第23話 図書館でお昼寝?
「律貴ー、バイトはどう?」
昼頃、大学が終わった後は立花と帰った。
「楽しいよ。仕事もやりがいあるし。優しい人多いから」
バイトを始めてからもう3か月がすぎた。
今は7月。あの体育祭以来、七瀬さんは少しだけ俺に心を開いてくれてる気がする。声をかけたら振り向いてくれるんだ。初めての現場スタッフの仕事でも、俺に”珈琲を買ってきてほしい”って頼んでくれた。前は完全に無視されていたから進歩してると思う。
この調子で文化祭も行ければ、有沙さんとの約束が果たせる。
「加藤さんには会えそう?」
「あー、はは。微妙」
体育祭で遥夏を見かけたことは立花に話してある。あれ以来、街中を歩くたびに近くにいるかもしれないと思って、周りを気にして歩くようになった。
一切、会ってないけど。
「今日もバイト?」
「今日はないけど、駅ビルで買い物」
「俺、資格取得のスクール行くから駅までついてく」
偉い。
そういえば就職のこと考えてなかった。立花は会計士を目指してるからスクールと併用で勉学を頑張っている。でも俺はそんなことしてない。ただ行為を受けて、バイトをして、家事をして過ごしているだけ。
「律貴は将来、何したいんだよ」
「経理事務。楽しいから」
今のバイトで経理の楽しさを知った。
ただ、俺を雇ってくれる人なんているかなぁ。
「俺と道は近いな。あ、じゃあここで! またな~」
「また明日」
駅ビルに入ると、化粧品の高級ブランドが目に留まった。女の子ってブランドもの好きなイメージ抜けない。
「静音先輩。これ欲しいです」
「ねだらないでください。買いませんよ」
聞き覚えのある名前に反応して視線を向けると、制服姿で静音さんが後輩とここの店にいた。
今日は学校終わるの早いんだ。
「静音先輩、テスト最終日の次の日が誕生日ですよね。欲しい物ありますか?」
今はテスト期間だから帰りが早いのか。
それより、誕生日近いんだ。静音さんには何かと世話になってるから何かお礼でもしたいな。
「特にありません。幸せな日々を過ごせればそれだけで十分ですよ」
静音さんは人のことを思える人だ。人が欲しいと言ったものは与えるけど、自分の欲しい物は言わない。多分、俺が同じことを聞いても同じ答えを返される気がする。
この場から離れて、いつものスーパーによって買い物を勧めた。今日はセール品が多くて助かる。
「リツ兄ちゃん!」
後ろから空君の声が聞こえて振り向こうとしたら、背中から抱きつかれた。
「空君、まさか一人?」
「ううん。友達と遊びんでたんだけど、外が暑いからここで涼んでたんだ~」
七瀬さんと二人で買い物してるのかと思った。
会えたら、静音さんの好きなものを聞けたんだけど。
「お姉ちゃんに会いたい?」
「あ、会えるなら」
「図書館に行けば会えるよ!」
「空ー! 何してんだよー」空君の友達がやってくると、俺に手をふってすぐに行ってしまった。
買い物した後、家に帰って冷蔵庫の中を整理した。そして財布とスマホをポケットにいれ、少し髪型を整えてから図書館に向かった。
館内は涼しかった。二階の自習室に足を運ぶと、七瀬さんらしき人は見かけなかったから、本棚のそばにいるのかもと思ってまた1階に戻った。でもどこにも見当たらなかった。
もう帰ったかな。
「ふぅ」
一息つこうと思い、テラスを出た。ベンチに腰をかけようとした時、隣のベンチに視線を移した。
いつもの黒い帽子をとり、制服姿でイヤホンをして本を読んでいた。
(声かけたら、邪魔かな)
七瀬さんの隣が空いていたから、そこにゆっくり座った。俺のことなんか見向きもせず読書に集中していた。声をかけたら絶対に怒られるから、気づくまで待っていよう。
何分か経過したけど、俺は周りの木々からにじみ出る自然にやられて眠くなり、途中で眠ってしまった。
起きたのは夕方前で、もうすぐ日が沈みそうだった。
「……?」
眠い目をこすりながら横を向くと、七瀬さんが帽子を被った状態で、腕を組んで下を向いていた。
(寝てる?)
しばらく見ていると七瀬さんの帽子に虫が止まった。多分、蛾だ。
少し七瀬さんに近づいて、蛾をつぶさないように軽く手ではたいてやると、元気よくどこかに飛んで行った。
「変態」
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