七話 奴隷、門番に止められる
ドタドタドタ!
「やばい。やばい。やばい」
現在、全速力で逃亡中。
後ろを振り返ると、黒光りする巨人が地面を揺らしながらこちらを追ってきていた。
「マスター。あのゴーレムに、ロボ呼びかけたいと思います」
「はっ?」
「同じゴーレムです。きっと仲間の声なら話し合いに応じてくれる可能性を計算しました」
「無理に決まってるだろ!?」
俺の注意を振り切って、ロビーナは巨人へ両手を広げて話しかける。
「ゴーレムよ。我は最新型ゴーレム。同族の声に耳を傾け――ロボオオオン!」
「ロビーナぁあああ!」
殴られて吹っ飛ぶロビーナ。
止まらないゴーレムを見て、俺は逃走を続ける。
クソ。
こんなことになるなら、あんなところ入ろうとするんじゃなかった。
――逃走中から一時間前。
「なんだ。これは?」
「未確認の物体を認識。解析に入ります」
今日は島での活動範囲を広げるため朝から探索を行っていたのだが、その途中、見覚えのない洞窟を発見した。
他の自然に生成された洞穴と違い、文字のような模様が刻まれた柱で出入り口が囲まれている。
「解析完了。マスター、この穴は謎の遺跡だと思われます」
「謎のって。相変わらず、分からないことはザックリしてるな」
とはいえ、遺跡か。
もしかしてダンジョンか?
冒険者たちの目指す場所。中には魔物に罠と危険が待ち構えているが、奥には
「けど未発見ならともかく、何人かは既に入り込んできてるしな」
うまい汁は既にすすられてる可能性は高い。
「無駄骨になるくらいなら……うーん。でもな……」
探索を続けたことで色々入手することができた。
特に薬草は負傷の回復に使えて、生存率を大幅に高めたと断言してもいい。それに代用素材が手に入ったことで、あれももうすぐで完成しそうだしな。
たとえ王都のゴミ捨て山でも、今の俺にとっては欲しいものが沢山転がっている。
「他に目ぼしい場所もないし、一度くらい目を通しておくか」
「温度の変化はほとんどありません。遺跡の入口付近には、生命体はいないと思われます」
その言葉を聞いて安心した俺は警戒することなくダンジョンに入る。
カチッ
「んっ?」
石畳の一部が埋もれていくのを感じた途端、ズズズ、と目の前の地面が隆起し始める。
やがて砂煙とともに、黒光りの巨人が出現した。
「オプシディアンゴーレム《黒曜石の巨像》!?」
Aランクの魔物がこんなところにいただなんて。
黒のゴーレムは意志の感じられない冷たい瞳でこちらを敵と認識した。
グシャアン!
運良く足場が崩れて当たらなかった横振りの石拳は、壁に大きなクレーターを形成する。
「マスター。選択肢は?」
「逃げる」
プロの冒険者でも単独じゃまず戦闘しない相手だ。一番の対策は、まず出会わないことと言われる危険度の高い魔物。
「了解。では逃走のための最適手段を――ロボ
ロビーナが床に手を付けると、石畳が変形して俺たちとゴーレムの間を塞ぐ石の壁となった。
これはロビーナが建物や道具を作る機能を応用したものだ。
「これで敵はロボたちを追ってきません」
「いや……」
砕ける石壁。
どうやら時間稼ぎにもならなかったようだ。
ダンジョンから離れる俺たちを瓦礫を踏みつぶしながら黒いゴーレムは追いかけてきた。
そんなこんなでずっと逃げていた俺たちなのだが、とうとうロビーナは空に消えてしまった。
俺も同じ羽目にならないよう必死に両足を動かすが、段々と幅が狭まってきている。
(ハアハア……あいつ疲れないのか?)
こちらが疲労して遅くなるのにも関わらず、ゴーレムは同じペースをずっと守り続けている。
長期戦になればなるほど勝ち目はない。
「なら反撃だ!」
ビュッ
装備していた槍を黒い巨体目掛けてぶん投げた。
ガキンッ
しかし結果は、わずかな破片を作るだけのお粗末なもの。
武器を手放した獲物に、ゴーレムは寡黙を保ったまま距離を縮めてくる。
「勝てないことは、最初から分かってるっつうの」
ギュッ、と地面を強く踏み込むと俺はゴーレムをまた突き放した。
《オプシディアンゴーレムへの攻撃に成功》
《レベルが52上昇しました》
上がったステータスの分、足が速くなり、疲労による減少を差し引いても俺のほうが上回った。
ゴーレムを倒すには、
核があるかぎりはどれだけ傷を負わせても生き続けるうえ、しかも核は硬い内部の中心に位置する。そんなの槍一本で倒そうにも、いつか捕まって潰されるのがオチだ。それにヤツと今の俺とじゃ実力差がありすぎてどれだけ攻撃を入れれば、ゴーレムの一撃を目の前の状態で回避できるようになるのやら。
依然、追い付かれたら終わりの恐怖を背に感じながら俺は逃亡を続ける。
「クッ! もう駄目か」
狭い島の範囲で逃げ続けるにも限界があった。
行き止まりの崖が立っていた。俺は土の山を背に、後ろへ振り返る。
(まだ追ってきてやがる)
俺の期待とは反対に、ゴーレムは俺を見失わなかったようだ。
巨体で風を切りながらの突進。
ガシャァアン!
耳を吹き飛ばすような轟音。
あまりの威力にゴーレムの体は半分埋まった。
グイッグイッ
まだ俺を潰していないことが分かったゴーレムは自分の石体を引き抜こうとする。
グイッ……グイッ……
「?」
「……どうやら引っかかったようだな」
穴から這い出る俺を、埋まってないほうの目で見るゴーレム。
俺があの突進を回避できたのは、近くの地面にあったこの落とし穴を利用したためだ。
「遺跡の番人よ。貴様は知らないが、俺はこの拠点に向かってずっと逃げていたんだ」
おまえをハメるためにな。
未だ土の壁から抜け出せないゴーレムと、俺は余裕を取り戻した状態で対峙する。
「そこは一見柔らかそうな土に見えるが、少し掘ったら粘土の塊なんだ。思いっきり突っ込んだらいくら貴様の力でも容易には脱出できない」
「グッグッ」
「分かっている。その程度じゃ、諦めないってことも」
ガシャンガシャン
拠点の洞窟から、ロビーナが姿を現した。
「マスター。事前の命令通り、別れた場合ロボは拠点へ帰還することを最優先しました」
「よかった。生きていたか」
「はい。このロボ、マスターを置いて先に
「そうか。じゃあロビーナ。俺が書いたもうひとつの設計図の素材、準備してくれ」
「了解です。しかしマスター、あの武器は反応を起こす鉱物が足りないため製造は不可能です」
「それが見つかったんだよ」
俺はポケットからオプシディアンゴーレムの破片を取り出した。
逃げている最中に拾っておいた。
『ロボ作成』
洞窟の前に置いておいた物体に、最後の部品が組み込まれた。
「これはなんだ? って顔してるな。いいぜ。冥途の土産に教えてやる」
かつて錬金術師の開祖と言われるアリスター・クロウリーが、鉱物と薬品と炭を組み合わせたものに一定以上の衝撃を与えると、急激な熱上昇によって爆発が起こることを発見した。彼が在命時には欠点のほうが多く本に理論が乗っているだけだったが、王家ではそのことについて長年研究し、つい最近、実用化の目途が立った。
腕力も武器を扱う技術も魔力を操る術が無くとも、誰しもが竜のブレスに匹敵する一撃を放つことができる。
ドガァアアン!!
高速で放たれた巨大な石球が破裂すると同時に、ゴーレムは粉々になった。
「勝った! 勝った! 勝った!」
「生きていますねロボたち」
「ああ!」
強敵からの生還を喜び合う俺とロビーナ。
しかしそれにしても、なんでこんな危険な魔物がダンジョンにいたんだ? 奥には一体、なにがあるんだ?
頭の隅では、オプシディアンゴーレムが守ろうとした宝の中身が気になっていた。
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