ギルドの依頼システム
(確かウチの場合は、学校でいつも......。.......いつも? あれ?)
何か違和感がある。頭の中がうまく働かない。
(お、思い出せない......)
かつての自分を思い返そうと記憶を捻りだすが、どうしても思い出せない。
まるで夢で見ていたことを必死に思い出すような、そんな気持ちであり、どれだけ頭を捻っても思い出せそうになかった。
「おいアンナ。大丈夫か? 顔が真っ青だぞ?」
「えっ。あ、あれ......。ご、ごめん。なんでもない」
今何かしていたような気がする。
だがデリバーに話しかけられたせいで、何をしようとしていたか忘れてしまった。
(忘れるってことは、大したことじゃないってわけだな)
そう納得して、残ったパンを少しづつ頬張る。
むしゃむしゃとパンを咀嚼しながら、口の中を動かしていると、デリバーが一枚の写真を取り出した。
あれはさっき渡したアンナの証明写真の余りだ。
「ふぁいひへ(返して)」
「おっと、こいつは預からせてもらう。なんせなくすと大変だしな。それに......」
デリバーが写真とアンナの顔を見比べて、「ふはっ!」と吹き出す。
撮られた写真の出来はというと、うまいこと取り繕ったはずが、引き攣った笑顔と不自然に見開いた瞳孔になってしまった。しかも三回撮って二回はぼやけているのだ。
アンナはパンを飲み込んで、「失礼だぞ」と言い返し、写真を取り上げようと身を乗り出した。
「まあまあ、落ち着け。これでおあいこだろ?」
「むっ。何これ」
デリバーがポーチから一つのカードを取り出す。デリバーの証明写真と共に名前など色々と書いてある。
材質はプラスチックのような感じだが、もしかするとこの世界特有の未知の物質かもしれない。
しかし、まるでこれは運転免許証にそっくりである。
「これって......」
「そうだ。俺の免許だ。冒険者や旅人用のな」
デリバーのカードを拝借して、細部まで目を通してみる。
表は運転免許証のように、顔写真と名前。生年月日は書いてないが、基本情報として出身地と職業、今までの経歴が大まかに書き記されている。
裏面には今までの仕事の内容による、大きな功績を記録する欄がある。色々な勲章の模様が描かれており、見ただけでも正直わからない。
「どうだ? すげえだろ」
「わからん」
「おおぅ......。結構すごいことなんだけどなぁ」
ガクッと肩を落として残念がるデリバー。それを尻目に見て、特に何も思わずパンを食い尽くす。
ここにきてもうすぐで一時間くらいだ。免許が出来上がるのは何時頃だろうか。
「ねえデリバー。まだ?」
「ん? ああ、もうちょいかもな。それまでの時間潰しだ。もう二つくらい、興味深い話をしてやる」
デリバーが免許をアンナに見せながら、「これの役割ってなんだと思う?」と聞いてくる。
おそらく身分証明になるものだろう。しかし裏面の勲章を見るに、恐らく見せただけでその個人の評価がわかるようになっているのかもしれない。
そのことを伝えてみると、「おう、正解だ」といい、ついでに簡単な解説をしてくれた。
「この免許は俺たち旅人が身分を証明する場合に使ったり、依頼を受諾するために提出したりする時に使う」
「はいっ、質問!」
デリバーの話を遮って、前々から気になっていたことを聞いてみた。
「冒険者と旅人の違いってなんですか?」
デリバーはいつも「冒険者」と「旅人」を分けて話す。てっきり表現の違いかと思っていたが、どうも今までの話からして別のようにも聞こえる。
「なんだ、知らなかったんだな」と意外に思ったのか、少し驚いた様子で、そして簡単に説明を挟んでくれた。
「冒険者は一つの街にとどまって、その街の依頼をこなしたり、護衛任務をこなしたりする。主に戦力で活躍したり、街の雑用依頼をこなすエキスパートだな。まあその分収入は安定してない。母体数が多いからな。受けられる仕事だって奪い合いで、残るのはレベルが高すぎる依頼かその逆かだ」
なるほど。MMOをイメージするとわかりやすい。
冒険者という肩書きのように、困っている人を助けたり、街の依頼を受けて誰かを守ったりモンスターを倒したりするのだろう。
「そんで旅人だが、基本一つの街に止まらず、拠点を転々としている奴らのことだ。俺たちみたいにな。そんで、旅人が受けられる依頼や任務も少ないし、そのほとんどが配達の依頼や特定の人物を目的の街まで送り届ける護衛任務とかだ。ただ、バリエーションが少ない分、依頼内容によってだが基本高額な報酬ばっかだな」
「なんで依頼報酬に差があるの?」
「わざわざ街に足を運んで移動する旅人と、街に留まって仕事をする冒険者。その二つの違いは?」
学の無い頭を捻って、小首を傾げてしばらく沈黙し、色々と答えになりそうなものを考えてみる。
(......住むところか)
二つの違いは家があるかどうか。
デリバーの話だと、冒険者はこの街に住んでいる。
しかし旅人は文字通り、街を転々と移動している。
いつ何時でもギルドに足を運んで、やろうと思えばその日に複数の依頼をこなせる冒険者。
その街のギルドにわざわざ出向いて、しかも次の行き先とマッチした依頼を探す旅人。
依頼を探す苦労も、そして旅で移動する際にかかる費用も合わせると、双方では全然変わってくる。
そのことを答えとしてデリバーに伝えると、「その通りだ」とアンナを褒めるように言って頷いた。
「付け加えるなら、それなりに高い報酬じゃないと旅人が依頼を受けてくれないって理由もある。相場が安すぎると、苦労をかけて依頼を受ける必要すらないからな」
二つの職業の違いを聞いて理解した。どうやら思っていた以上に違い、それに依頼内容に合わせて見事に分類されている。
アンナやデリバーは旅人にあたり、恐らく今後は荷物の配達などを請け負いつつ街を移動するのだろう。
「分かった。それでもう一つの話って?」
「ああ。お前も知っての通り、ギルドの依頼についてだ」
それはどういうことだろうか。依頼に種類があるのは今聞いて分かったが、もっと複雑な話なのだろうか。
黙ってデリバーの話を聞き、まとめると以下の通りだった。
街によってギルドやギルド総本山が存在し、旅人や冒険者もそこで依頼を受ける。
そして依頼は個々の能力に合わせてランクが分かれており、モンスター討伐はもちろん、配達の依頼も内容によっては素材の運搬から豪族のお宝を無事に配達するなどに分かれるらしい。
そしてその依頼を受ける判断基準になるのが、アンナももう時期手に入れる「免許」だ。
裏面の功績の数によって、受けられる依頼や任務の内容も変わってくる。
あの免許は「目に見える信頼値」の役割を果たしているらしい。
「そんで俺が受けられるのは高額の依頼はもちろん、雑用くらいの低レベルなものまで受けられる。ま、その分責任もついてまわるけどな」
デリバーの免許の裏面を見た時に、多くの功績が記入されているのは分かった。
どうやらアンナが思っていた以上にすごいことだったようだ。
「すごい」
「だろ? ってわけで、もうそろそろ時間だ。行くぞ」
デリバーと一緒に席を立ち、返却棚にお盆を返し、ゴミをゴミ箱に捨てる。
出来上がった免許はどんなものか。
楽しみと期待が胸の内で渦巻きながら、アンナとデリバーはさっきの受付まで戻って行った。
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