第36話 男同士の会話
3人を先に行かせて、俺は遥夏のいる自販機に行った。すると、イチゴオレをジッと眺めてため息をついていた。最後の1本を俺が買ってしまったせいで、遥夏のぶんがないんだ。
「これ買いに来たんだろ。あげる」
少し驚いた遥夏は静かに受け取った。
「俺、バイトの時いつもそれ飲んでるよ」
「……そう」
「8月のフェスで会おう。またね」
俺はそう言って3人のもとに戻った。
大智さんの車には立花と圭さんが乗っていて、必死にマジカルバナナをしている声が車窓から漏れていて面白かった。
「私、大ちゃんに話したいことがあるのであっちに乗りますね」
静音さんが大智さんの車に乗り込むと、立花が車から降りてこっちにやってきた。
「お疲れ。4人で律貴の車乗りましょうよ」
「いいよ~」
七瀬さんは何も言わなかったけど、車に乗ってくれた。帰りは立花が運転してくれて、俺はいつものように助手席に乗ろうとしたんだけど、後部座席に乗ることになった。有沙さんの助手席に座ってみたいという希望がとおったからだ。
でもしばらくすると、有沙さんは熟睡して、七瀬さんも眠ってしまった。
「みんな寝てるー?」
「うん、寝てる」
七瀬さんは俺が着ていたスーツを肩にかけているから寝るには気持ちいいかもしれないけど、有沙さんは何も羽織っていなかった。だから、いつも車の中にいれている布団を後ろから足の上にかけてあげた。
「相変わらず、律貴は優しいな」
どっかのお父さんみたいなことを言う。
「立花。さっき、ありがとう」
「あー、静音ちゃんと七瀬ちゃんを見といてくれってやつ? 全然いいよ」
立花が優しいやつでよかった。
「そういえば遥夏ちゃんと話せたらしいじゃん。どうだった?」
「体育祭の時に比べたらかなり話せたよ。プロデューサーの板橋さんが療養中っていうのもあってさ」
「おっ! じゃあ2年前の報道のことも聞けたんだ」
思い出しただけで辛くなるかと思っていたけど、案外そうでもなかった。
「微妙だよ。俺のことは好きじゃない、さようならってお別れされた」
立花は黙って聞いてくれた。
「でも諦める気はない。8月のフェスでも会えるし、またその時に声かけてみる」
「気をつけろよ」
「うん。ありがとう」
もうすぐ地元の区域に突入するところで、立花は変な話を吹っかけてきた。
「昨日も言ったけど、やっぱり律貴は有沙ちゃんとお似合いだと思うよ」
赤信号を見て、ブレーキを踏んだ。
「有沙ちゃんの体調に気づいてすぐ声かけて元気づけてあげたし、よく有沙ちゃんと電話だってしてるじゃん」
「体調に気づいて元気づけるのは俺の仕事。電話は業務用みたいなものだよ。有沙さんがよくかけてくるから出てるだけ」
信号が青に変わり、アクセルを踏む。
「そこだよ。有沙ちゃんに振り回されてる感じが、律貴が遥夏ちゃんと付き合ってた時と重なるんだよ。ぶっちゃけどうなの? 律貴君」
そんなこと言われたって困る。
アンクリの3人を恋愛対象に入れるなんて考えたこともない。可愛いなとは思うけど、それ以上いかない。
でも、印象的な人はいる。体育祭の時、空君にアンクリの推しは誰だと聞かれて思い出したんだ。あの事務所に行って、初めてアンクリに会った時に印象的だった人。
「推しとか、恋愛で好きって言える人はいないけど、初めてアンクリに会った時、一番印象に残ったのは__」
車窓の外を眺めながら、呟くように名前を言った。
「有沙さん」
駅前に着いた後、寝ていた二人を起こした。
「七瀬さん、起きて」
「……ん」
「大智さんの車に移動して、家まで送ってもらいな」
七瀬さんは俺を無視して車から降り、大智さんの車に乗り込んだ。有沙さんも続いて目を覚まして、大智さんの車に移動した。
「七瀬ちゃんって、けっこう距離つかみにくいなぁ」
「んー、少し」
「律貴の性格にはあわなそうな人じゃん?」
その通りだ。ああいうタイプは今まで出会ったことないし話したことがない。
「でも、可愛いところあるんだよ。たまに甘えてくる」
「へぇ?」
立花は気持ち悪いほどニヤニヤしていた。
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