アンチテーゼ/アンライブ
太陽と連盟の信者
プロローグ
生きるとは。それは、生を謳歌しなければできぬこと。
そして人間は自分だけの「謳歌できるもの」を各々持っていて、自分でも気づかないうちに胸に秘めている。
例えどれだけ辛くて寂しくても、その「謳歌できるもの」が最後の砦となり、心の支えとなり生きていける。
そうすれば次の喜びを見つけ、愉しむことができるからだ。
「うぉっ...... 」
目の前の焚き火から勢いよく火が飛び散り、思わず身構える。何度やってても火の粉は怖い。
今夜も一人。左腕に巻いた包帯を外し、誰もいないことを確認して川で丁寧に洗う。
ついでに体臭もチェックする。思った通り臭い。
髪も長いまま、着ている服もずっと一緒だ。
だがそんなことどうでもいい。もう、気にする必要はないのだから。
この世界にやってきて、1ヶ月は経とうとしている。計算が間違っていなければそうだ。
かつての体は身長が高いだけ、無駄にガタイがいい男だったが、今の肉体は17歳くらいの少女の体。不思議と違和感はないが、妙な感じはする。胸の奥に小さな違和感が燻り続けているのだ。
そして異質なものといえば、極めつけは赤く染まった左腕。明らかに普通じゃない。
普通じゃないのはもはや明確なことだ。なぜなら、こいつに触れたら最後、相手は必ずー。
「......うっ」
気分が悪くなった。考えるのはよそう。
せっかく食べた肉を吐き出すのは勿体無い。
「どうしようか......」
この体に生まれ変わってから、不思議と眠気は感じないし、腹はあまりすかないし、疲れもそこまでない。しかも痛みもあまり感じない。
その理由は、自分の体が生物兵器として設計されたからであろう。目覚めた時に散々聞いたので、これだけははっきりと覚えている。
しかしわかっているのはそれだけ。自分を生み出したはずの人たちはおろか、気づいたら見知らぬ衣服を携えて森に逃げ込んでいた。
だけど、その後に悲劇が起こった。起こってしまった。
「......気休めにしかならんなぁ」
痛みは感じないといったが、実のところ若干の寒さは感じる。
だからわざわざ焚き火をしており、ついでにさっき洗った包帯を干しつつ、暖をとっているのだが。
「はぁ...... 」
夜空を見上げる。この世界には月が二つあり、片方は常に赤く輝いて大きい。もう片方は小さく青色に発光している。
(っと、そんなことはどうでもいい。それよりも......)
ー眠れないのは酷だ。毎日毎日、夜が明けるまでずっと空を見上げたり暖を取ったりしている。
理由は、この世界の夜は思った以上に危険だからだ。夜行性の危ない奴らがそこらじゅうに蔓延っており、炎の周りにいないとすぐさま襲いかかってくる。
こうして耐え忍んだ後、日中は動物を狩ってサバイバルをしている。
好きでこうやっているのではない。できれば人里に移り住みたいが、「あの日やってしまったこと」が原因で、人間達とは距離を置いている。
そう。今更だが、自分はもはや人間ではない。殺人兵器であり、触れるだけで殺してしまうモンスターだ。
でも、それでいい。どうせ夢も希望も、熱意もない。あるのはただ、生前に思った「死にたくない」という思いだけ。
その限界ギリギリの目標を胸にしまっているからこそ、ここまで過ごしてきた。
「......結局、独りぼっちかぁ」
殺されたからこの世界にやってきた。それははっきり記憶している。
何度も思い出したことだが、長い夜を乗り越えるため、生前を少し振り返ることにする。
今から大体1ヶ月前。あの時はただ、平凡な会社勤めの青年だった。
名前は......。なんだっけ。
「ウチは......誰だったっけなぁ」
夜空を見上げたまま、名前すらなくなった自分の生前を振り返ることとした。
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