第10話 錬魔の習得
――――お前達には成長の加護の概念ごと忘れてもらう
ウェンリから告げられた言葉は僕達にとってはあまりにも衝撃的であった。
なぜなら、ゲームのようなシステムが存在しているこの世界で、それ利用するなと言っているようなものだからだ。
痛みもあるし、血も出る。
この世界が現実だということは十分に知っているつもりだ。
されどそういうシステムが存在するならそれを使って強くするのが本来の考え方だろう。
しかし、ウェンリは違うと告げる。
「レベルの高い奴は確かに強い。
しかし、それは違う視点から見ればそのレベルの中でしか強くなれないとも捉えられる。
それに異を唱えた人物が
「つまり、それが使えるようになればレベルという概念に囚われずに強くなれるということか?」
蓮の質問にウェンリは「そうね」と頷き、言葉を続けた。
「もちろん、強くなるだったらレベルを上げることも必要。
しかし、レベルを上げていけば上げていくほどそのレベルアップに必要な経験値が増え、次のレベルアップの間には非常の多くの時間が流れていく。
その間にも強くなる方法があるのが錬魔ということね」
な、なるほど......。
「だから、厳密に言えば忘れる必要はないのだけど、その意識が残ってるうちは錬魔習得に支障をきたす可能性があるから一時的に考えないようにして欲しいということになる。
二匹のホーンラビットを弓で得ようとすれば、一匹もホーンラビットは得られないから」
その言い回しは日本の「二兎追うものは一兎も得ず」ということわざに似ているな。
つまりは同時進行すれば習得に時間がかかるから、まずは錬魔の習得に集中しろってことだね。
そして、ウェンリによる錬魔習得の上で絶対に必要な意識について話した。
「それでは、錬魔について話していくが、それで意識して欲しいのが呼吸法のイメージ。
そもそもあたし達は空気中の魔力の素である魔素を呼吸とともに吸収し、それが体内で魔力として返還される。
そして、魔力は魔法によって行使され、行使されたそれは魔素となって空気中に漂う。
これが自然の仕組み。
ただ空気中に溢れているはずの魔素の変換率は基本的に全ての種族共通で悪いから、魔力枯渇という魔法が撃てなくなる現象が起きる」
ここら辺の話は僕達が最初に教えられたこの世界の仕組みである。
魔素は空気と同じようにありふれた存在で、体内の魔力は血液のように巡っていると言われている。
「そこで必要になってくるのがイメージ。
魔法を行使する時に言われたでしょうけど、脳裏に描いたイメージがしっかりしているほど、発動された魔法はイメージ通りの効力を発揮する。
その性質を利用して呼吸に取り入れた魔素をすぐさま魔力に変換したイメージを持ち、それが空っぽの器である体に満たされていくイメージをするの」
僕達はそう言われて早速試してみた。
イメージはなんとなくわかる。
気体の魔素が液体の魔力となるイメージを持ち、それを体中に注いでいくって感じであればいいはず。
それで満たされた後にイメージするのはドラゴン〇ールの気やハ〇ター〇ンターの念みたいな感じになればいいってことでしょ?
ヲタク魂を舐めるなよ!―――と、思ってからすぐに数日が過ぎた。
僕は左腕のケガの分、その修行に専念できるけど、どれだけ長い間瞑想しても特に変化が起きた様子がない。ただ副作用の気持ち悪さが残るだけ。
皆は何らかのイメージが定着したらしく、わずかながらに体の変化を実感しているらしい。
一応、皆からはどんなイメージをしているか聞いたが、結局一番体内の魔力が動いている感覚があったのは自分の方法であった。
そんなある日―――
「がんばっておられますね」
僕が木陰で座りながら修行してるところにヨナがやって来る。
相変わらず面影はセナそっくりだが、雰囲気は全くの別人である。
「頑張ってるけど、全く成果が見られなくて少し凹みそう」
「ふふっ、ほとんどの人がそうですよ。でも、そうですね......」
そう言いながらヨナは何やら考えるような素振りを見せた。もしかして、アドバイスをくれるのかな。
「リツさんが一番求めてるものはなんですか?」
「......え?」
なぜか全く関係ない質問をされた。
いや、もしかしてそれが必要なことなのか?
「そうだな......やっぱ力かな。
僕だけがこれといって特別な魔法がないし、もし力があればもっと皆のために役に立てる気がする」
「なら、それをイメージしてみればいいと思います。
例えば、前のようにリツさんが他の御三方と一緒にレッドアームに遭遇したとしましょう。
その時にその力があれば、対抗できるかもしれませんよね?」
僕は目を閉じるとそのイメージを始めた。
あの時みたいに突然レッドアームが現れて、今度は皆も傷を負っている。
普通のままじゃ太刀打ちできない。
しかし、錬魔を使えば守ることが出来るかもしれない。
今にも仲間にレッドアームが向かっている。
僕は気体の魔素を液体の魔力に......いや、そんなことを考えていては間に合わない。
だったら、触れている外界の魔素が全て液体で、僕は満たすのではなく、常に満たされている。
この体に触れている魔素が全て僕の魔力。
これならば、僕は皆を守ることが出来る。
大切な人が幸せに生きれる世界を!
――――ドスーーーーン!
その瞬間、すぐ背後から聞こえた大きな音によって目を開ける。
すぐに後ろを見てみれば、背後の木が強い圧力を受けたように根元からポッキリ折れていた。
突然の光景に頭の理解が追いつかずにヨナへ目線を映してみれば、ヨナはなぜか数メートルも距離を取った所で眺めていた。
そして、驚いた様子で僕に尋ねてくるのだ。
「......一体、何をイメージしたのですか?」
「何をって......ただ皆がピンチな場面を想像して、その時に魔素を魔力に変換するイメージをしていたら間に合わないと思ったから、最初からこの世界が魔力に満たされていて、その魔力をそのままに身体強化にイメージした瞬間に......って感じで」
「それで木を折ってしまうほどの魔力を生み出すなんて......」
あ、やっぱり、この木をやったのは僕なんだな。
まぁ、ヨナが突然意味もなく木を折るわけないしし当然と言えば当然か。
とはいえ、なんか凄いことやったみたいだな、僕。
まるで実感がないのが悲しい。
すると、ヨナがどこか微笑みながら近づいて来るとその横に座った。
そして、告げてくる。
「リツさんは誰かを守るために強くなれるんですね」
「いや、単に僕は自分が力不足という自覚があるからだよ」
「それでもですよ。
弱いまま
「......?」
「あ、ごめんなさい! 自分のことなので気にしないでください」
そう言われると気になるものだけど......でも、本人がそう言うってことはそれなりの深い事情がありそう。
だから、いつか聞かせてくれるのを待った方がいいよね。
すると、ヨナは話を変えるように先ほどの話題に戻った。
「なんであれ、これでリツさんは錬魔を生み出すイメージが出来ましたね。
やはり何かを得たい時は心に強く思わないとダメですね。
リツさんで言えば『誰かを守りたい』という気持ちが力になったように」
「そう言われるとなんかむず痒いな」
「ふふっ、良いことだと思いますよ」
ヨナは自分のことのように嬉しそうに笑った。
その笑顔の魅力に僕の心がドキッと高鳴らせる。
その熱の上りをなんとか抑えるとヨナに感謝を伝えた。
「ありがとう。アドバイスをくれて」
「いえいえ、大したことはしてないですよ。
ただ頑張っている人は報われて欲しいという願いがあったからそうさせただけです」
「ヨナも大概優しいと思うよ」
「そんなことないですよ。私はただの臆病ですから」
その顔はどこか悲しそうであった。
悔しそうにも見えた。
しかし、その想いの内を知らないから、僕にはかける言葉が見つからなかった。
ヨナさんは立ち上がると僕の前に立った。
そして、ウェンリからの伝言を伝えてくる。
「そういえば、ウェンリさんからもしリツさんがイメージで魔力の変換が出来たのなら、『次はその魔力を鍛えるイメージをしろ』とのことです。
なんでも、魔力の質を高めるのに必要だとか」
「魔力を鍛えるイメージ?」
実際にその変換した魔力を体に纏って筋トレをするなんてのはさすがに違うだろうしな......。
「これは魔力を生み出せた後なら割と簡単ですよ。
イメージは何かをこねる感じです。
私なら丸薬を作るので、その時に複合した材料をこねてますからその動きを参考にしましたね」
「なるほど」
つまりは僕もそのようなイメージをするのが近道ってことかな。
そういえば、日本で料理番組でうどんを作る際に生地をこねてるシーンがあったからそれを参考にしようかな?
いやでも、実際にやったことないから想像でどこまでいけるか。
なら、毎年年始に町内会でやってる餅つき大会のイメージでもしてみようかな。
あれなら、ひっくり返方も打つ方もどっちもやったことあるし。
ヨナのアドバイスを受けてから午前中は魔力変換、午後は魔力をこねるイメージをとにかくした。
それこそ四六時中に近い。
昔にどこかで聞いた自己催眠で火傷の話があったけど、今やってるのはもはやその域に近かった。
つまりはそれが日常風景であるほどに、自分を騙すほどに信じ込むこと。
イメージを定着させるのはかなり難しい。
例えば、自分が空を飛ぶイメージをしても、意識のどこかでは不可能と思っていればその時点でもう成功することはない。
だからこそ、僕は自分の体に起きている変化を常に思考し続けた。
これでみんなの役に立てるってんならやるしかないとただひたすらに。
そのイメージはわずかだが着実に定着していって、手にした石を壊すのに必要な力が日に日に少なくなっていった。
その結果――――二週間がたった頃には大木の幹に指先を食い込ませ、片手で根っこから引っこ抜くまでになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます