第21話 鬱陶しいクラスメイト

 体育祭は、最後の競技__全学年選抜リレーを迎えた。

 男女で別れて走るみたいだ。


「あ、お姉ちゃん出てる!」


 運動神経抜群だなぁ。

 準備が終わり、第一走者が位置につくと、ピストルの合図で走り出した。それに伴い大盛り上がりで生徒たちが応援していた。

 体育祭ってこんな熱いものだったっけ。印象ないな。

 しばらく見ていると、七瀬さんの番になった。バトンを受け取ると一番に走り出した。


「頑張れー!! お姉ちゃーん!!」


 空君も盛り上がっていた。


「が、頑張れ、七瀬さん」


 俺は呟くように応援した。

 大きな声を出して応援するのは性に合わない。目立ちたくないし。


 七瀬さんは走り終えると、くたびれたように息を吐いていた。


「ん?」


 苦い表情をしている。

 あの顔を、俺は知っていた。


 リレーは白組の1位で終わった。芸能人チームが強すぎて点差がおかしかったから少し気の毒だ。でも良い体育祭だったと思う。大きな怪我人もでてないし、みんな楽しそうだった。

 そう、大きな怪我人だけはでていない。



♦♢♦♢



「ななちゃーん! 大活躍だったね」

「凄かったですよ」

「ありがとう」


 足が速いことに意味があるのかと思ってたけど、こういう時に役に立つから嬉しい。


「てっきり秋君をお持ち帰りするのかと思ってた~」

「何の話?」

「借り人競争ですよね。秋君って、昔から七瀬のこと気に入ってるでしょう? てっきり七瀬も……」

「気に入ってない。ただのアイドル友達」


 カードを引いて、一番にそばに来てくれたのは秋だった。”ひげが似合う人”というお題を見た瞬間、必死にひげが生えてるアピールをしてくれた。けど全然生えてなくて、むしろしっかり綺麗だったから除外した。

 あのお題を目にして最初に思いついた人は、あの男。


「感謝してねー、ななちゃん。有沙のおかげでお兄ちゃんを誘えたんだから」

「誘いたくて誘ってない」


 秋がひげの手入れをしてなかったら良かったのに。

 あんな人と二人でゴールテープを切るとは思わなかった。全然嬉しくない。最悪。

 でも、居心地は悪くなかった気がする。


「な、七瀬。月さんって、おいくつなんですか?」

「月さん?」


 誰。


「親戚のお兄さん、月さんじゃないんですか?」


 あの人、律貴から名前をとって月にしたのね。


「そうよ。大学2年生」

「けっこう年が近いんですね」

「どうして?」

「え、えっと、す、凄くお洒落というか、かっこいいというか、サングラスが似合うというか、笑顔が素敵というか……」


 嫌な予感がする。

 静音が男子に挙動不審になるときは、幼稚園の初恋以来ね。あの人が中村律貴だと知ったら、大嫌いになるはず。この場で口外してあげたい。


「静音ちゃーん」


 教室に入ってきた依織は、ふらふらとこっちに寄ってきた。


「しつこいです」

「写真撮ろうよ。まだ撮ってない」

「……仕方ありませんね」


 いつから、静音は依織に対してあたりが強くなったっけ。

 依織と静音が写真を撮っている時、有沙も他の友達と写真を撮っていた。

 私だけが一人でいる時、隣に来てくれたのは秋だ。


「写真撮ろう」

「ん」


 ノーマルカメラで撮るのは好きじゃない。自分のくたびれた顔がはっきり映ってしまった。


「へたくそ」

「慣れてないんだよ」

「貸して」スマホを奪い取って、自撮りをした。


 フィルターを変えれば少しでもよく映る。


「おー、上手」

「秋がへたくそなだけ」

「なぁ。借り人競争で誘ってたあのひげの人、誰?」

「……親戚」

「名前は?」

「月」


 この嘘はばれる。


「嘘だ」


 ほらね。


「俺は七瀬の両親のお気に入りだ。親戚の話も聞いてる。でも月なんて人いない。あいつは誰だ」


 言わなければよかった。

 秋は頭がいい。すぐに感づいてくるから苦手。


「付き合ってるのか?」

「そんなわけないでしょ。空の付き添いで来てくれたのよ」

「だから、誰だよ。どこから連れてきた」


 面倒くさい。今すぐ、この場から去りたい。はやく帰りたい。

 いつも干渉してくる。私が泣きたい時、一人で泣いていたいのにいつもそばに寄ってくる。

 ストーカーみたいにうろうろと。


「うざい」


 無理にでも毒舌で突き放さないと、私が壊れそう。


「ごめん」


 申し訳なさそうな顔を見ても、私は罪悪感がわかなかった。


「今、少しだけ時間ある?」

「なんで」

「リレーの時、怪我してた。俺が手当てする」


 よく見られていることに嫌になって、鞄をもって教室を出た。駆け足で更衣室に向かって、急いで着替えた。

 洗面所の鏡に映る自分を見る。



 私、こんなに不愛想な顔してるんだ。



「……ごめん」



 誰に言ってるんだろ。

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