第17話 攻略の手前
「あー、そこからだな。俺が詰まったのは」
僕達は迷宮に帰って夕食時、環境が一変したことを話すとゾルさんから最初に返って来たのがその言葉だった。
マグマエリアに辿り着いた僕達は急にそんな環境に出てくるとは思っていなかったので、多少の探索の末に転移台を見つけて帰還した。
あんな所、対策なしに居れる場所ではない。
最悪、脱水症状で倒れるか、ふらついてマグマにドボンである。
故に、ゾルさんからもなんか助言貰えないかなーと話すやそう返って来たけど、そもそもゾルさんってあの迷宮に挑んでたの?
確かに迷宮の場所を教えて貰ったのはゾルさんからだけど。
そう思っているとその疑問が顔に出ていたのかゾルさんはそれについて答えていく。
「昔にあのダンジョンに魔族兵として挑んだことがあるんだよ。
だが、その当時は錬魔という技も知らない頃で大勢の犠牲者を出しながらもなんとか辿り着いた場所が三十七階層のマグマエリアだった」
「そこには何かあったんですか?」
「さあな。だが、何かがあるとされていた。
予想では古代兵器らしきものだそうだが、結局その最下層に行けてないから真意はわからん。
ま、だからそれ以上は俺からお前達にあげられる助言はないってことだ」
「つまりは俺達の実力がそのまま生死に直結するってことだな」
蓮の言葉に思わず納得した。
もう僕達はゾルさんに甘えられる期間は過ぎて、己の頭でなんとかしなきゃいけない時期に差し掛かってるということだ。
それは実力・知恵・勇気とが必要ってことかな。
まぁ、一人じゃどうしようもなかったかもしれないけど、今は一緒に攻略してくれる仲間がいるし。
なんとかなるだろう。
「あ、さすがにもうアイはお留守番だからな。あそこは危ない」
「わかってます。もとよりその予定でしたから」
「えー!? アイは大丈夫だよ! お兄ちゃん達みたいに活躍できる!」
うーむ、案の定ダダをこねてきたな。
しかし、それは想定済み。
時には厳しく接するのが保護者というものです。
「ダメです。アイを連れて行くことは出来ません。我慢してください」
「むぅー!」
アイは僕の言い分に不服なのか頬を膨らませる。
そして、ササっと僕の胡坐の上に座ると可愛らしくおねだりしてきた。
「お兄ちゃん、ダメ?」
「ぐっ......!」
「不味いです! リツさんの心が揺らぎかけてます!」
「まぁ、相手がアイちゃんだしね~」
「ここが踏ん張りどころだよ!」
ヨナ、康太、薫と僕の様子を見て騒ぎ立ててくる。
安心して、僕の自制心はちゃんとしてるから。
にしても、いつの間にこの子はこんなあざとい頼み方を覚えたの?
「やっぱ、こいつロリコンなんじゃ......」
心底引いたような顔で言わないでください、ゾルさん。はっ倒しますよ。
「ダメです! 諦めてください!」
「むぅー、お兄ちゃんのけちんぼ! お兄ちゃんなんか嫌い!」
「ぐはっ!」
そう言うとアイはそそくさと離れていった。
その割にはすぐ隣に座ったけど。
でもなんだろう、心底から嫌われてるわけじゃないのにこの言われただけのダメージ量。
「うん、やっぱアイツはロリコンだ」
「ゾルさん、夕食の後に僕が納得するまで夜の修行を手伝ってもらいますからね!」
「え、やめてよ。それって徹夜コースじゃん......」
そのぐらいのことは受けてもいいはずだ。
それだけのことを言ったと僕が感じたんだから!
そして、僕は夕食を終えるとゾルさんを連行していった。
*****
三日後、僕達はマグマ対策の準備を終えて転移台を利用して37階層にやって来ていた。
具体的な対策は主に蓮の裁縫技術と魔法陣を組み合わせた耐熱衣服が中心で、後は僕が大量生産した陣魔符や薫が採取してきた飲めばしばらく体の中で冷却効果が起きる植物の蜜とかである。
そして、今回の攻略からはアイがお留守番となり、魔物のレベルもだいぶ高くなってきたのでヨナの戦闘は常時セナが務めることになった。
三十七階層は実質休憩階層なので、三十八階層に降りていくとすぐさまこの攻略の面倒さを感じた。
「デスロードじゃん......」
その光景を見て思わず呟いてしまった。
そこにあったのはマグマの上にある鉄骨の幅ぐらいしかない地面の道。
まさか異世界でカ〇ジやらされるとは......。
加えて、空中には燃えたまま生きている鳥系の魔物がいる。
ということは、襲われれば当然終わりなので、すぐさま処理一択ですね。
そして、魔物を遠距離から処理していく。
この時にエイム能力最強のウェンリがいてくれて助かった。
その部屋を抜けていくと今度は足場のような岩がマグマの噴水に合わせて上下している。
それがいくつも連なっており、どうやらタイミングを考えて進めというものらしい。
僕が先頭だって進んでいく途中、それも全員が一つずつの足場に乗ったタイミングで上から数匹の魔物が降って来た。
そいつの特徴を簡単に言えば、翼が生えた闘牛だ。
つまりはこっちは足場が悪い中で、相手は空中を自由に走り回りながら角立てて突っ込んでくるということだ。
「康太!」
「わかってる!」
康太に<挑発>してもらい一斉に数匹の闘牛が向かっていく。
今の魔物のレベルだと康太の防御力でも突破されかねないし、複数ならなおさら。
しかし、各々が対処して事故るよりも一か所に集めて一斉処理の方がいい。
そのためには康太のこちらへの信頼と康太自身の勇気が必要だったが、どうやら無用な心配だったらしい。
ビビりだった前とは大違いだ。
そして、康太に集まった所で、耐熱糸で蓮が周囲に張り巡らせた糸で拘束し、そこに僕とウェンリが魔法で波状攻撃を行って倒し、康太が内側から薙ぎ払っていく。
追加で来た魔物に対しては、薫が熱に強い植物を手のひらで促成して拘束しそのままマグマにダイブさせ、セナが武器を大量に生成して投げ仕留めていった。
そんな調子でマグマエリアをどんどんと突き進んでいった。
その道中にも色々な魔物を倒していくとまたまたおかしなエリアに出た。
中ボスエリアもないまま四十階層を迎えたタイミングで、天に昇っていくマグマの柱を見たのだ。
それも複数。奥の方には太陽のプロミネンスのように炎が湾曲して動いている。
「いよいよ理解し難い場面に出てきたな......」
「耐熱の服で耐えられるかどうかもわからないな」
「さすがに触れるのは不味いよね」
「空気だけで肉が焼けそう」
その光景に各々感想を告げていく。
確かに、今は万全の状態で来たからいいけど、一つでも対策を怠れば体の内側から焼けそうである。
「ねぇ、ここ逆じゃない?」
「そうね。おかしいのはあたし達ね」
女性陣のその言葉に怪訝に思っているとすぐに気が付いた。
それは自分の前髪が天に向かって伸びているのだ。
ということは、マグマが点に上ってるのではなく、僕達の体自体が逆さになっているということ。
光景に目を奪われて気が付かなかったみたいだ。
というか、一体いつの間に逆さに?
「ま、特に視点が変わったわけじゃないし、このまま進めばいいんじゃない?」
「ただこっちに向かって来る魔物は私達と逆さだからまたややこしいけれど」
ウェンリの言葉に視線を進むべき道に送ると確かに逆さに動いてくる燃えたカエルの魔物が。
さらにはマグマを泳いでくる蛇の姿もある。
うっ、これは確かにややこしい。
しかも、上下にマグマの海がありながら、そこを渡っていくための足場は先ほどと同じように上下してるし。ただただいやらしい。
僕達は慎重にこのエリアを抜けていった。
特にウザかったのは天井を泳ぐ蛇で、基本的にマグマに潜っているために魔法を放てばマグマの滴が飛んでくるかもしれないから危険だし、加えて攻撃してくるタイミングが足場が上下した時という姑息さ。
気持ちは死にゲーを一発でクリアした感じであった。
耐熱の対策をしているとはいえ完全に暑さを防げるわけではなく、さらには一歩踏み間違えれば死という場面は酷く集中力を持っていく。
そのため四十階層を抜けた先は全員がしんどそうな顔をしていた。
ほんとこの場面にアイがいなくて安心している。
こんな場面を来させるわけにはいかないし。
というわけで、さすがに休憩をはさんだ。
場所は丁度次の階層に向かうための階段。
ここだけはギミックなくてこんな環境下でも安心して休める場所である。
「ここに十階層ごとの中ボスがいない理由がなんとなく分かった気がする」
「進むだけでもしんどいわ。これなら中ボスの方がいっそ楽だったかもね」
まぁ、セナの言っていることはよくわかる気がする。
今までの中ボスを考えれば、全員で挑める分割かし心に余裕があったしね。
「後で何階層あるんだろう。
まさかここまでマグマエリアが続くなんて思わなくて、熱に強い植物が足りないし」
「さあな。蜘蛛もこの熱じゃ無駄死にしかない。
俺も耐熱の魔法陣を描けるように練習して解けばよかった」
「こんだけ熱かったらすぐに肉も焦げちゃうよ」
「さっきから康太だけ食い気が凄いわね」
とりあえず、軽口が叩けるだけの余裕はありそうだ。
さすがにここまでの疲労度だと次の中ボス前まで行ければ上等かな。
そう思いながら休憩を終え、進んでいった四十四階層。
そこはマグマすらない休憩エリアで近くには転移台もある。
さらには下に続く階段のすぐそばの壁には文字が書かれてあった。
「『ここまで辿り着きし、勇気ある者よ。これより先は神聖なる領域にて、真に力ある者しか革命の意志を託さぬ』だって」
「ゲーム感覚で言えば、ここがラスト臭いよな」
「ダンジョンボスってことか。よくわかる」
「でも、ここを抜ければ僕達は胸張って強くなったと言えるかもね」
僕の言葉に薫、蓮、康太の3人は頷いていく。
この実感が特に強いのは僕達であろう。
役職が役に立たないから、心が弱いからとはみ出し者にされた僕達が力を合わせながらもここまで来た。
それは現時点でも誇っていいことだと思う。
だけど、僕達はもっと先へ進めると証明するためにこの迷宮を攻略するんだ。
「ちょっと? 私達のこと忘れてない?」
「そうね。あたし達も十分に役に立ったでしょ? それにアイちゃんもね」
「そうだね。それじゃあ、次は迷宮攻略と行こう」
そして、僕達は転移台で帰路に着く。
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