十一話 奴隷、渾身の一撃を叩きこむ
ルテメデ!
化け物の口が大きく開いたかと思うと、島の三割が消滅した。
この時から、俺はやつのことを
「島を食いやがった。本物の怪物だあいつ」
「マスター。ロボ追いつかれそうです。あそこの岩陰に緊急退避します」
身を隠せそうな巨大な岩があったので、ロビーナはそこで停止する。
よし。
ここならしばらく安全だろ。
ズシャーン
岩場ごと粉砕され、地面だったものは海の水で溢れて沼となった。
「ごほっごほっ……ひぃいい……」
無理。無理。無理。
昨日まで影もなかったのに急になんでこんな化け物が現れた。
あいつに放った竜火砲は、この島の中では最大火力。あの兵器で倒せないのは痛かったが、最も絶望すべきなのは入手した経験値が――
つまり俺は、島呑みを絶対に倒せない。
しかもなぜかあいつは俺を狙っていて、逃げても隠れても追ってきて捕食しようとしてきやがる。
(絶望しかない……)
島の脅威に対抗できるようになって、野菜も作ってようやく人間らしい生活が築けてきたと思ったのに。
(このまま、あんな意味不明のやつに奪われるのかよ)
なんとかこの場を過ごして生きていく手段はないかと周囲を見回す。
「……エラー……エ……ラー……」
「おおロビーナ。まだ生きてたか」
どっこいしょ
瓦礫に埋められて足だけ雑草のように飛び出していたロビーナを引っ張り出して救出する。
「げぼっげぼっ。ありがとうございますマスター。げぼぉおおお!」
「相変わらず見た目いいのに、俺より咳汚いな」
「申し訳ありません。ロボは埃苦手なものでして」
「そうか。まあまだあいつ襲ってこないし、ゆっくり吐け」
俺が背中を擦ってやると、ロビーナは首を横に振る。
「いえ。どうやら時間はないようです」
「きやがった」
デ……メ……テ……
島呑みは海を割りながらこっちの方向に近づいてきた。
(ロビーナもこんな調子だし、回避は間に合わない。ならばもう諦めて食われるしかないのか?)
せめて、あいつにかすり傷でもくらわせてやる武器があればたった糸屑のようなでも一筋の希望の光とやらが見えるんだが。
しかしオプシディアン・ゴーレム以上に強固な素材は無い。
――本当に無いのか?
この島に来てから今日までのことを俺は思い出していく内に、ふと違和感を覚えた。
(そういえば、オプシディアン・ゴーレムに殴られても無事だったな)
ワイルドウルフたちに噛まれ続けても、オロチに丸呑みされても、どれほどの高さからかは分からないがおそらく天空から落下しても無傷の存在がいた。
「……なあロビーナ」
「ロボ?」
「提案があるんだが、いいか?」
デ……ル……テ……
島呑みは迫ってくる。おそらくその視線らしき先にいるのはふたりの男女。その異形の巨体からするとあまりに矮小な彼らへ、デビルオルカ《悪魔鯱》の如く波を起こしながら向かっていく。
間近まで接近しても逃げない獲物を前に、島呑みはこれから大好物のご馳走を食す子供のように引き裂きかねんばかりに上顎と下顎を思いっきり開いた。
チクリ
針に刺されたような極小の痛みが生じた。
無視するばかりか気付きもせず、島呑みは捕食を続行する。大地を食い荒らし、海で喉を潤す。その間も、チクリ、チクリ、と痛みは継続している。グシャグシャと岩盤をゼリー状にしながら、獲物の食感がないことを理解する。
また探さねば。どこにいった?
なんらかの方法で見失ったターゲットを再発見しようとした瞬間――
ズパァアアアン
島呑みの顎が弾けた。
《レベルが1万6000上昇します》
《レベルが9700上昇します》
《レベルが1万1003上昇します》
「はははははははは」
「ロボボボボボボボ」
あまりのレベル上昇値に、攻撃を続けながら笑いが止まらなくなっていた。
ようやく危機感を覚えたのか、島呑みは距離をとろうとする。
「逃がすかよ! ロビーナ頼んだ!」
「ガッテン承知」
俺は持っていたロビーナを、投げ槍のモーションで離れた島呑みへぶつける。
《レベルが3万2000上昇します》
「戻ってこいロビーナ」
走りながらロボ浮遊で飛んできたロビーナの脚をキャッチし、そのまままた頭部から遠心力をかけるように回す。
ロビーナが接触した島呑みの一部分。わずかだが、そこが欠けていた。
まさか俺とずっといたこのゴーレム――ロビーナこそ対島呑みの武器へとなるとは。
涙ぐんでいるロビーナ。
「ぐすっ」
「ごめん。今回だけだから許してくれ」
「マスターのお役に立てて、ロボは今、至福の時です。いつもいつも戦闘中は足を引っ張る役立たず、スクラップでしたから」
「……そうか」
なにやらいたく感激しているらしいロビーナは俺に振るわれるごとに笑顔になる。
テ……ル……!
まずい。
島呑みは下顎だと思っていた部分に眼球らしきものを生やして俺たちを見つけると、そのまま体重をかけてプレスしてきた。島を食ってより巨大化して増したこの質量。この程度のレベルじゃ抵抗なんて意味もなく潰されてしまう。
ロビーナは懐から取り出した洗剤付きの雑巾で島呑みの眼球を擦った。
メェエエエ!?
狙いがズレたおかげで、脱出に間に合った。
「ロボにターゲットを攻撃する機能はありませんが、家事なら例外です」
「後は任せろ」
バランスが崩れて立ち上がるのに時間がかかっている。その隙に、俺は連打を叩きこむ。
パルタ・トラキ
職業:【奴隷】
LV:965万3861/∞
能力:HP-1021万6701
MP-980万5457
攻撃-1994万3117
防御-678万2778
速さ-1453万4309
魔力-470万4194
幸運-2111万5353
漲る力を振り絞って
ドガァアアアアアアアアアン!
島呑みの巨体は空中で数回転した後、海へ落下した。そしてもう二度と上がってくることはなかった。
「……あれはなんだ?」
勝利の余韻に浸かっている間、海に浮かんでいる黒い水晶を発見した。
その色は、島呑みの体色に酷似していた。
「分析開始……分析完了。どうやらロボのパーツのようです」
「お前。まだあったのか」
ロビーナは今では五体満足となっていて、もう失っているものはないかと思っていたが。
「新機能が存在していると考えられます。マスター。ロボに組み込んでも、よろしいでしょうか?」
「いいよ」
「了解です」
戦う以外はなんでもできるロビーナ。いや今となっては、戦闘でも必要になった。そんな完璧な彼女が有してない技能などあるだろうか?
(これじゃもうポンコツなんて呼べないな)
むしろ仲間として自分が足を引っ張らないよう努力しなければ。島呑みに荒らされた以上、畑も家も再建しなければならない。生きていくためには、これまで以上に頑張っていかねば。
戦いが終わっても生活は続く。
疲れた体を横にして休めている間にも、自然に将来のことを考えてしまう。
……
「ん?」
海に立ち止まって、いつまでも戻ってこないロビーナ。
心配して駆け寄ろうとした直後。
「ロボォオオオオオオオ!」
「はぁああああああああ!?」
その双眸が輝き、口から砲口を覗かせる。そしてそこから光の柱を出現させた。
ズシュゥゥン
柱は雲を分かち、月を貫いて三日月にしてしまった。
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