第14話 双子の姉妹
「え、何それ? 俺との試合で使うの禁止な」
「マジですかい......」
僕達は迷宮を攻略していたが、途中で帰還用の魔法陣の台座を見つけたので、無理しない程度で村へと戻って来ていた。
そして、ゾルさんの家でメンバーの皆で食事をしていた所、僕の話が出たのでそれを説明すればこんな反応をされた。
しかし、すぐに笑うながら告げる。
「冗談だって、冗談。俺が本気でそんなことするわけねぇだろ?」
「どうだか。最近、瀬戸際に立たされててそれでも師匠としての威厳を見せるために勝つ可能性が高い方を考えていたらポロって出たんじゃないの?」
「待て、俺はそこまでせこい人間じゃないぞ。
どうせやるなら食事から仕込んで『体調管理もできない奴が俺に勝てると思うなよ?』ってマウント取る」
「う、器の小ささが見え隠れしてる......」
ゾルさんの言葉にヨナとウェンリが白い目で見ている。
さすがにその反応にゾルさんは焦ったのか「これも冗談だから! 俺って冗談たくさん言うタイプじゃん?」と必死に言い訳しているが終始その目が変わることはなかった。
あ、こら、野菜の好き嫌いするんじゃないよアイ!
ゾルさんは一つ咳払いすると話題をずらした。
「にしても、いきなり20階層まで行くなんて凄いな。そんなに相手の魔物は弱かったか?」
「そこは僕達が強くなったと褒めて欲しいところですが、実際そっちの可能性の方が高いですね」
僕が10階層のミノタウロスを単独撃破してからそのまま下の階層を目指した。
その道中で切り替えスイッチのギミックや壁のパズルを解くというギミックがあったが、そのどちらも大して悩むことではなかった。
そして、20階層のミノタウロスよりデカいゴブリンキングと取り巻きのホブゴブリンがいたが、僕の戦闘法を組み込んだ戦術で挑んだら秒で終わってしまった。
まぁ、もとより僕達は個人個人でもかなり強かったし、それが徒党を組んで挑めば当然みたいな感じか。
とはいえ、やはり僕の戦闘法は個人流儀が強すぎてもう少し練習が必要であった。
というのも、仕掛けた魔法陣は仕掛けた本人にしかその効果がわからない。
一応、魔法陣を見ればどういう魔法を行うか効果を知れるが、そんなの僕ぐらいの役職でなければ目を向けることもないから、現状は手から炎を出すような本来の魔法の使い方をしている。
あれ? ということは、僕って魔法陣術士から魔術士にクラスチェンジしてない?
いや、そもそも魔法陣を使えたらそりゃもう一律で魔術士か。
そもそも誰でも出来るんだし。
「まぁ、なんであれ、お前達が無事で帰ってきてくれたことが嬉しい。
お前達は俺の家族みたいなものだからな」
ゾルさんが嬉しそうにそう告げてスープを口に運んだ。
そんな姿を見ながら僕達全員が思ったことを蓮が告げる。
「良い話風にしてもさっきの話はチャラにはならないからな」
「グフッ」
「ちょ、汚いわよ!」
「おじさん、泣いちゃいそう......」
*****
夜は深まり、村の皆は寝るまでの僅かな団欒を楽しむ時間。
そんな中、僕はいつも通り外で剣を振るっていた。
どうやら今日は僕一人らしい。
まぁ、大したケガがなかったとはいえ、初めての迷宮でそれなりの精神的疲労は抱えているのかもしれないな。
最初の階層のアリに乗ったゴブリンだって、次階層にいたレッドアーム相手に三組の集団であったけど戦って勝ってたし。
つまり、まともに喰らったらそれなりの痛手を負ってたってことになる。
というか、ユニークと呼ばれる珍しい個体のはずなのにあの迷宮では当たり前のように湧きまくっていたんだけど。リスポーンもしてたし。
どうやら迷宮は本来の生態系とは違うと見た方がいいだろうな。
倒したらちゃんと剥ぎ取れるけど、無限湧きするみたいな。
正しくモ〇ハンやってるよ、僕達。
そんなことを考えながら出来る限り動きの最小限で剣を振るうように意識した。
ある時、セナと話したけど、聞くところで想像するとセナの種族である鬼人族は武士みたいな感じであった。
そして、セナ曰く「本当に強い人はまるで舞っているみたいでした。型を見せる演舞のような」と言っていた。
つまり、それは全く無駄のない動きや攻撃で相手を翻弄し続けたということだと思う。
無意識にしみ込んだ足さばきで、迷いのない太刀筋で、躱すのに最低限の動きで、受け止めるのに最低限の力で、常に相手の先手を取るように思考し続ける。
まぁ、これらのことはセナの話から僕が必要だと思って考え、抽出したものだ。
逆に、これらが出来れば、僕の動きはまるで舞っているように見えるはず。
さらには僕のオリジナル戦闘法を組み合わせる時にも無駄がないような動きを考えなければなー。
こればっかりは試行錯誤の領域になっちゃうけどやるしかない。
それから1時間ほど休憩なしに動き続け、さすがに疲れて寝転がった。
放熱してるはずなのに体温が上がり続けているように熱がこもり、呼吸もよりたくさんの酸素を求めているように何度も肺が上下する。
これはさすがに水分を取らなさ過ぎた。
このままじゃ熱中症でぶっ倒れちゃうよ......ん?
「はい、これ」
「ありがとう」
横を向いて水筒を取ろうとしたらヨナがいたらしく渡してくれた。
とはいえ、ここに来たということは「今日ぐらいは休みなさいよ」とか怒られるのかなぁ。
僕は上体を起こし水筒に口をつけていく。
すると、ヨナはそのまま横に座って質問してきた。
「あんた、なんでそこまで頑張れんの?」
その表情は暗くてよく分からなかったが、どこか思い詰めたような顔に見えた。
「そうだね。最初は僕が足を引っ張らないようにとか、皆のために役に立てるようになろうって思って頑張ってたかな」
「今は違うの?」
「今......というか、今日かな。僕がミノタウロスを一人で倒した時。
あの時、僕が一人で倒したのは皆に僕の新しい技を見せたかったのもあるけど、これを一人で相手できるほど強くなれたってことを認めて欲しかったのかもしれない。
だけど、皆の反応を見たらとっくに僕の頑張りは認めてくれている感じがして、たとえ僕が一人で戦えるほどの実力がなくても皆はありのままを受け止めてくれたって思えたんだ」
「なら、なんで今も頑張ってるのよ」
ヨナは三角座りをすると抱ええている腕に顔を乗せてたまま横を向いてくる。
月明かりに照らされた彼女の目が真剣な目をしていて思わずドキッとした。
とはいえ、今はそんなことに浮かれている雰囲気ではないので、一回大きく息を吐いて気持ちを整えると答える。
「今頑張っているのは、僕の頑張りが皆のどこかで助けになればと思っているからかな。
きっと僕に出来ることは限られている。でも、僕はそれだけで諦めたくない。
僕にとって、皆との出会いはとても大切なことで、僕が大切な人だと思ったり、親切にしてくれた人だったり、助けを求めている人にはすぐにでも力になれるような状態でいたいんだ」
ふと月を見た。
僕にこんな自由な世界を見せてくれた
今の僕はあなたのかけてくれた言葉、背中を押してくれた言葉のおかげで前を向けているよ。
遠い地からだけど、「ありがとう」って言葉を送りたいと思う。
そんなことを思っていると横から視線が届いていた。
どうしたのか、と思ってその方向を見れば、どこか熱ぼったくも感じる潤んだ瞳に、月明かりがわかりやすいほどに薄紅色の頬を見せてくれた。
「よ、ヨナ?」
「え......あ、ごめん。ただ月に見惚れちゃって」
「あ、うん、そうだね。奇麗だもんね」
さすがにそれが僕に向けられた視線っていうのはおこがましかったかな~。
でも、確かに僕の方に向いているような気がしたんだけど、今の雰囲気がそう見せた幻?
少し、自分の羞恥に悶えているとヨナがおもむろに立ち上がった。
そして、数歩後ろに向かって歩いていくと僕に告げる。
「ちょっと、ついてきてもらっていい?」
ヨナの後を歩いていくと彼女はどんどんと森の奥へと向かっていく。
鬱蒼とした木が月明かりを遮り、暗闇の中を歩いているような気分になる。
「どこに向かってるの?」
「私がお気に入りの場所よ。きっと今日は風も無くて奇麗に映るはずだから」
「そんな場所を僕に?」
「いずれあんた達4人に話す予定だけど、ただ今は最初にあんたに聞いて欲しいと思っただけ......リーダーだからね」
ヨナは淡々と言葉を告げていく。
僕達4人が今の今まで知らないということは、彼女にとってそれだけ重要な話ってことだよね。
少しの間、無言の時間が続く。
ヨナはおしゃべりというタイプではないが、気を遣えるほどには相手に話を振ることがある。
つまりは人との距離感の測り方長けていると思われる。
そんな彼女が言葉にしないということは、無理して話さなくてもいいほどに気を遣わなくていい仲になれたということなのだろうか?
「あんた、セナのことどう見えてる?」
「え?」
突然声をかけられたかと思えば、変な質問をされた。
その手の質問は普通「どんな風に思っている」だろう。
どう見えてると聞かれてもセナはセナとしか。
「まさかセナって幽霊じゃないよね?」
「そんなわけないじゃない!」
「なら、セナはセナだよ」
「.....そう」
返事をすると再び黙ってしまった。
するとその時、僕が道中の木に転写していた<気配感知>の魔法陣がこちらに魔物が近づいてくれていることを教えてくれた。
「ヨナ! 戦闘準備に入れ! 複数の魔物がこっちにやってくる!」
「! えぇ、わかった......っ! こんな時に......」
「ヨナ!?」
ヨナは返事をしたかと思うと頭を抱えてふらつき始めた。
それは次第に立っていられなくなるほどで、地面にひざを折っていく。
「大丈夫?」
「見ての通りよ。ごめん......後は任せるわ」
「ヨナ!」
ヨナはそれだけ言い残すと目を閉じて意識を失ってしまった。
しかし、その数秒後に目を覚ますと雰囲気がまるで別人のように変わっていた。
そして、彼女が僕と目を合わせると第一声にこう告げたのだ。
「あれ? 主導権が変わってます?」
紛れもない醸し出す優しい雰囲気と丁寧な口調はセナのものであった。
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