08
白いローブを身に纏い、子犬姿のラズを抱きかかえる。
隣に視線をやれば、濃紺の髪に金色の瞳を持つ青年、アルフがどこか諦めたように腕の中のラズを見つめていた。
魔石獣の大きさが自由自在だとは思っていなかったのだろう。実際、他の魔石獣で可能かと問われれば不明だ。
ラズに関すること以外でも、アルフの常識が通用しないことが多々あったはず。
既にそういうものとして受け入れなければならないと、悟った顔をしていた。
そして、おそらくアルフが求めているのはそんな「理解の範疇を超えた存在」なのだろう。
「(…だからこそ、私にこだわっている。)」
思い出すのは、気を失いそうになりながらも掴んだ手に力を込めて、こちらを見上げた姿。
何かを渇望しているあの目にはひどく覚えがあった。
「………」
「…リゼ?」
無言で見つめられていることに気付いたアルフが、先程教えたばかりの名前を呼ぶ。
返事の代わりに、彼へ手を差し出した。
「掴め。移動する。」
「…もしかして、転移魔法か?」
「あぁ。森の外にとぶ。」
「当たり前のように言うんだな…普通、有り得ないことだっていうのは理解しているのか?」
呆れたように言いながら、差し出された手を軽く握った。
繋がれたことを確認し、足元に魔法を展開する…と同時に視界が切り替わる。
今回は心構えがあったからなのか、アルフが着地時にふらつくことはなかった。
魔力溜まりの外側に出てきたが、森の方を振り返ると、溜まった魔力で辺りが白く染まっている。
「…まさに白森林だな。今度はいつ落ち着くんだ?」
「………」
知っているだろうとでも言うように、アルフが尋ねてくる。
確かに、今までであれば経験則と自身の魔力を流すことで予測ができた。
だが、今の魔力溜まりと以前の魔力溜まりは既に別物だ。
懐中時計を取り込んでいた大樹を破壊したことで在り方が変わった…というより、正常な魔力溜まりに戻った。
今までこの西の森を白森林たらしめていた高濃度の魔力は、突如として外部からもたらされたもので、遺跡へと変化するような魔力ではなかったのだから。
現在、この森を白く染めている魔力は先程の大樹に内包されていたものが霧散しきっていないだけで、おそらく数日でなくなるはず。
安定しては魔力溜まりに逆戻りするようなことは今後起こらないと言える。
ただ、外部からもたらされた魔力に引き摺られるような形でこの辺りに本来存在している魔力が混じっていった為、この森が魔力溜まりであることには変わりがない。
これからは一般的に知られている過程をもって遺跡へと変貌を遂げるだろう。
…というところまで結論を出すが、口にはしない。聞かれたことにのみ答えを出す。
「知らん。」
「……露骨に面倒そうな顔してるな。」
今の魔力溜まりに関しては本当にいつ安定するかなど分からない。その道の研究者や専門家に聞いて欲しい。
そして実際、とても面倒臭いと思っている。
色々と知りたいことがありそうな様子のアルフに、自身の存在の所以を今知られる訳にはいかない。
彼の疑問に逐一応えるつもりが無いことを態度で示す。
「まぁ、ついて来てくれるだけでもありがたいか。取り敢えず街に入る。」
今は質問を重ねても無駄なことを察して、本来の目的に主軸を移す。
歩を進めるアルフの後ろに続きながら、その背を眺める。
「………」
勝手に詮索する分には好きにすれば良い。探って分かるようなことではないのだから。
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