第40話 悪いお知らせ?
元々、圭さんが持っていた別荘でアンクリの強化合宿が行われる予定だったけど、俺が夏祭りでプライベートビーチの貸切券を獲得したことをきっかけに変更になった。
レッスン室で、有沙さんはテンションが上がっていた。
「リツさんのおかげだよ~! プライベートビーチなんて久しぶり~」
強化合宿は3日後だ。荷物は圭さんが運送業者に頼んで持っていくことになっていたから、明日には荷物を運ぶ予定になっている。
ビーチのお泊りなんてしたことない。日帰りで海水浴することなら立花と毎年しているけど。あ、そういえば立花とも海に行こうって話をしてたんだ。合宿終わった後じゃないといけなそうだな。
「かき氷機あるかな~?」
「ないと思います。外で食べに行きましょう」
「うん! みんな何味食べたい?」
「珈琲」
「ブルーハワイがいいです!」
「有沙は全部! リツさんは~?」
「あー、イチゴかな」
楽しそうに話している時、ドアが開いて大智さんが真剣な顔で俺を見つめた。
「リツ、ちょっといいか?」
いつもより真面目な雰囲気で緊迫していた。大智さんはこの部屋を出て行ったから、俺はすぐにその後を追った。レッスン室から離れた場所にある広間に出て、やっと俺のほうを見た。
「今回の合宿なんだが、リツは行けない」
すごい、急だ。
圭さんからは一緒に行くようにって言われたのに、なんで今になって俺は行けなくなったんだろう。
「あの、どうして急に……」
大智さんは困った顔をした。
「実は、リツ以外にもここでバイトしてる奴が5,6人くらいいるんだよ。そいつらが、リツがアンクリと合宿に行くって話をどっかで聞いたらしく、不公平じゃないかってな」
ああ、言われてみれば不公平だ。現場スタッフの担当をしているとはいえ、贔屓みたいになるし。そもそもダンスや歌の才能がない俺が合宿に行ったところで、あの3人に何かできるわけじゃない。ただ見ているだけなら行かないほうが良い。
「わかりました。強化合宿、頑張ってください」
「悪いな。ビーチの貸切券は返すよ」
「いえ、いいです。どうせあげる予定だったので」
大智さんはまた俺に頭を下げた。
「このこと、あいつらには内緒にしてくれ。リツが行けないって知ったら、自分たちも行かないって言いだすだろうし」
そこまで俺って好かれてるかな。
「……はい。わかりました」
「もう勤務時間終わるよな。明日もシフト入ってるか?」
「いえ。明日から1週間は入ってないです」
「そっか。じゃあまた来週に会おうな。お疲れ」
「お疲れ様です」
冷房の効いた事務室に戻って涼みながら帰る準備をした。
「くしゅっ!」
寒くなってきた。思えばずっと冷房つけっぱなしだった気がする。
「風邪?」
「っ!?」
急に声が聞こえて、誰かと思ったら七瀬さんだった。
奥にあるソファに腰を掛けていた。この部屋に入ったらすぐ気づくはずなのに、下を向いていたから気づかなかった。
「冷房かけすぎ」
「ごめん。寒いよね、止める」
パーティの時もそうだけど、七瀬さんは身体が冷えやすいと思う。この部屋には俺以外にも出入りする人は少なからずいるんだ。自分のことばっかり考えていて、周りへの配慮ができてなかった。
「俺に用があって来たの?」
「涼しいからここにいただけ。もう行く」
時間を見ると、16時だった。俺の勤務時間はこれで終わりだ。
「じゃあ帰るよ。練習、頑張って」
部屋を出ようとドアノブに手をかけた時、服の袖を引かれた。
「七瀬さん?」
「……前に、過去の話、してくれたでしょ」
「うん」
「その、私……」
申し訳なさそうな顔をしている。ということは、もしかしたら__。
「謝る必要ないよ」
意表をつかれた七瀬さんは、驚いた顔をして俺を見た。
だんだん七瀬さんの気持ちがわかるようになってきたかもしれない。
「七瀬さんは本当の過去を知らなかった。だから俺のこと変に思っても仕方ない。だから気にしてないよ」
「でも……」
「この話はやめよう」
謝られるのは好きじゃないし、七瀬さんに非はないからな。
「じゃあね」
部屋を出て歩き出す。後ろを向くと、七瀬さんはまだあの事務室の中にいるせいか一向に出てこなかった。
でも、俺は背を向けて家に帰った。
家に帰った後は、少しだけ身体が重かったから、風呂に入ってゆっくり湯舟につかった。風呂から出たら、夕飯を作った。
__カラン!
「あっ」
フライパンを落としてしまった。
火をつける前でよかった。なんだか手に力が入らない。こんなに疲れてたんだ。はやめにバイトをあがってよかった。
これから一週間休みだし、ゆっくりしよう。
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