三章 王都編
二五話 奴隷、道の途中で拾い物をする
『座標の位置を登録完了。オートパイロットに移行します』
「本当に手を離していいんだな?」
「はい」
「本当に? 本当にか?」
「ですから、はい」
「うおぉおおお! 本当に手を離してもそのまま動いてる!」
舵から手を離しても船が動き続けるのを確認したアリーは拍手で興奮する。
「ススク。すごいぞこの船は。空中を飛行するだけじゃなく、防御魔法も張れてさらには地図さえ見せれば無人で航海を続けるようになった!」
「まさかこんなものが、この世にあるとは」
大海賊の秘宝とされたこの飛空船。
その性能は現存する船とは比べ物にならないほどダントツに優れていた。エネルギーである魔力は太陽の光でチャージされるのだが、今のところ夜も支障なく移動できていてまるで無尽蔵の体力を有しているようだった。中では水さえ補給すればなんと温かいシャワーも毎日浴びれて、おまけに冷たい倉庫で食べ物を長期保存できる。移動機能だけでなく、至れり尽くせりの豪華客船だ。
最初は説明書もなくてなにもできなかったが、ロビーナが教えてくれたおかげで充分に機能を活かせるようになった。
「飛空船さーん。調子はどうですか?」
『オートパイロット中です』
「大丈夫そうですね。でも、なにかあったら言ってください。ロボとブラックハート様と三人でマスターを支えましょう」
『オートパイロット中です』
時おり、ああやって飛空船に話しかけるように独り言を呟くようになったロビーナ。
飛空船に関する知識があるようだが、どこで覚えて何で知ったのかは本人もまったく分からないそうだ。
嘘を吐いてる様子はない。というかロビーナは俺に対して一度もそんなことしたことがない。
だから本人が知らないというのなら、それ以上訊くのも無駄な行為だ。
「ところでススク。いいのか目的地は共和国で? あの島からだと王国が一番近かったのに」
「ああ。ロマ二スタは苦手でね」
とりあえず俺たちは、アイスブランド共和国へ向かうことにした。
まだこれからすることは決めてないが、なにをやるにせよどんな田舎でも島よりは安定した生活は望める。
この大陸には四つの大きな国がある。
王国、帝国、共和国、連邦。
王国は論外として、帝国は過去に王国と何度も戦争をして領地を奪い合った仲だ。現在は休戦中だが、敵意は未だに持っており島流しに遭った身でも元王族の俺を快くは受け入れてくれないだろう。連邦は常に内乱中で、他に選択肢がないのならともかく他に選べるのならば確実に戦に巻き込まれる形になるのでよしておきたい。
結果、国の中では一番小さいが最も長く平和な歴史を有するアイスブランド共和国へしばらく滞在することにした。
「稼ぐなら王国か帝国なんだけどな」
「別にこれはブラハの船だ。最初の取引通り下ろしてもらったら、好きなところに一人で行けばいいだろ」
「だから言っただろ。新しい部下を手に入れて次の冒険の準備ができるまでは、おまえたちのことを手伝ってやるって」
「そんな必要ないけどな……」
「うるせえ! いいからおまえたちは大人しく船長の言うことを聞いとけ!」
「はいはい」
なぜか船を下りてもそのまま俺たちに同行してくれることになったブラックハート(アリー)。
断ろうとしても、こんなふうに押し売りされてしまう。
まあ俺としてはアリーの状態とはいえ一度仲間に誘った以上は、あんまり無碍にはできない。とはいえ罪を犯すような行為はしたら止めさせてもらうが。
シュー
快晴の下、安定して移動を続ける船。本当になにもせずとも動き続けられるんだな。どんな魔法でこうなっているのか? そういえばアイスブランドには魔法学校があったな。研究を頼んでみるのもいいかもしれない。
「しかし本当に揺れないな。全然酔わないしブラハより運転上手いかもなこの船」
「ああんっ!? そんなこと言うならじゃあ次はてめえが舵切れよ!」
「いいの? やって?」
「やめろ! 船長以外が舵に触れるな!」
一回くらいしてみたかったのだが、強く拒絶してくるアリー。
仕方がないので黙ってモニターを眺めておくことにする。
このモニターという黒板は不思議で、リアルタイムで船の内部や状態が見られたりする。今、俺が見上げているのは外の景色が描かれているものだ。
「んっ?」
「マスターどうしました?」
「ロビーナ。あれもしかして人じゃないか?」
「そうなのですか? ロボには小さな影としか分析できませんが、マスターがそうおっしゃるのならば拡大鮮明化して調査いたします」
モニターの絵が切り替わる。いつ見ても不思議な光景だが、どうやら俺が気になった部分をより近くで見られるようだ。
そこには俺の言う通り、人が倒れていた。
「あちゃー災難だな。あんなところで倒れるなんてあとはもう人さらいか魔物に食われるだけだ」
「なに言ってるんだ。すぐに助けに行くぞ」
「はあっ? 見知らぬ人間助けてなんの利益があるっていうんだ。だいたい困ってるからって一人一人助けてたらキリがないぞ」
「じゃあ俺をさっさと下ろせ。海賊の助けなんかもういらん」
「ロボはマスターについていきます」
「ちっ。今回だけだぞ」
渋々、アリーは船の道先を変えてくれた。
近くに船で着陸すると、モニターで見ていた場所へ向かって発見する。
地面に伏せていたのは女性だった。
息も絶え絶えで疲労困憊なのが伺える。
「はあはあ」
「大丈夫ですか……お、おまえは!」
この時きっと俺はアホのように大口を開けて驚いていただろう。
「へいか……パルタ様……」
この女の名前はマリィベル。
貴族の娘で、俺の幼馴染だった。
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