03話.[僕だからでしょ]
「へえ、好きな子ができたから別れてほしい、そう言われたんだね」
「うん、流石に嫌だよと言えなくてさ」
また違う日に同じような話をしていた。
テスト勉強のために集まっているのにこういう話ばかりなのは少し問題と言えるけど、少し整理したかったのもあるから全部が全部悪いわけではなかった。
「でも、それが原因でどんどん悪い方に傾いていったんでしょ?」
「うーん、だけど自分が悪いよね、あっさり別れておきながらさ」
「多分、嫌だと口にしても変わらなかったと思う」
そう……だよな、だってもうその時点で好きな子がいるのだから。
わざわざ学校まで行くか休日のどちらかを使って会わなければならない人間よりも学校に行けば確実に会える人間の方がいいに決まっている。
あと、写真を見させてもらったのも影響していた。
「あっ、私も似たような経験をしたことがあってさっ」
「え、意外だね、振った側じゃないの?」
「それが……振られたんだよね、クリスマスの前日に」
クリスマスに振られるよりはまだマシだろうか……ではないよな、振られたという事実だけでどうしようもない状態になるから。
とはいえ、中学校を卒業して楽しく過ごしていたところで言われたから思い切り高校生活に影響が出たことになるけど。
まあ、言う側もタイミングの難しさというのがあるのだと思う。
だからついついそういうタイミングになりがちというか、連休が始まってしまえば気をつけている限り振った相手と会わなくて済むからね。
「僕はそれと多数の失敗が影響してこの世ではないどこかにいこうとしたんだけど失敗してしまってね」
「じゃあ私の方がまだ強いね、死にたいとは思わなかったから」
「そもそも僕はこの高校で最弱だからね、僕より弱い人なんてここにはいないさ」
もしかしたら似たようなことを考えている人もいるかもしれないけど、実行しようとする人はほとんどいないだろうから僕が最弱でいい。
それよりも自分と関わってくれている人以外はどうでもいいと答えるのが正しいのかもしれないけども。
余計なところにまでは意識を割いていられない、そもそも僕がそこまで上手くできる人間なら何度も言うようにあんなことはしていないのだ。
「さ、勉強をしようか、せっかく一緒に六反さんがやってくれているんだからね」
「……この数日で染谷の方ができると分かっちゃったわけだけど」
「関係ないよ、やる気もアップするからね」
一年生の夏現在までずっとひとりでいたわけだけど、それでもその間ずっと勉強をしてきたというわけではないから頭がいいわけではなかった。
そのため、聞かれても大して役に立てないというのは残念なところだ。
なんでもすると言ったくせにあれもこれも僕には無理ということになったら言葉の価値がなくなる。
「染谷は夏休み、どうするの?」
「家族と仲良くないから旅行とかそういうのは全くないよ」
掃除とか課題とかお散歩とかできてもそれぐらいだった。
それでもつまらないと感じたことはない――は嘘で、前にも言ったようにお喋り大好き人間だから退屈な時間だった。
色々なことが重なって学校があまり好きではなかった自分ですらこれなら学校に通えていた方がよかったと考えてしまったぐらいだからね。
「私はお盆付近になったら親戚の家に行くよ、でも、それ以外は暇だからたまにでいいから遊ぼうよ」
「それはふたりきりで?」
「まあ、それでもいいし、綾と薮崎を誘うのもいいよ?」
複数人はまだ避けたい、けど、ふたりきりでなんて言ったら多分悪い方に傾く。
あれから薮崎君との時間を重ねられていないというのも問題だった。
異性である彼女が来てくれているのならと言うより、他人が来てくれているのならいいとかそういう話でもない。
夏休み開始までになんとかしてみると決めたのになにもできていないまま終わりそうになってしまっているのをよしとはできないのだ。
「先に薮崎君と仲良くしてからでもいいかな?」
「ん?」
「先に薮崎君と仲良くするってこの前決めたんだよ、だから自分が言ったことを守るために行動をしたくて」
「え、なにか勘違いしていない? 私は別に協力しているだけで染谷自身にはあんまり興味はないんだけど……」
「そうだよね、じゃあいいよね」
だが、松苗さんが薮崎君といたがってるから簡単にはいかないのも確かだった。
薮崎君も嫌がっているわけではないみたいで、一緒にいるから邪魔をするべきではないという状態で。
「あ、もしかしてこうして一緒にいるから勘違いしてしまったとか? あはは、染谷も可愛いところがあるじゃん」
なにを言ったらいいのか分からなくなったからそっかとだけ返して手元に意識を向けた。
なんか変な勘違いをされてしまったけど女の子としてはこれぐらいの方がいいか。
異性には警戒をしておくぐらいでいい、なにかが起きてしまってからでは遅いからそういうことになる。
告白して振られて逆ギレをする人間だっていると幼馴染からは聞いたことがあるから尚更そう思う。
「あ、ちょ、怒っちゃった?」
「ううん、ちょっと考え事をしていただけだよ」
大丈夫、僕は簡単にそういう意味で好きになったりはしない。
そのため、いてくれるということなら安心していてほしかった。
「薮崎君――え、なにその顔……」
嫌そうな顔でも、嬉しそうな顔でもない、なんとも言えない顔でこちらを見てきている。
「いや、やっと来たな、と」
「でも、松苗さんと楽しくやれていたよね?」
「あれが楽しそうに見えたか? ふっ、ひとりでいた弊害ってのが出ているんだな」
「ちょ、なんかごめん……」
友達のことを聞いてみたら他のクラスに数人いると教えてくれた、普段教室から移動していなかったのは面倒くさかったからだそうだ。
で、全く来ないものだから昨日は心配になって突撃してきたらしい。
ちなみに女の子ふたりと男の子のふたりという贅沢な感じだった。
「どちらかと言えばの話で、俺には……他に好きな女子がいるんだよ」
「それはその友達のどちらかって……ことだよね?」
「まあな、六反と同じくっきり言ってくるけど一緒にいた時間の長さが違うからさ」
彼もそうだけど大して時間も重ねていないこちらに色々と話しすぎだ。
「教えてくれてありがとう、はいこれお礼のジュース」
「ど、どこから出しているのか分からないけど、ありがとな」
だからまあこちらが強制的に終わらせてしまえばいい。
悪い雰囲気にはならないから少し頑張ろうと思う。
まあ、この子達が話すことでなんとか整理をして前に進んでいるということであれば逆効果なことをしていることになるけど……。
「染谷には六反の方がよさそうだな、はっきりと言われた方が嬉しそうだ」
「あー……」
求めていたことだからあの子は正しいことをしてくれただけだけど、それでもはっきりとなし判定されると引っかかることになると初めて知った。
関わってくれる女の子はこれまで幼馴染しかいなかったからそういう機会もあまりなかった。
なんだろう、同じようなことをしてきていたけど幼馴染バージョンは冗談みたいな感じだったからそんなに影響を受けていなかったのだ。
「ん? おいおい、まさか喋り始めたばかりなのに告白をして振られたとか……」
「似たようなものかな」
「ま、まあ、女子はあいつだけってわけじゃないし、気にするなよっ」
「ありがとう、元気を貰えたよ」
あの誘いの件はどうなるのだろうか。
あの子の中の僕は一緒にいてもらえるだけで勘違いしてしまうような人間になっているから、普通なら問題になることを避けるためにやめるはずだ。
元々期待はしていなかったから遊べなくなっても構わない……ということにするしかないよね。
「怜央ー、ん? 誰その子?」
好きな子と言うぐらいだからそりゃある程度の仲ということになる。
名前で呼んでもらえて羨ましい、僕なんか両親からすらも名前で呼ばれないから尚更そう感じる。
振られてからがイカれていただけでそれまでは僕なりに楽しくやれていたのにどうして僕は家族と仲良くなれなかったのだろうか、そして、仲良くやれていない割にはちゃんと支えてきてもらえていたのだろうか。
いやまあ、親として放置、放棄はできないから仕方がなくとは分かっているけど、もう少しぐらい悪意とかが含まれていてもおかしくはないはずなのに……。
「俺の友達の染谷だ、最近話し始めたばかりだけどな」
「ほーん、なんか怜央の友達っぽくないね、教室の端っこで読書をしていそう」
「お、おい」
「じゃあこれで、話を聞いてくれてありがとう」
本当に申し訳ない、自分と同じでひとりぼっちだなんて考えてしまったことを猛烈に反省している。
僕がこの高校で最弱なのだからそんなことはそもそもありえなかったのだ。
「あ、いたっ、やっぱりこの前の怒っていたんでしょっ」
「テスト、頑張ろう」
「え? そりゃまあ頑張るけど……じゃなくて! なに避けてるの!」
「え、避けてた? 朝も普通に会話をしたけど……」
松苗さんともしたから最近で言えば普通のことしかしていない。
ちょっとの変化を異様に気にする子であれば相手をさせてもらうのは大変だ。
「これまではずっと教室で過ごしてきたでしょ」
「ああ、それは薮崎君に用があったからだよ」
彼こそほとんど教室にいたのに今日に限っていなくて探すことになった。
先程友達が気づけたようにすぐ近くの場所にいてくれたから疲れたりはしなかったけど、なんか上手くいかないものだなと。
「あーはいはい、薮崎と仲良くしてからじゃないと駄目なんだっけ」
「自分が決めたことを守りたいんだ」
動くことができればそれでいい、終わった後にだけど動けたしなと呟くことができるのであれば十分だ。
逆に終業式の日までにしておいてよかった、できもしない、または相手に迷惑をかけるだけのこれを続けることはできないから。
口先だけなら人間はなんとでも言えるけど、何故これまでそうなっていたのかということが動いてみればすぐに分かるものだ。
「でもさ、なんかその割には違う子が来たタイミングで離れていたみたいだけど?」
「邪魔をしたくなかったんだ」
「ふーん、それならこれから何回も近づくことについてはどう考えているの?」
「はは、六反さんは松苗さんだけではなく薮崎君の部下にもなったのかな?」
と言うより、僕のすることのほとんどが気に入らないということか。
まあ、アレをしてからすぐのときにあったやる気も失いつつあるし、似合わないことをしているのは自分でも分かっているからいいけど。
やっぱり駄目だね、どこまでいっても僕は僕だからなにも変わらないのだ。
「違う、いちいち邪魔をしたくないとか迷惑をかけたくないとか考えるのがおかしいと言いたいの、相手の気持ちなんかなにも分からないでしょ」
「それでも気になるものだよ、六反さんは気にせずに行けるのかもしれないけどさ」
「は? 私だって気になるものは気になるよ、でも、勝手に悪く考えて自分ひとりだけ距離を作ったところで寂しいだけだから……さ」
「六反さんってどうしたいの? じゃないや、僕はどうきみと接すればいいの? なにが正解なの? なんにも分からないんだ」
普通に相手をするのが正解なのか、相手のことを考えて物理的に距離を作ることが正解なのか、見極める発言をされたときからずっと……。
あれがなかったらアレのパワーで積極的に行動することができた、でも、なかったときの話をしたところで妄想でしかないから意味がない。
「ただ単純に気に入らないということならはっきりと言ってよ」
「……気に入らない相手と勉強なんか一緒にしないでしょ」
「でもさ、あれは僕がなんでもするって言ったからでしょ?」
「『なんでもするって言ったよね?』って誘ったわけでもないでしょ」
それなら見極めるためにしているのかと聞いてみても彼女は首を振っただけだ。
「友達になってくれたから?」
「はぁ、それしかないでしょ」
「そっか、じゃあ変なことを言ってごめん」
もう一度テストを頑張ろうと言って彼女とは別れた。
自分の席に着けたらなんかほっとした。
「小夏とは仲良くできてる?」
「うーん、ちょっと難しいかな」
強気には元々対応できないけどもっとはっきりしてくれないと困る。
だけど幼馴染に振られてしまったのも元はと言えばこういうところからきているわけだ。
いやでも、本当に幼馴染と特別な関係でいられたときは楽しかったのになあ。
「でも、染谷くんと小夏なら大丈夫だよ」
「ありがとう」
「最近は少し変わった気がするからこっちも見ているのちょっと楽しいんだ、だからこっちこそありがとね」
とりあえず目の前の授業に集中をして、放課後になったらいつも通り教室でテスト勉強を始めた。
家はまだまだ苦手だ、それに比べれば教室の方がマシだからここに残ることも自然と多くなる。
「見ているって見ていないけどね」
休み時間は他の友達と過ごすし、放課後になったらすぐに出ていってしまうあの子が見られているわけがない。
僕達も放課後に集まるのがメインだから休み時間の間に仲を深められているわけではないというのも影響している。
「ん? なんの話?」
「ああ、松苗さんが六反さんのことについて話していてね」
「綾が? あの子最近はあんまり一緒にいてくれていないのになにを……」
ただまあ、彼女は少しだけ大袈裟なところがあるから少し信じられない。
一緒に登校していても、集まって会話をしていても一ミリぐらいの変化があればなにかを言ってきそうな怖さがある。
「染谷が言っていたって言わないから教えてよ」
「んー、なんか六反さんがちょっと変わった気がして見ているのが楽しいんだって」
「私が? うーん、染谷といるぐらいの変化しかないけど」
「相手が僕だからでしょ、なんで親友はあの子のところに何度も行くんだろうと気になるのかもしれないね」
「はぁ、またそういうのか」
彼女が来てくれるのはありがたいけどついつい話してしまうのが……。
くそ、お喋りが楽しすぎる、なんでこんな人間性になってしまったのか。
普通家族と仲良くできていないのであればお喋りは嫌いになるはずなのに、僕はあれか、天邪鬼だったということか。
「いきなり言われても困るだろうけど僕は喋ることが大好きなんだ、だから六反さんが来てくれるとついつい話しかけてしまうんだよ」
「いい内容でならいいけど染谷のはマイナス発言だからね」
「これからは直すなんて言えないけど、やっぱりこれからも相手をしてほしいんだ」
「だからいいってそれは、友達になってくれって頼まれて私が受け入れたんだから」
見極めるとか近づけさせないとかあれはどこにいってしまったのだろうか、いまだって松苗さんのことを出したのにこちらについてはなにも言わなかった。
「あとね、勘違いしてほしくないのは本当だけど誘ったのは試すためとかじゃないから勘違いしないでよ」
「優しいんだね、いきなり変わった気持ちが悪い相手にさ」
「……やっぱり怒っているよね」
「いや、女の子ならあれぐらいの態度でいてほしい、信用できない相手には警戒するぐらいがいいんだよ」
怒っている怒っていない怒っている――このようにずっと続けられれば彼女とは一緒にいられるような気がした、が、流石にそろそろ自分がうざくなってきたからこのことを出すのはもう二度としないと決めた。
「よし、やろう」
「うん、あ、終わったらかき氷食べに行こ」
「はは、分かった」
ちゃんと反省することは大切だけどなにかがある度に責めるばかりで自分へのご褒美というのを全く与えていなかったからいいかもしれない。
というか、自分が駄目だとか迷惑だとかそんなことばかり考えていたらそりゃ暗くもなるし、この世から去りたくもなるものだ。
でも、言うだけ詐欺ではなく実行にまで移せた点だけは褒められるか。
そのご褒美がおじさんと会えたことや、六反さんと一緒にいられるようになったということなら最高だった。
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