第9話 強くなれる方法
「―――で、こうやるとほら、お花の冠なの!」
「凄いね、アイ。僕にもその作り方教えてくれる?」
「うん、いいよ!」
僕が金狼族の少女にアイと名付けてから、この子に懐かれたのか今や教えてもらった花畑で花の冠を作っている。
僕的には特にアイに何かしたという印象はないのだけど、現状あぐらの上に座られてる時点で相当心を許してくれたのだろう。
さっきから揺れる尻尾があごを撫でてるんだよなぁ。
とはいえ、名前を名付けてからまた数日たった今でもアイが他の子供達と遊んだ姿は見たことない。
もしかして、子供の中でも何か複雑な関係があったりするのだろうか?
「なぁ、アイ。友達とは遊ばないのか?」
「ん? 遊んでるよ? それがどうかしたの?」
「なんというか、他の子供と遊んでる姿を見たことなかったからさ。
でも、その言葉を聞けて杞憂だってわかったから安心したよ」
そんなことを言う僕を子供特有の何を考えてるかわからない顔で見つめてくる。
そして、近くの花に目線を移すと自分の気持ちを告げてきた。
「アイはね、アイのお父さんとお母さんがいないの。
十歳の時に貰うはずだった本当の名前も、貰う前に人族に襲われて死んじゃったの」
その言葉はあまりにも衝撃的だった。
だとすれば、どうして人族である僕の名前で......両親を殺して恨んでいてもおかしくないのに。
「でも、昔にお父さんとお母さんが教えてくれた。
人族も悪い人ばかりじゃないって。
優しい人族のおかげで結婚出来てアイがいるって。
だから、アイは......信じたかった。
お兄ちゃん達が悪い人族じゃないって」
「それじゃあ、あの時僕に近づいてきたのって......」
「お兄ちゃん達の中で他の三人のお兄ちゃん達は村の皆の様子を見て大丈夫だと思った。
でも、お兄ちゃんはわからなかった。
大丈夫だと思ったけど、分からなかったからアイに対してどういう反応するかで判断しようと思ったの。
だけどやっぱり、お兄ちゃんは良い人族ってわかったから大丈夫!
それに匂いもお父さんに似てて好きなの!」
満点の笑顔を向けるアイ。
そんなアイの頭を撫でながら、僕はこの子の両親を殺した相手を許せないと思った。
どうして幸せに生きようとしている、それも良い人族もいると信じてくれている優しい両親が幸せに生きていけないのか、と。
この世界はどうにも人族と亜人族との間で酷い人種差別が起きている。
お互いただ幸せに暮らしていきたいだけだろうに。
その時、ゾルさんが教えてくれた夢が脳裏によぎった。
確かに、こんな元気な子が幸せに生きれないなんておかしい話だ。
今なら、エウリアの言葉もよくわかる。
「大丈夫。安心して、アイは幸せに生きていけるよ。なぜなら、僕が守るからね」
僕は勇気づけるようにアイに言葉をかけた。
その言葉にキョトンとしてるのかそのままの顔で聞いてくる。
「......ほんと?」
「もちろん! まぁ、頼りない部分もあるかもしれないけど、アイの名づけ親でもあるわけだしね」
「それじゃあ、家族ってことなの?」
「え、あ、うん......そうなるかな?」
そう返事するとアイはおもむろに立ち上がった。
そして、少し距離を取ると振り返り、ガッと両手を左右に開いた。
「お兄ちゃーん♪」
「がっ」
瞬間、アイはものすごい勢いで走り出すと顔面に向かって抱きついてきた。
その勢いで首がもげるかと思うほどに。
そして、案の定押し倒される。全く前回と同じ形。
しかし、今回はさらに嬉しさが爆発してるせいかいつもより抱きつきが強く息ができない。
「なにやってるのよ、ロリコン」
「~~~~!」
突然、声をかけられる。この声はヨナか? ちょ、待って! 弁解させて!
僕はなんとか顔面にトリモチの如く張り付いたアイを剥がすと上体を起こし、ヨナへと視線を移す。
「ヨナ、聞いてくれ。これには非常に深い理由があるんだ」
「自分がロリコンに目覚めた経緯とか?」
「そんなことを語るつもりは無いし、僕はロリコンじゃない」
「むっつりロリコンの奴は全員そう言うのよ。
安心しなさい、私は寛容的だから」
「僕を安易にロリコンとして認識しないで!」
そんなやり取りが案外受けたのかヨナは笑っていた。
ヨナが笑顔とは......基本ムッとしてるから新鮮だ。
「何よ」
「いや、別に。そういえば、こんな所にどうしたの?」
「ゾルがあんたを呼んで来いって。それじゃあ、とっとと行くから立ちなさい」
そして、僕は立ち上がるとヨナの後ろをついてった。
なぜかアイも一緒についてきてたけど。
村に戻るとふと周りを見渡してみる。
すると、やはりセナの姿はない。
というのも、僕がヨナと会話してからヨナとセナを交互に見るのだが、ついぞその二人集まっているところは見たことなかった。
しかも、前にヨナにセナのことに関して触れたらものすごくはぐらかされた。
二人に何かあるのだろうか。
それから、僕が連れてこられたのはゾルさんの家。
中に入れば、すでに蓮、康太、薫の三人の姿がある。
さらには、ゾルさんと話したことのないエルフの少女の姿が。
「おう、集まったか......ってなんだなんだ? アイも来たのか?」
「うん、アイはお兄ちゃんの家族だから!」
そうアイが元気に言った瞬間、場が一瞬固まった。
そして、ゾルさんがどこか気まずそうに僕を見る。
「リツ、お前......もしかしてロリ―――」
「違います」
「大丈夫、俺は寛容的だから」
「ヨナと同じ事を言わないでください!」
僕が思わず言い返せば「わかってる冗談だ」と屈託のない笑顔で言われた。
本気でからかってたのかよ、この人。
チラッと見れば蓮達3人はどこか生暖かい目をして「わかってる」と告げてきた。
待って、それって僕が正常であるほうだよね? そうと信じるよ!?
そして、僕はゾルの指示で蓮達の横に座らされる。その僕の横にはアイもちょこんと座った。
全員が集まったのをゾルさんが確認した所で話し始めた。
「ここでお前らに集まって貰ったのは他でもない。お前らを強くするためだ」
「「「「!?」」」」
その言葉はあまりに衝撃的だった。
強くしてくれる分にはありがたい。
けど、それで強くなるのは「人族」である僕達だ。
この村の中には僕達を信用しきれていない人達だって未だいる。
そんな僕らを強くするのは余計ないざこざを生む原因にならないだろうか?
そう思っていると分かり切ったようにその質問に対する答えを続けて話してきた。
「お前達の懸念はわかってる。だが、安心しろ。
お前達を強くする上での反対意見はすでに制圧済みだ。
思う存分修行に臨むといい」
制圧ってことは要は前回みたいな「反対意見あるなら腕っぷしで黙らせてみろ」っていう脅しかな?
この人普通にやってること脳筋なんだけど。
「そして、その上でその修行に詳しい先生がいる。ウェンリ、前に」
ゾルさんの指示で前に出たのはまさに黄金律というべき顔立ちをし、特徴的な尖った耳に黄色から黄緑にグラデーションのかかったポニーテール、切れ長の目が僅かな威圧感を与えるクール系エルフであった。
「【ウェンリ=フォレスティア】。ウェンリで構わない。
人族年齢的に言えばお前達の三歳年上ぐらいになるが、話し方も普段通りでいい」
どこか透き通るような声でのサバサバとしたしゃべり方。
出来る女上司みたいだ。
「そして、お前達が最初に学ぶ技は―――錬魔というものだ」
錬魔......王国にいた時の修行でも聞いたことのない技だ。
「これは特別難しい技ではない。
鍛“錬”した“魔”力という意味だからね。
しかし、この技こそが基本にして最強であると言われいる。
その錬魔による恩恵の例を挙げれば、<身体強化>の魔法なしで肉体の筋力向上及び魔法なしで物理・魔法の両方における防御力の向上が出来る。
さらには魔力量を上げることもできる」
なっ!? それじゃあ、魔法なしでの魔力で強化出来るなら、さらには量が増えた魔力で肉体強化魔法使えばさらに強くなれるってことじゃ......。
「それに錬魔の熟練度合によって肉体にかかる強化の幅も違ってくる。
例えば、リツだったね? お前ならその違いがわかるはず。
なぜなら、お前の横にいるアイがその錬魔で身体強化した状態で追いかけっこしてたんだから」
「!」
それじゃあ、あの時僕が<身体強化>を使っても追いつけなかったのは、アイの錬魔による身体強化の方が上回ってたってことなのか。
本人は自覚なさそうだけど。
「ま、それは仕方ないこと。
もともと金狼族は無意識にある程度の領域の錬魔は使えるらしいしから。
それに錬魔による強化は<身体強化>の魔法と違って魔法を発動させているわけじゃない。
使ってるのは己の魔力のみ。
故に、いくら強化しようとも魔力が減ることはない」
それじゃあ、あの時はスタミナ切れで捕まえられなかったけど、仮にスタミナが十分にあったとしても魔法として身体強化してる僕は魔力切れでダウンしてたのか。
「加えて、お前らが負けたというレッドアームだが、あれは負けて当然。
なぜなら、ナックルベアがなんらかの形で錬魔による強化をした姿がユニークと呼ばれるレッドアームなんだからね。
ちなみに、肉体の変化はそれによる影響らしいがそれは魔物だけ」
それじゃあ、僕はレッドアームとアイとで二度もの錬魔による実力の開きがあったのか。
ってことは、ゾルさんとヨナも錬魔を取得してるってことになるよな?
そんな疑問を思ったタイミングでウェンリが「二人も錬魔が使える」と言った。
しかしすぐに、二人は「まだまだ全然」と答えたけど。
レッドアームと対峙したあの時ですらまだまだなのか。
「というわけで、お前達にはこの錬魔における凄さを理解したはずだ。
そして、それを修行するうえでお前達に心がけて欲しいことがある。
それはお前達が召喚時に与えられた『成長の加護』についてだ」
成長の加護? それってレベル的な概念のことを指しているのか?
僕達はこの世界に来てからゲームのようなレベリングシステムで肉体が強化されている。
そして、この世界はそれが当たり前のようで、レベルが高い方が当然強い。
さらにレベルアップで覚える魔法や技もあったり、苦手な魔法であっても努力度で習得したりと色々あるとは聞いている。
そして、ウェンリは僕達に向かって力強く告げた。
「お前達には成長の加護の概念ごと忘れてもらう!」
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