03
コンコン…コン…と、部屋の扉を叩く音がする。
「どうした?キリト。」
部屋の向こう側にいるであろう人物に声をかける。
「失礼します、アルフ様。例のパーティ、開催されるようですがどうしますか?」
扉が開き、栗色の髪の背の高い男が顔を覗かせた。一枚の手紙を片手に、ライトグリーンの瞳で問うようにこちらを見る。
「へぇ…間に合ったのか?」
「どうでしょう?パーティ開催は結構広まってましたので、表向きの行事だけでもやらざるを得なかった可能性もあるかと。」
手紙を受け取り確認する。中身は勿論、招待状だった。
「行ったところで餌にされるだけのような気がするがな。表向きのパーティだけって言うなら尚更参加する意味もない。」
嘲るような笑みを浮かべつつ、招待状を読む。そこには、魔導士との繋がりを築くことを目的とした催しであることが書かれていた。
「相変わらず胡散臭い。参加する奴らは人脈を広げるよりも、優れた魔導士との繋がりがあることを誇示したいというのが大半だろう。…多くの魔導士をこの場に集めて何をするつもりなのか。」
魔導士でない自分に招待状が届いたのも、有
力な魔導士の護衛や知り合いがいる可能性を
踏まえてのことだろう。
正直、パーティ開催を隠れ蓑にした本当の目的については興味があるが。
「気になるのであれば参加しても良いのでは?お供しますよ?」
キリトが首を傾げながら提案する。彼のライトグリーンの瞳を、己の金色の瞳で見つめ返す。
気にかけてくれているのだろう。何せあの日の出来事を説明するきっかけさえ、未だに掴めていないのだから。
目にかかる濃紺の髪を払いながら呟く。
「…人の理から外れたような奴がいれば、楽なんだがな。」
あれは、どれだけの魔導士を集めても出来ることとは思えず、ならば魔物か自然現象か…それさえも結論づけられない。
もしもあらゆる常識を覆す様な存在が現れたならば…全て押し付けてしまえるのに。
「…白の遺跡にでも行ってみるか。」
ふと思いついた場所を口にした。
招待されたパーティについてはひとまず保留することにして、キリトに手紙を返す。
「白の遺跡ですか?そこは、まだ遺跡ではないのに遺跡と呼ばれている魔力溜まりの…?」
手紙を受け取りつつ尋ねてくるキリトに応え
る。
「あぁ。三年前に俺が行った時は、異常なまでの魔力濃度で誰一人として魔力溜まりに入れていなかったが。」
通常、自然界を流れる魔力がある特定の場所に留まり蓄積されると魔力溜まりが発生する。
さらに魔力溜まり中の魔力の流れが安定すると遺跡となり、最期、安定化した魔力が霧散して消滅する。
この一連の流れは小規模な遺跡であっても十数年はかかる。
しかし、白の遺跡は王都郊外の西の森で突如として発現した。
「…まるで、西の森から魔力が湧き出てる感じだったぞ。実際、日に日に濃くなる魔力で西の森が真っ白に見えていたからな。」
「…それで、白森林とも呼ばれているんですよね。今もまだ魔力溜まりの状態ですし、そんなに魔力濃度が高いなら中には入れないと思いますけど、良いんですか?」
確かに、その異常な魔力濃度により白の遺跡とは呼ばれているが、実際はまだ魔力溜まりの状態である。
だが、白の遺跡は発生した時から普通ではなかったからなのか、その後も独特な過程を辿っていた。
「なんでも、ここ一年程魔力が安定している時があるらしい。その時なら誰でも魔力溜まりの中に入れるみたいだな。」
「…?魔力が安定しているなら遺跡になったということでは?」
「いや。突然、魔力溜まりに戻るらしいぞ?運悪くその時に白の遺跡にいた奴は生きて戻ってきてないとか。」
「えっ⁈ちょっと待ってください!そんなとこに突入する気ですかっ⁈」
知っている情報を淡々と並びたてて言うと、やめろとばかりに両肩を掴まれた。
「あぁ。だから、俺が戻らなかったら運が悪かったんだと思ってくれ。」
「嫌ですよっ!そんなこと言うなら行かせません!」
がくがくと両肩を揺らされながら抗議され、
大きい飼い犬を相手にしているような気分になりながらも構わず続ける。
「千年生きている魔導士が魔力溜まりをコントロールしているなんていう噂もあるぞ?白森林の管理者と呼ばれているとか。」
「えぇ…誰か見た人でもいるんですか?あっでも、千年生きている魔導士っていうのは、昔から西の森に関する噂としてありましたね。」
キリトに掴まれていた両肩が解放された。乱れた服装を整えつつ、聞いた噂を思い返す。
実際、西の森に起きた常軌を逸した現象と、昔から語り継がれてきた千年生きている魔導士の存在が結びつけられた結果、「白森林の管理者」の噂がたつようになったことは想像に難くない。
「白森林の管理者は見た目に関する描写が一切なかったから、見たことがある者はいないんだろう。出会ってしまうと生きていられないような存在という可能性もあるが。」
「…いろんな要素が物騒なんですけど。」
若干引いた声音で指摘されるが、思い立ったが吉日とばかりに出かける準備をする。
何も収穫がなければないで構わない。今に始まったことではないのだから。
「はぁ…やっぱり行くんですね…ちゃんと帰ってきてくださいよ?」
「あぁ。死んでも帰ってくるから心配するな。」
念を押して言うキリトに向き直り約束する。
「いや、生きて帰ってきてください!」
的確なツッコミ貰いつつ、本気で引き止められそうになるのを躱して白の遺跡に向かった。
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