第31話 クルーズパーティ

 待ち合わせ時間に駅前に行くと、大智さんの車が止まっていて、近くに圭さんが立っていた。近くに車を止めると、こっちに気づいて圭さんはやって来た。

 車に入れると、すぐに出発した。


「おはよう、二人とも」

「おっはー」

「おはようございます」

「律貴君。今日はやけにイケメンだね~」

「あはは……」


 クルーズの場所まで1時間半くらいかかるみたいだから、3人でしりとりやマジカルバナナをして遊んだ。


「バナナと言ったら黄色!」立花はノリノリだ。

「黄色と言ったら月!」

「父さん。月は黄色っていうか黄色に見えるだけで黄色じゃないんじゃね?」

「え!? じゃあ僕アウトかぁ」


 楽しかった。

 1時間半はあっという間ですぐに到着した。車を駐車したら外に出て、アンクリの3人と大智さんの6人で顔を見合わせた。静音さんは俺を見ておどおどしていた。多分、俺の変装の代わりように驚いてるんだ。


「僕の息子、広樹だよ」


 そういえばずっと立花って言ってたから下の名前忘れてた。


「は、初めまして」


 立花はアイドルを目の前に緊張していた。

 俺も緊張していた。だって3人とも綺麗な黒いドレスを着てて、それも凄い似合ってるから目のやり場に困ったし。


「社長にそっくり~!」有沙さんは相変わらずのテンション。

「よろしくお願いします。広樹君」


 七瀬さんは挨拶をしなかったけど、いつもの無愛想な顔はなくて少しだけ口角をあげていた。

 俺にはいつもそんな顔しないから、立花がいるおかげか。


「リツさん。今日はちゃんと髪型整えてきたんだね~。眼鏡までしちゃって~」


 有沙さんは俺がウィッグを変えたことに気づいていながら触ろうとしてきた。流石にずれたらいけないから頑張って避けた。


「なんで触らせてくれないのー?」

「く、崩れるから」


 俺たちがじゃれあっている様子を見ていた圭さんと大智さんは笑っていた。


「あはは。二人とも仲が良いね!」

「そんなに仲良しだったか! がはは!」


 子を見るような目ってこういうことか。恥ずかしくなってきたから、有沙さんと少し距離をとったら、隣には七瀬さんがいた。


「こっち来ないで」周りに聞こえないように呟かれた。


 あれ、ちょっと会ってない間に冷たくあしらわれてる気がする。


「よし、行こうか!」


 圭さんの後ろをついていく。

 俺の前で、大智さんが七瀬さんと何か話していた。後ろには、立花が静音さんに声をかけていた。有沙さんはずっと俺の顔を覗き込むように見ている。


「有沙、こっちのほうがタイプ~」

「あ、ありがとう?」

「ねえねえ。今日は気合いれて化粧したんだよ、綺麗?」


 有沙さんみたいな明るくていかにも天然そうな顔をしている人がクールな化粧に真っ黒なドレスを着ているのは、いつもと違ってお洒落だと思う。


「うん、綺麗だよ。ドレスも似合ってる」

「……えへへ、やった~」へらっと笑った。


 犬みたい。

 すると、俺と有沙さんの間に後ろから静音さんが入ってきた。


「リツ君。私も大人っぽい化粧に変えたんです。ど、どうですか?」

「もちろん、静音さんも綺麗だよ」


 静音さんは自分から聞いておきながらかなり照れていて顔が真っ赤だった。そんな静音さんの顔を見て立花は興奮していた。


「俺、静音ちゃん推しになりました!」


 静音さんの両手を握って目を輝かせていると七瀬さんが注意した。


「他の人も見ているので、そういうことは控えてください」


 立花の前だと優しい顔で、声に棘がない。

 俺は変態だと罵られている身だからそんな優しい顔向けられることなんてない。だから少しだけ複雑だった。


「は、はい!」


 立花は俺に耳打ちした。


「七瀬ちゃん、本当にドS? そんな感じないけど」

「あはは……」


 圭さんの顔を立てて船の中に乗り込んだ俺たちは、会場のデッキに案内された。一応アンクリ専用の控室もあったけど、体調が悪くなった時以外は行かない。


「開演時間は16時からだから、その間にジュース飲んだり、他のアイドルと話して楽にくつろいでて。僕は挨拶行かないとだから、じゃあね」


 圭さんがいなくなると、6人になった。大智さんはいつの間にかワインを片手に持っていた。


「ねー。ここ緑茶ないのー?」

「それが、ないんだなぁ」

「えーつまんない。帰るー」

「おいおい! 来たばっかだろ!」


 自由奔放な有沙さんは、大智さんを振り回していた。


「あれ? 静音さんどこ?」


 いつの間にかいなくなっていた。


「いつもの迷子ね。この会場から逃げることはないと思うけど」

「あ、じゃあ俺が探しに行ってきます!」


 立花は静音さんを追って行ってしまった。有沙さんと大智さんもいないから、七瀬さんと二人きりになった。

 気まずい空気が流れていると、ウェイターさんが片手に丸いトレイを持ち、その上に飲み物が乗っていた。お酒ではなさそうだったから2つ貰った。


「ん。これ」

「私、未成年」

「酒じゃないよ。シャンメリー」


 七瀬さんは片手に受け取ると、軽く飲んだ。俺も軽く飲んでみたけどやっぱりアルコールは入ってない。


「貴方は飲まないの? アルコール」

「19だよ。俺も未成年だからね」


 誕生日はまだ先だ。

 風が強く吹くと微妙に寒気がした。ドレスを着ている七瀬さんは寒そうに片腕を擦っていたから、俺の着ていたスーツを七瀬さんに羽織ってあげた。


「鳥肌立ってるから、着ときなよ」

「……ん」


 懐かしいな。前もカーディガンを貸したっけ。




「なぁ、あれ加藤遥夏さんじゃないか?」

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