第一章 旅の幕開け
第1話 かつての自分・その生涯 1
生前の記憶を辿る。思い出し始めたのは、なんてことない冬の日からだった。
20○○年 1月1日。
この日は雪が降っていた。
いつものように雪かきをする。田舎だから、これをやらないと車が出せなくなる。
田舎生活もあの時の冬で最後。名残惜しくも感じる雪かきを済ませていた。
4月1日。
大学に行くために上京する。田舎から出たら何かが変わると思い、地元の友人たちと別れて飛び立った。
しばらくして。大学は思ってたのと違っていたと実感した。夢がなく大学がゴールだった自分は、ただひたすらに虚無の心で無価値な授業を受けていた。
「大学って自分の好きなことを学べるって、先生言ってたのに......」
高校時代に言われたこととは違い、単位のため・卒業するための授業。勝手に組み込まれる必修授業。唯一取りたかった・興味があった授業は抽選で落とされる。
「理不尽だ」と思ってもどうしようもなかった。諦めて次の機会を狙うしかなかった。
友達作りもそうだ。
コミュニケーションが受け身な自分は、話しかけられても単調な返事しかせず、友達と呼べるのか「授業の間柄」話している知り合いなのか。そんな曖昧な境界線の人しかいなかった。
結局恋人もできず、友人関係も程度がしれたまま、あっという間に4年が過ぎてしまった。
春から社会人。留学を考えたこともあったが、「次がある」と思っていたらその時が来ないまま就職していた。
「サラリーマンはやめとけ。楽しくないぞ」と父親に言われたが、俗に言うそれになってしまい、そのまま数年が過ぎた。
「ふぅ。やっと帰った」
学生時代から住み込んでいるアパートに帰宅。手に持ったコンビニのおつまみを片手に、思い鞄の中から鍵を取り出す。
「......猫。欲しいなぁ」
ペット持ち込み可能なアパートではあるが、動物アレルギーが酷いので、実家の犬とすら一緒の空間に住めない。
帰宅してたまに思うことだが、何でもいいから温もりが欲しい。
自分は今、猛烈に愛情に飢えていると実感しているからだ。
「よっと」
靴を揃えて脱ぎ、鍵を閉めて、買ってきたものを冷蔵庫にさっさと詰める。
「今週はプレゼンかぁ」
学生時代からプレゼン資料作成と発表は嫌いだった。それがあるだけでストレスになり、憂鬱になってしまうからだ。
逆に楽しみな予定を週末に組み込むことで、「今週はあれが待っている!」と浮かれた気持ちになり、何でもできる力が湧いてくる。
人間の心とはつくづく不思議なものだ。
だが、もはや最高の楽しみすら自分には無くなってしまっている。虚無に毒された影響だろうか。
心が凍っていくような、何とも言えないもどかしさが胸の中で渦巻いている。
このまま変わらない日常を過ごしていると、何も感じなくなってしまいそうな予感がする。
「......腹減ったなぁ」
今日も冷蔵庫のお酒を取り、買ってきた豆腐に刻みネギとだし醤油をかける。
そして好きなアニメを見て、学生時代から変わらない趣味の時間を過ごす。
ずっと、これの繰り返しだった。
プレゼン発表の日まで残り1日。つまるところ、その週の金曜日のことだった。いつも通りに2度セットしたアラームに起こされ、支度をし、家を出る。
余裕を持って出発しているので、飛び出して車に轢かれたり、人にぶつかったりといった不注意はしない。
会社までは歩いていける距離にあるが、歩いて20分はかかる。自転車で行けたらいいのだが、管理代や駐輪場の契約などを考えるといらないと思えてしまう。
(朝はいいよなぁ。けど......)
相変わらず、都会は朝でも人だかりがすごい。人の流れに沿って歩いているが、それを除けば気持ちの良い気分になれる。
そのためにいつもは自分だけの裏道を通って、わざわざ人気のないところを、まるで自分だけの世界のように感じて歩き進んでいる。
しかし今日は違った。たまにはこっちから行くかという気持ちになったのだ。
人気の多い道だからといって悪いわけではない。いつもとは違う景色を見たり、この通りにしかない店を横目に見たりして、「今度の休みに行こうかな」と余計なことを考えて進めるからである。
いつもの道を歩いていると、新たな楽しみを発見できることもある。
そう言うわけで、今回は人気の多い道を通って歩いていたわけだったのだが。
「うっさ! 救急車!?」
突然、救急車のサイレン音が向こう側からしたと思ったら、今度は聞いたこともない、色々な人たちの生々しい悲鳴が聞こえてくる。周りの人たちも自分と同じように驚いている。
明らかにタダごとじゃない。でも気になる。
毎日同じような日常を過ごしている自分にとって、例え異常な雰囲気に包み込まれていたとしても、刺激を求めて野次馬精神を抑えられずにはいられなかった。
事実、自分と同じような人たちが何人かスマホを手に取り、悲鳴のした方へ駆け出していく。
一方、そうではない人たちはというと、何が起きたかわからず立ち尽くしていたり、どうせ大したことはない、ボヤだろうとでも思ってたりするのか、そのまま何食わぬ顔で歩いていたりする人もいる。
「行くか」
自分はスマホは手に取らず、そのままゆっくりと現場へ近づいて歩いて行った。自分は撮影に興味はないし、持ってても邪魔である。
すると歩いて間もない頃。突然、妙な破裂音とともに再び悲鳴が聞こえてくる。
「んんっ!?」
破裂音を聞いた時点で思わず足を止めてしまった。事実、その判断は正解だったかもしれない。
しかし、前に向かって歩いていた時点で運命は決まっていた。
「く、くるなぁぁ!」
「いやぁあああ!」
所々、真新しい血の斑点を白いワイシャツに染み込ませた会社員が、怯えた様子でこちらへと走ってきた。
同じく通勤姿の女性も、顔ち血がこびりついたまま、顔面蒼白で涙を浮かべて走っている。
あれが自分の血じゃないのは見てわかる。
(まさか返り血!?)
「何してる! あんたらも逃げろ!」
続いて三人目の男が、さっきの二人よりかは冷静だが焦った様子で、驚いて立ち尽くす自分や周りの人間に避難を促した。
「テロだー!!」
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