第12話 始まりのメンバー

 現在、僕達はゾルさんの指示によりの奥にある迷宮に向かっていた。

 もともと鬱蒼とした森であったが、その密度がさらに増したかのように広がるはまさに樹海であった。


 しかし、僕達がその森で迷うことは決してない。

 なぜなら、新たな能力を手に入れた薫がこの森の木から直接話を聞いているからだ。


 もちろん、僕や他の皆にはその声は聞こえない。

 なので、知らない人から見ると薫の行動は以上に見えるが、知ってる僕達からすれば彼の楽しそうに話す姿を見ているとこっちまで楽しくなってくる。


 もともと彼は引っ込み思案で大人しかった。

 小柄な身長ということもあったり、花が好きだったりで小学校、中学校で弄られていたらしい。

 だから、僕が蓮に誘われた時も彼は随分どもった話し方をした。

 しかし、今は―――


「ここから北西に進んだ位置にあるみたい。距離はもうすぐだって」


 彼は柔らかい笑みを浮かべるようになった。

 ゾルさんの修行も誰よりも体が弱かった分、一生懸命に受けていてその結果再び会ったレッドアームに独力・ノーダメで制してしまった時は驚いたものだった。


 そして、薫のおかげで迷宮の入り口らしき洞窟を見つけた。

 見た感じ遺跡の入り口半分が地面に埋まっていて、外壁はコケや蔦に覆われて、さらにはその上に一本の木が根を張り巡らして自然の一部のようになっている。


 入り口は人ひとり分ぐらいは入れそうな大きさなので、元の大きさは一体どれぐらいだったのだろうか。

 しかも、この遺跡は一体なんの目的で?


「それじゃ、蓮、頼んでもいい?」


「あぁ、わかった」


 一応、このパーティのリーダーは僕になっているので、僕は索敵に適した蓮に指示を出していく。

 すると、蓮はポケットから一枚の魔法陣が描かれた紙を取り出した。


「来い―――<影蜘蛛ハイドスパイカー>」


 その紙が地面に置かれ、蓮によって呼び出されるとその魔法陣からわらわらと小蜘蛛が大量に出現してきた。

 その蜘蛛はそれぞれ散っていくと迷宮の奥へ奥へとずんずん進んでいく。


 これが蓮の二つ目の能力.....というよりは、特性というべきだろうか。

 というのも、蓮の紙に描いてあった魔法陣は<召喚>の魔法陣である。

 人ではなく魔物を対象とした。


 そして、蓮は糸を操る魔術士で、これは聞いたことなのだけど、ある日一人でに糸で修行をしていたら身の丈ほどの蜘蛛に出会ったらしい。


 最初こそ魔物と思ったが妙に敵意がないので不思議に思っているとその蜘蛛が何やら手足を動かしてたと。


 それがなんらかを伝えたいのだと理解すると蓮はふと薫のようなことを試してみたらしい。

 すると、蓮は蜘蛛限定であるが意思疎通が出来たの事。


 蜘蛛からすれば、蓮の糸は宝のような煌めきの糸に見えたらしく、要は惚れられてしまったらしい。


 また、さらにその蜘蛛の上位種であるアラクネという半蜘蛛半人の間でもモテてしまったらしく、その結果いつでも助けになる召喚の魔法陣の契約対象になってくれたらしいのだ。罪な男だなぁ。


「この先に三つに分岐する道がある」


 そして、その契約対象の蜘蛛とは視覚や音が共有できるらしい。

 なので、人工物の建物など薫の能力が使えない状況下では一番の索敵能力を持つ。


「だが、その前に敵だ」


「なら、おいらにまかせて」


 蓮がそう告げるとオオカミほどの大きさのアリに乗ったゴブリンがこちらに向かって来る。

 その言葉に最初に反応を見せたのは康太であった。


 康太はこのパーティの中で唯一鎧を纏っている。

 なんでも、鍛冶が出来るゾルさんが一から康太に合う鎧を作ってくれたらしいのだ。


 相変わらずあの人は謎である。

 「ただの兵士」と言っていたが、錬魔のバフを抜いても普通に剣筋はやばかったし「将軍」と聞いた方がよほど納得できる。


「アアアアア!」


 ゴブリンが雄たけびを上げながら突撃してくる。

 犬サイズとなったアリの大きさはもはや避けられない速度で車だ突っ込んでくるみたいであった。


「ふんっ!」


「ガアッ!?」


 しかし、真っ直ぐ突進したアリは康太に直撃した瞬間、勢いのまま突撃した影響で頭からひしゃげて弾き返される。


 これが康太が見つけた能力―――ではなく、能力を突き詰めた結果。

 康太の役職は<重壁士>。いわゆるタンクというやつで、相手のガードを受けて攻撃に転じるというもの。


 しかし、康太の場合は錬魔と相まって防御力が桁違いに跳ね上がり、もはやタンクには必須である盾を必要とせず、己の体に当たれば勝手に相手が自滅するのだ。


 タンクの最大攻撃チャンスといえば、盾で相手の攻撃をパリィした直後の相手の僅かな硬直時間。


「おらああああ!」


「ウガッ」


 だが、康太の場合はガードと攻撃を同時に行えるのだ。

 なぜなら、攻撃した相手が固すぎる防御に弾かれて勝手に硬直するから。

 そして、康太の能力の恩恵が生きてくる。


 康太がゾルさんお手製のハンマーでゴブリン一匹を叩き潰すとその武器が地面と接した瞬間、体が浮くような浮遊感に襲われる。


 そう康太の攻撃によるものだ。

 <重壁士>は自分の防御力を上げる代わりに自重も大きくなるのだ。


 それはきっとタンクとしての「相手を引きつけ下がらない」ということからくるかもしれないが、康太の場合はその重さがハンマーの攻撃力に加算されるのだ。

 その結果が僕達の浮遊である。


 康太はもともとこの役職が嫌いだったみたいで、彼は誰よりもデカい図体にもかかわらず心は臆病であった。

 王国にいた時では戦闘時には前にすら出れなかった。


 だから、戦闘職としては最高な<重壁士>だったが、クラスからは失望されていた。

 故に、町の建築の手伝いをしていた。


 だけど、今やそんな彼が率先して前に出て戦っている。

 加えて、錬魔で日々役職の能力で鍛えているせいか大型トラックが突っ込んでも押し勝つ防御力が、それこそ車並みの速さで走れるようになっているので、僕達は「人型戦車」と呼んでいる。

 ただ一つ疑問なのは、ぽっちゃり体型から一向に変わらない点だが。


「ちょっと、ちょっと! 私達の分も残して置いてよね!」


「少しは活躍ぐらいしないとね」


 康太のハンマーの衝撃で未だ宙に浮く、二組のゴブリン&アリに対し、ヨナは突撃し、ウェンリは手に持っていた弓を構える。


 まず攻撃を仕掛けたのはヨナで、彼女は両手に魔法陣を展開させ、そこから2本の剣を取り出した。

 そして、あっという間に一組を細切れにしていく。


 彼女の役職は<創武士>という鬼人族の中でも特別な役職で、その力は魔力がある限り自分の想像し得る武器を作り出すことが出来ること。


 つまりは銃をも作り出すことが出来るのだが、あくまで彼女がその実物とその構造、効果を見たものじゃないと作れないそうだ。


 もう一組が的確な風で作り出した矢で射抜いたのが<精霊弓兵士>のウェンリである。

 ウェンリは周囲に浮かぶ精霊の力を借りて魔法に似て非なる精霊魔法を行使できるのだ。

 それが先ほどの風の矢。


 僕達からすれば、精霊の姿は緑色の光しか見えない。

 本人は小さい人型が見えてるらしく、光の色も風の精霊は緑、炎なら赤、雷なら黄色とあるらしい。

 大精霊は僕達にも見えるらしいけど。


「お兄ちゃん!」


「あぁ、わかってるよ」


 そして、最後のパーティ紹介は今や妹のように愛着が湧いている獣人のアイである。

 アイの役職は<金雷狼>というもので、これは金狼族の共通の役職であるみたいだ。

 その能力は自身に雷を纏わせて、超高速化した状態で攻撃するという単純でありながら強力なもの。


 アイが雷を纏うと普段の金色の髪や尻尾がさらに黄色に近い輝きを放ち、体にはバチッと紫電が走り回っている。

 ゾルさん曰く、それが一時乱獲された原因じゃないかというもの。


 確かに、その輝きと美しさは手元にあったら嬉しいと思うものだろう。

 しかし、それは僕がさせない。

 ま、普通の相手ならアイに秒で倒されるけど。


 そんなアイは壁に向かって雷によって鋭さを増した爪を振るっていく。

 その直後、壁から勢いよく血が吹き出て、何もないところからボトッとトカゲが落ちた。


 この魔物は<インビジブルリザード>。

 要は姿を見せなく出来るトカゲである。


 擬態でないために肉眼でも騙せてしまう所が厄介だが、<魔力探知>をすれば壁に不自然に魔力の塊があるので丸わかりでもある。


 そして、その魔物はヨナの近くの壁の両端にいて、恐らくゴブリン達が陽動している間に姿を消せる利点で強襲しようとしたのだろう。

 蓮の索敵用の小蜘蛛をすり抜けるぐらいだから。


 でも、アイの獣人の鼻と僕が必死に鍛えた錬魔による<魔力探知>までは騙せなかったみたいだね。

 アイが反対側を倒してくれたので、僕もゾルさんからもらった剣ではなく刀を振るうと仕留めていく。


 なぜ刀なのかというと、僕がゾルさんに日本刀の話をすると丁度そこにセナがやってきて「鬼人族の武器は基本刀」と言ったのだ。


 その結果、ゾルさんが刀を作ってくれた。

 ありがとう、ゾルさん! 刀を振るうことはヲタクの夢だったんです!


「ヨナ、少し焦り過ぎ」


「わ、わかってるわよ! ちょっと良いところ見せようとしただけじゃない」


「大丈夫、大丈夫。ヨナは強いって知ってるから」


 現時点で四人の中で僕が一番武器に長けているが、ヨナとは互角ぐらいでゾルさんには未だに一勝もしていない。

 つい最近やっと引き分けたけど。


「きっとそういうことじゃないと思うわよ?」


「ちょ、うるさいわよ! ウェンリ!」


「......?」


 どういう理由が原因かはわからないけど、ヨナがウェンリに弄られている。

 それにともなって、妙な生暖かい視線が僕に降り注ぐんだけど......なにごと?


「ま、最序盤は普通に大丈夫そうみたいだね。

 ひとまず行けるところまで行ってみよう」


 僕の言葉に皆がしたがって歩き出す。

 僕とヨナ、康太が前衛、蓮とアイが中衛、薫とウェンリが後衛。

 これが今の僕達のパーティ構成である。


 王国にいた頃は後衛のさらに後ろの荷物持ちだった僕達が今や率先して迷宮攻略をしようとしている。

 それもこれも全てはゾルさんのおかげ。


 あの時の出会いが確かに僕の運命を変えた。

 一般人と変わらなかった僕は蓮達と関わって、エウリアの後押しがあって、ゾルさんと出会って誰かを守れるぐらいには強くなった。


 しかし、これで満足なんて出来ない。

 今の僕にはゾルさんの夢を手伝うという新たな目標が出来た。

 そのためにはこの力がどこまで必要かわからない以上、鍛え続ける方がいいだろう。


 そして、階層を降りるたびに敵の攻撃力・防御力はともに大きくなっていき、10階層の大広間。

 そこにいるは四本の腕にそれぞれバトルアックスを持ったミノタウロスがいた。


「ねぇ、お願いがあるんだけど。あの相手、僕一人でやっていいかな?」

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