第4話 終わりは始まり
バイトを始めてから2週間が経ち、6日は勤務をした。進捗状況は、凄く順調だと思う。仕事は全部覚えて圭さんに褒められた。
瀬川さんはもう俺に教えなくても大丈夫と任せてくれる。だから今、この部屋で一人で黙々と仕事に集中している。
でも、思わぬことが起きてしまった。
「リツ! これ大ちゃんに渡してほしい。次のイベントの日程」
「はい」席を立ちあがる。
廊下を歩いていると、賑やかな声が聞こえて、肩無kたら休憩室からだった。男性アイドルグループの声か。俺と違って陽気なんだな。
所詮、俺は陰キャですよ。
「失礼します。大智さん、社長からイベント日程の紙を預かりました」
「おっ! さんきゅー」
3人のアイドルは、ダンス練習をしている最中だった。
「……綺麗ですね」
「だろ? 俺が集めたんだぞ。幼馴染3人で結成した高校生アイドルユニット」
幼馴染なんだ。少し意外だ。一見、3人とも大人っぽくて凛々しいけど、いつも一緒にいる人たちに見えるかと言われたらそうでもなさそうだったから。
「違った色があって面白いんだ。仲良くしてやってくれ」
「は、はい。……って、え? 高校生なんですか?」
「ツッコミ遅いぜ」
えええ、まったく見えない。タメ口を使われたから年上なのかと思った。高校生と言われれば高校生に見えなくもない。
「今は高校2年生だ。リツの2個下」
「へ、へぇ」
大智さんと話していると、流れていた音楽が止まった。
「あ、リツさーん!」
有沙さんは汗を拭きながら、笑顔でこっちにやってきた。
「お疲れ様です」
「おっつ~。どうしたの? 有沙たちのダンス見たくなった?」
「え、あ、えっと」
困っていると、有沙さんの頭が誰かにチョップされた。
七瀬さんだった。
「有沙。困らせない」
「ななちゃんのゲンコツ痛ーい」
七瀬さんは俺のことを一瞬見た後、すぐに目をそらしてこの部屋を出て行った。
俺、嫌われてる?
「七瀬はいつもあんな感じなので、気にしないでください」静音さんは心配してくれた。
「あ、ありがとうございます」
静音さんは礼儀正しい子だ。
仕事が終わった後、暑くてカツラを脱いだ。鏡を見ると頭はボサボサで最悪だった。寝起きみたいだ。
「夏とか、大丈夫かな」
気を抜いていると、不意にドアが開いた。
驚きのあまりカツラを被るのを忘れてしまっていた。
この部屋に入ってきた人物が圭さんであってほしかったけど、そうもいかなかった。
「これ、大ちゃんが……」
七瀬さんだ。
「……貴方、リツって、まさか、中村律……」
グイッ!
俺は急いで七瀬さんの腕をひいてドアをしめた。片腕を掴んだ状態でドアに背中をつけさせ、とりあえずこの部屋から出ないようにした。
「お、俺のこと、知ってますか」下を向いて苦笑いをした。
「遥夏さんに枕営業を強要したゲス野郎でしょ。離して、気持ち悪い」
手を離す前に無理矢理離された後、俺は丁寧にカツラを被った。
「口止めしないの? ここで働いていることは誰にも言うなって」
「しませんよ」
また女性に強要したって噂になったらたまったもんじゃない。今度こそ、俺の社会的立場がなくなってしまう。
「どうしてここで働いているの? まさか、今度はうちのメンバーを……」
「違う!」つい強気になってしまった。
どうしよう。七瀬さんと目を合わせられない。
とりあえず、落ち着くことにした。
「違います。ちゃんとした理由があって働いています」
「ちゃんとした理由?」
丁度いいタイミングで、外から有沙さんの声が聞こえた。七瀬さんを探しているみたいだった。
「もう行くわ」
ガチャッ、バタン__
俺は腰が抜けたようにその場に尻をついた。
「お、終わったああああ! まだ全然遥夏に近づけてないんだけどおおお! ごめん立花……」
俺の人生、今後どうなってしまうんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます