第19話 元カノの面影

 体育祭が始まると、大盛り上がりだった。

 高校で保護者が来ることってあまりないと思うけど、この学校は芸能人を見るために来る保護者が多い。熱気が凄くて暑い。


「はぁ」


 午前の部があっという間にすぎてお昼休憩に入ると、保護者は一気に減った。

 テントには俺たちしかいないから、記者と思われる人は見かけなかった。


「いただきまーす! ん、美味しい!」


 空君は俺の作った弁当を美味しそうに食べてくれた。ハンバーグから手をつけていたから、本当に大好物なんだな。


「お姉ちゃん、徒競走1番だった!」

「ちゃんとビデオ撮ったから、家で一緒に見なよ」

「うん!」


 パン食い競争には有沙さんが出ていて、一番速かった。幸せそうな顔に心を奪われた観客がいくらかいた。リレーは依織君がトップだった。棒倒しでは秋君が大将で優勝していたけど、女子の歓声が凄かった。

 七瀬さんは午前でも活躍していたけど、特に出番があるのは午後の始めにある障害物借り人競争だ。静音さんも参加するらしい。


「お兄ちゃん、料理上手だからいいお父さんになるよ」

「あはは。そもそも結婚できるかどうか」


 俺みたいなのと結婚してくれる人いるかな。

 一度だけ、遥夏と結婚したら幸せだろうなとか考えたことあったけど。


「お姉ちゃんと結婚する気ない?」


「へ?」間抜けな返事をしてしまった。お姉ちゃんって、七瀬さんのことだよな。


「前にも言ったけどそういう相手じゃないよ」

「……そっかぁ。お似合いだと思うんだけどなぁ」


 いやいや。空君は知らないかもしれないけど、俺めちゃくちゃ嫌われてるよ。俺のことが大嫌いな人が急に好きになってくれるわけない。それに、俺は元カノに未練たらたらで、遥夏のこと以外考える暇がないくらい好きだ。

 申し訳ないけど、叶うことのない望み。


「今度、3人でピクニックしよう!」

「な、七瀬さんの許可が降りたらね」


 昼食の時間が終わって午後の部が再開するとき、一般保護者は数人しか残っていなくて、テントの中には俺たち以外に一人だけ保護者がいた。

 俺と同じ黒いサングラスに帽子をかぶっている。高そうなカメラを手に座っている。

 もしかしたらあの人が記者かもしれない。


「……っ」


 遥夏はここにいない。もう帰ったかな。


「あ、お姉ちゃん、2番目に走るんだ」

「ごめん。トイレ行ってくる。一人で待てる?」

「うん!」


 席を外してお手洗いに向かうとピストル音が聞こえた。

「トイレは確かこっち……」あやふやになりながらもなんとかトイレにたどり着いた。

 手を洗った後、鏡に映った自分を見た。

 有沙さんや七瀬さんにも言われたけど、確かに2年前と比べたら大人っぽくなったような気がしなくもない。

 今の俺を見たら、遥夏も同じことを思うかな。


「……はぁ」


 今日で何回めのため息だろう。

 やめよ。早く戻ろ。

 観客がみんな借り人競争に夢中になっている。女子が男子を誘っていて、青春を感じた。その姿に俺まで夢中になって、歩きながら柵の向こうにいる選手を眺めていると、人にぶつかった。


「あ、ご、ごめんなさい」

「すみません」


 ……あれ?

 あの白い帽子に、サングラス、少し高めの身長に、肩の下まで伸びた髪の長さ__。


 きつすぎない、甘い香水。





「遥夏?」

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