まだ泣きそうな顔をしていた。リツさんと電話がつながらないことを話すと、現地に着いたらまた連絡することに。
一緒に来てほしかったなぁ。
なんのために水着を買ったのかわからないじゃーん。
♦♢♦♢
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます