第7話 アパレル撮影
アパレル撮影は4時間くらいで終わった。
意外と時間がかかるものだったけど、見るぶんには全く飽きず、むしろ興味深かった。
スタイリストさんたちが3人に化粧やヘアメイクをしているところを見るのは楽しかった。
「お肌綺麗ですね~」
「ありがとうございます」静音さんは嬉しそうだった。
パウダーファンデーション? っていうのを顔につけられている時、どんな気持ちなんだろう。見ている分には気持ちよさそう。
あとコーディネート。10着以上も服を組み合わせて着せられていた。俺は遥夏と付き合ってから少しだけ服に気を遣うようになったけど、女性は男性と違って服のバリエーションが多い。
やっぱりこの子達はアイドルだからか、すべて着こなしていて圧巻した。
「有沙、この服着た~い」
「馬鹿。計画を崩すな」大智さんは有沙さんの保護者に見える。
「時間が余ったら着てみますか?」
「え!? 着たいです~!」
有沙さんは甘えるのが上手だ。
「ななちゃん! 着てみたい服があるから、早めに写真撮影終わらそ~?」
「わがまま」
写真撮影もよかった。
静音さんの個人写真が撮り終わった後、最後は七瀬さんの番だった。
「おっ! いい顔するね~!」
多分、七瀬さんには一番驚かされたかもしれない。
自分の魅せ方をわかっている人のポージングだ、って素人の俺でも見ただけでわかった。
静音さんや有沙さんよりも個人撮影がはやく終わると、最後は3人での宣材写真撮影が行われた。
あらかた撮影が終わると、カメラマンやディレクターさんによる画像確認が入った。その間に3人は水を飲んだり、話すなり、休憩をとっていた。
「リツさーん」有沙さんに呼ばれてふりむくと、来てほしそうに物欲しい顔をされた。近づくと、お金を渡された。
「暇そうなリツさんに、私がお仕事を与えよーう。緑茶、買ってきてほしいなぁ」
仕事っちゃ仕事か。
「いいですよ」
「あ、ブラックと紅茶もお願ーい」
「え?」
そんなに飲むの?
「帰りまでに買ってきてね」
「……はい」
外に出ると、日差しに目をやられてクラクラしそうになった。コンビニに行って緑茶、ブラックコーヒー、紅茶を買ってさっきのスタジオに戻ると、もう現場は片し始めていた。
カメラマンと何やら話していた大智さんは俺に気づいて、すぐこっちに来た。
「リツ! 運転免許持ってたっけ」
「はい。持ってます」
「ペーパー?」
ペーパードライバーか、ってことだよね。
「いえ。友達と月4回はドライブしてます」
「任せても平気そうだな」
「へ?」
「事務所まであいつら送ってやってくれ。事務所解散だ」
「えええ? 俺が車の運転していいんですか?」
「ああ、任せた。急用でこれからカメラマンと話すことになって手が離せないんだ」
「しょ、承知致しました」
先に車に乗り込んで3人を待っていると、走って車の中に入ってきた。俺の隣__助手席には有沙さんが座った。後部座席には静音さんと七瀬さんが座っている。
みんなお疲れのようで、車内はぐったりしていた。その時、真後ろから俺の顔を覗くように前に出てきた静音さんは、心配そうな顔をしていた。
「リツ君、運転できるんですか?」
俺がいつも挙動不審で頼りなさそうだから心配してくれているのか。
「できますよ。これでもけっこう運転してるほうです」
レンタルカーでね。
「はぁ。有沙、席変わって」
七瀬さんは助手席に行きたそうだった。
「えー、なんでー」
「あんたに助手席は務まらない。不安な二人が前にいるよりまし」
「七瀬の言う通りです。有沙、席を変わって」
有沙さんは嫌そうな顔をしていたけど、了承して七瀬さんと席を変わった。
「行きますよ」
エンジンをかけて発進した。
新宿は横から人が急に飛び出てきそうであまり好きな場所じゃなかったけど、意外と人が少ないからスムーズに運転できた。
しばらく運転すること20分、赤信号になったからブレーキを踏んで止まってミラーを見た。
後ろの二人はぐっすり寝ている。本当に疲れたんだ。
隣の七瀬さんも寝ていた。でも、ある2つのことに気づいて目を見開いた。
1つが、手にブラックコーヒーのペットボトルを持っていたことだ。俺がさっき有沙さんに頼まれて買ったものだ。もしかしたら紅茶は静音さんが飲むものだったのかもしれない。3人のことを思って、俺に買わせてきたのか。
「ふっ」つい笑みがこぼれた。
そして2つめ。これが一番驚いたことだ。さっきあれだけ有沙さんが助手席に座ることを不安がっていたのに、七瀬さんは人のことを言えないと思う。
シートベルトを着用していない。
「はぁ」
青信号に変わったとき、少し道を外れて車を停車した。急いで七瀬さんにシートベルトをさせようと、彼女に触らないように頑張って付けていたところで、なんとなく威圧感を感じた。
「あっ」
お目覚めのようだ。
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