第28話 幼馴染な家族
「お気にいりの水着買えた~! よかった~」
「はいはい」
「よかったですね。有沙」
当然、その水着を持つのは俺。
まだ両手がふさがってないけど、これから隅々まで店を回るから手荷物が増える。少し地獄だけど、静音さんの様子を見るのにいい機会だ。
昼食をとった後、またモール内を回った。
「こっちはやめとこ~」
「私、あの店がいい」
「うん! そうしよー」
なんでだ? あっちってゲームセンターだけど、3人とも興味ないのかな。プリクラとか高校生女子はみんな大好きだと思ってたけど。
「……っ」
静音さんは遠くにあるゲームセンターを見て立ち尽くした。何かを思い出したような顔をしていて、よく見ると拳を握っていた。
「しーずちゃん! あっち行こうよー」
有沙さんが無理矢理静音さんの腕をひいたからこの場所から移動できたけど、ゲームセンターに嫌な思い出でもあるのか?
状況を掴めていない俺を見て、七瀬さんは言った。
「静音は、ああいう音の多いゲーム関連のお店は嫌い」
音の多い、っていうのはパチンコ屋も含まれるんだと思う。
「なんで嫌いなの?」
「私のことじゃないから言えない」
以前、有沙さんも同じことを言ってた。やっぱりみんな優しい。幼馴染っていうより、家族みたいな絆があるように見える。
「あ! ななちゃんの好きなブランドだよ」
「寄る」即答。
いかにもハイブランド。俺は入りにくいから、店の外の椅子に座っていた。静音さんもああいう場所が苦手なのか店には入らず、俺の隣に腰かけた。
「静音さん。気分は大丈夫?」
「……大丈夫、ではないかもしれませんね。あはは……」
いつもの笑顔が少ない。無理に笑ってる感が否めない。
「無理して笑わなくていいよ。俺もそういう時あるし」
「……優しいですね、リツ君は」
目を閉じて微笑んだ。今の微笑みは偽りじゃなさそう。
「以前、私のためにできることはないかと聞いてくれましたよね」
「うん」
「行ってみたいところがあります」
行ったことがない場所か。俺なんかと一緒でいいのかな。
でも、有沙さんでも七瀬さんでもない俺への頼み事なんだから聞くしかない。ていうか、聞いてあげたい。
「いいよ。いつ行く?」
「私の誕生日、7月7日はどうですか?」
「……いいんですか? 誕生日に俺となんて」
「その日がいいんです。その日じゃないと勇気がでません」
どういう意味かわからないけど、7月7日の午後に、二人で会うことになった。
一通りモールを見終わると、時刻は15時になっていた。有沙さんの提案でカフェに入ることになり、そこでくつろいでいた。
七瀬さんは相変わらず苦い珈琲、有沙さんはホットドッグに煎茶、静音さんは紅茶を頼んだ。みんな飲み物はいつもと変わらないのが面白い。
「リツさん。ここにはイチゴオレないねー?」
「そうだね」
さすがにカフェにイチゴオレはないか。
他に遥夏が好きだったものは、この中だと、これだな。メロンソーダのフロート。
「じゃあ、メロ……」
あ、待って。七瀬さんは甘い物が苦手だ。だから有沙さんはデザートを頼んでないんだった。よく考えれば気づくことだから、途中で気づいてよかった。
「俺も煎茶で」
「珍しいねー。有沙の家で飲んだ緑茶が美味しかったからかなー?」
「え!? 有沙の家に行ったんですか」
「あ、ああ、うん。ちょっとね」
気まずい。
「有沙のお見舞いに来てくれたんだよー」
「ああ、そういうことですか。やっぱり、リツ君は優しいですね」
不意に笑った顔が可愛いなと思って、褒められた時恥ずかしくなった。こんな気持ちになること滅多にないから、ハーレム状態にいるせいだな。
その様子を見られていたのか、横に座っていた七瀬さんが俺の足を踏んだ。
(いっ!?)
い、痛い! 骨が折れる!
七瀬さんを見ると、凄い顔で睨んできた。
(鬼の女王め……)
注文したドリンクが届くと、みんな話しながら飲み始めた。煎茶は美味しかったけど、有沙さんの家で飲んだ煎茶よりは劣っていた。お嬢様の飲む煎茶は他のとは比べちゃいけない。
ここでゆっくりくつろいだ後は、電車に乗って帰った。凄く運が良かったのか、電車には乗っている人の数が少なく、これなら変装を解いてもバレないくらいだ。
「疲れたぁ。有沙、寝る」
「私も疲れましたぁ」
10分くらいで最寄り駅に着くのに寝ちゃっていいのかな。七瀬さんはうとうとしていたけど、目は閉じなかった。
「俺が起こすから寝ていいよ」
「寝ない」
「そ、そう。あ、そうだ。これ」
鞄の中から以前借りた帽子を取り出す。
「ありがとう。あの時は本当、助かった。秋君にバレずに済んだよ」
「そのせいで嫌なことがあった」
「え?」
「今まで、あの人の口から言わせないようにしていた言葉をはかせた」
今まで言わせないないようにしていた言葉? なんだ、それ。
「貴方のせいよ。さいあ……く……」
だんだん声が小さくなって、最終的にはもう話さなくなった。俺の肩に七瀬さんの頭が乗っかってきた。目の前の窓ガラスを見ると、俺の肩で眠っている。
少しくすぐったい。
「ごめん」
俺、七瀬さんには謝ってばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます